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生き残りをかけ銀行も進化。カフェ&コワーキングを備えた「キャピタルワン・バンク」が全米で拡大中

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
入り口入ってすぐがATMコーナー、その向こうがカフェ

数ヵ月前、ニューヨークはマンハッタンの大通り、ブロードウェイを歩きながら「あれ、こんなところにカフェなんてあったっけ?」と立ち止まったことがある。その正体とは純粋なカフェではなく、カフェと合体した“普通でない銀行”だった。

1階カフェ横のスペース。「Welcome to a new way of banking」(新しいタイプの銀行へようこそ)のメッセージが掲げられている
1階カフェ横のスペース。「Welcome to a new way of banking」(新しいタイプの銀行へようこそ)のメッセージが掲げられている

米銀行大手「Capital One」(本社バージニア)がカフェとコワーキングスペースを併設し、「Capital One bank Cafe」「Capital One 360 cafes」(*)として全米に展開している。

米『Business Insider』誌では今月、「Wifi、コワーキングスペース、ファイナンシャルコーチ...これらすべてを無料で提供し、コーヒーの飲める銀行が全米で拡大中」として、キャピタルワン銀行を大きく取り上げた。

参照記事

テクノロジーの進化と共に成長したミレニアル世代が台頭する中、Scratch(Viacomの子会社)が行った調査では、同世代の75%近くが、全米に展開している地域密着型の大手銀行や金融機関よりGoogle、Apple、PayPal、SquareなどIT企業からの財政サービスの方により期待すると答えていることがわかっている。

若者の銀行離れは今後もさらに進むと予想され、ミレニアル世代をいかに従来の店舗スタイルの銀行や金融機関に取り込むかが今後の生き残りをかけるとして、金融業界では専門家らが頭を捻りながら試行錯誤している。そうして生み出されたのが、新しい銀行の形である「Capital One bank Cafe」(店舗によっては「Capital One 360 cafes」)だった。

(*)「Capital One bank Cafe」と「Capital One 360 cafes」の違いは、前者がATMのみならずバンカーなどの専門家が常駐し金融のフルサービスを提供しているのに対して、後者は提供している金融サービスが限られているということ。

キャピタルワン銀行・ユニオンスクエア店の1階。「Peet’s Coffee」とパートナーシップを結び、本格的なコーヒーを提供している
キャピタルワン銀行・ユニオンスクエア店の1階。「Peet’s Coffee」とパートナーシップを結び、本格的なコーヒーを提供している

ただの銀行では生き残れない

「これまで銀行というのは何もしなくても利用客が来るところだったが、今後は銀行が顧客に対して、積極的にアプローチをする時代」と語るのは、キャピタルワン銀行ニューヨーク・ユニオンスクエア支店で働くジェファーソン・ゴンザレスさん。

通常金融機関では、(ビジネス目的だと特に)お互い身構えてしまいがち。しかしカフェスペースを設けたことで、「リラックス」「ストレスフリー」の環境が整えられているという。

1階のカフェコーナー
1階のカフェコーナー

キャピタルワン銀行は、全米に812支店を擁する。その中で、カフェを併設しているのは20支店弱とまだ数えるほど。同ユニオンスクエア支店がカフェを併設してオープンしたのは昨年7月のこと。ほかの多くの支店でも今後、改造プランが着々と進められている。

2階はコワーキングスペース

コーヒーカップを持ってゴンザレスさんに連れられ2階へ上がった。銀行の窓口や相談用の個室があるほか、清潔で見渡しのよいコワーキングスペースが広がっている。真ん中には、iPadが備え付けられたテーブルが鎮座していた。

2階でiPadを使っていた一般利用客のアレンさん。同銀行の口座を持っており、iPadスペースを日常的に活用。「すごく満足している」と語った
2階でiPadを使っていた一般利用客のアレンさん。同銀行の口座を持っており、iPadスペースを日常的に活用。「すごく満足している」と語った

「iPadやWifiは、銀行に口座を持っていない方でも無料で使えますし、ラップトップを持参すれば、無料でコワーキングスペースとして使えます。そして仕事中、何らかの金融上の問題に直面することがあれば、いつでも専門家にお尋ねください。もちろんこれも無料です」(ゴンザレスさん)

2階は、清潔で明るく快適なコワーキングスペース&金融スペース。居心地が良すぎて思わず長居してしまいそう
2階は、清潔で明るく快適なコワーキングスペース&金融スペース。居心地が良すぎて思わず長居してしまいそう
別の角度から(奥が金融スペース)
別の角度から(奥が金融スペース)

ニューヨーク在住のレストラン経営者、トドロキ・マサヒコさんはCapital Oneの口座保持者で、このスペースを利用する一人。

「この銀行に口座を持った理由は、オフィスに一番近かったから。銀行でコーヒーや紅茶が飲めて、銀行員も親切ですごくフレンドリー。満足しています」と語る。自身で定期開催しているストリートイベント「JAPAN FES」のスポンサー契約を同銀行と交渉中だとして、この日はミーティングでコワーキングスペースを使っていた。

1階にあるATM。ド派手な照明デザインが、これまでの銀行のイメージを覆す
1階にあるATM。ド派手な照明デザインが、これまでの銀行のイメージを覆す

日本人の感覚からすると、口座保持者ならまだしも、口座も持っていないのに、タダで何時間も居座ることに少々気が引けるかもしれないが、ここはアメリカ。彼らの言う「ウエルカム」に裏の意味などはないので、心配や遠慮はいっさい無用だ。

「ぜひまた、ゆっくり来てください」と、アポなしの訪問だったにも関わらず笑顔で見送ってくれたゴンザレスさん。実はこのユニオンスクエア支店があるエリアには数ブロック内に金融機関が密集しており、同支店から道を挟んだ真向かいには、筆者がメインで使っている他行もある。しかし、カスタマーフレンドリーなサービスがフル装備で、このような最高のおもてなしをしてくれる方に靡かない理由はないなと、同行を後にして銀行密集エリアを歩きながらそう感じた。

(All photos and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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