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そろそろ働き過ぎをやめて休暇の取り方を見直してみませんか? ニューヨーカーの有給休暇とその過ごし方

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
休日のイメージ。郊外には広い庭付きの家が多く自宅のプールで過ごす家族も多い。(写真:アフロ)

今回から本コラムを執筆することになった。普段の取材活動やニューヨーク生活で見聞きしたことや感じたことなどの中からいくつか、現地の空気感と共にお伝えできれば幸いだ。

日本の学校はもうすぐ夏休み。社会人もお盆休みというものが待っているから、その前後で夏休み計画を立てている人も多いのではなかろうか。

中には、「仕事が山積みになって夏休みなんて到底無理」な人もいることだろう(かつての私がそうであったように…)。

ここアメリカでは休暇の取り方は人それぞれ。EU諸国の人に比べて休暇を取っていないと言われるアメリカ人だが、私の周りを見回してみると、それでも日本人よりはうまくやりくりしながら休暇をとっているようだ。

(参考:EU諸国では労働法で年間4週間の有給休暇が取ることを義務づけているが、アメリカには有給を義務づける法律はない

今回は、雇用する側もされる側も両方参考にしてほしい、アメリカの休暇制度と休みの過ごし方を紹介する。

好きなだけ休める「無制限休暇」

IT企業で働くEさんの例

Eさん(30代女性)とはある取材で知り合った。彼女はかつてグーグル本社でプロジェクトマネージャーとして働いてきた才女。その後ニューヨークに移り転職、現在はEコマースの会社(スタートアップ)でプロダクトマネージャーとして働いている。

彼女は正社員でありながら今年に入って2ヵ月もの長期休暇をもらい、その間自身で猫カフェまでオープンした。それが成し得たのは、勤務先のEコマースの会社が「無制限休暇制度」というものを採用し、従業員に提供しているからである。

無制限休暇制度とはつまり、休みたいだけ休んでよい有給休暇のこと。そんな夢のような制度がアメリカにはあったのかと驚いていると、Eさん曰く、若いIT企業(英語でYoung Tech Companies)で続々と採用されている比較的新しい休暇制度らしい(企業によっては、休暇方針を設けていないNo Vacation Policyとも呼ばれる)。

誰もが知るNetflix、Linkedin、Evernoteなど、錚々たる企業が名を連ね、それに続けと起業したばかりの若い会社も採用し始めている。

その休暇制度、言わずもがな従業員にとっては健康保険や確定拠出年金などと並ぶ魅力的な従業員給付の一つになっている。また離職率の高いアメリカにおいて(特に若い才能の取り合いになっているIT業界ではなおさら)、会社の魅力としてアピールでき、従業員の離職を防ぐ効果も高いとか。

また、企業側にとっては事前に有給休暇日数を決めないことによって、有給休暇の責務を免除できるということも利点の一つである。例えば、その従業員が退職した場合に、使わなかった有給休暇分の支払いをする必要がないからだ。

さて、Eさんがオープンした猫カフェのその後のことだが、ここは里親探しの場所も兼ねており、オープン以来約30匹もの猫にもらい手が見つかるなど繁盛している。2ヵ月の休暇を経て4月末に本職に復帰したEさんは、現在本職の会社に早めに出社し、午後4時には退社、猫カフェに移動するなど忙しく行き来している。ただしこのせわしなく働く日々も、猫カフェのマネージャーが見つかるまでとのことだった。

(参照:Eさんを取材したLifehacker日本語版の記事

Eさんが無制限休暇中にオープンした猫カフェ(Photo: Kasumi Abe)
Eさんが無制限休暇中にオープンした猫カフェ(Photo: Kasumi Abe)

柔軟にアレンジできる「フレックス休暇」

人権擁護団体で働くSさんの例

日本でもフレックス休暇という言葉をたまに聞くが、次の事例はさらにフレキシブル度が増したものだ。

私の長年の友人Sさん(50代女性)は、誰もが知る国際的な人権擁護機関のニューヨーク本部で働いている(こちらも才女)。彼女は会う度に、最近休み中にしたことや次の長期休暇計画などについて、目をキラキラ輝かせながら語ってくれる。

Sさんが働く人権擁護機関が入るオフィスビル(Photo: Kasumi Abe)
Sさんが働く人権擁護機関が入るオフィスビル(Photo: Kasumi Abe)

それもそうだ。彼女が働く機関の休暇制度の充実っぷりがすごい。その機関では、土・日曜日、祭日、病気欠勤日はもちろんのこと、それ以外にも有給休暇は毎月2.5日ある。それらを毎月定期的に使ってもいいし、1年間(もしくはそれ以上)使わずに貯めておいて後でまとめて休みを取ってもよいことになっている(その場合は最大6週間まで休める)。

またそれとは別に、「ワーク&ライフ・プログラム」という休暇制度も設けられている。これは何かというと、毎日45分間余分に働きそれを9日間連続で続けると、10日目は休んでもよいというものだ。例えば、月曜日から始めたとして土日を除いて9日間そのように働けば、翌週金曜日に丸1日休めるのだ。

Sさんはこれらの休暇制度を利用して、昨年の夏の3ヵ月は月曜日と金曜日が休みの「週休4日制」を実現。今年は隔週で「週休3日制」にするのだとか。2年前に結婚したばかりのSさん。その休暇の過ごし方は、遠くに出掛けることもなく最愛の夫と自宅や近所のビーチでゆっくりと過ごすか、そうでなければ広い自宅のバックヤードに友人を呼んでバーベーキューパーティーを開催するかのどちらかだという。

Sさんが休暇中によく遊びに行く近所のビーチ(Photo: Kasumi Abe)
Sさんが休暇中によく遊びに行く近所のビーチ(Photo: Kasumi Abe)

“Work hard, play hard”

たくさん働きたくさん遊ぶ

ここで上げた事例はほんの一部だが、ニューヨークの会社ではほかにも特筆すべき休暇制度がまだまだある。

例えば私が以前働いた会社では年に1度「Love休暇」なるものがあった。これは、夫婦や恋人のみならず、大切だと思っている友人も含め、その人と一緒に過ごすために丸1日休みと100ドルがもらえるというものだった。また、同じ建物をシェアしていた別の会社で、休暇を取った従業員に1000ドル前後の報酬を与える制度を設けているところもあった。

最近では、「To Do List」(やることリスト)に替わって「Break List」(休憩リスト)を作ることが、いかに仕事の効率やモチベーションを上げるために必要かということも注目されてきている。

日本人もアメリカ人も、一生懸命に働くためには、一生懸命に休暇を取ることが必要だ。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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