「みんなと違う」からメタルやロックファンはいじめられる?北欧ノルウェーの社会問題
北欧にもいじめはある
北欧といえば、素敵でかわいいイメージが日本のメディアでは先行しがちだが、どの国にもいじめ問題というのはある。「世界で最も幸福度の高い国」、「世界で最も住みやすい国」など、世界ランキングでトップ常連国となっているノルウェーでも同様だ。
ノルウェーの教育管理局の調査によると、小学校高学年(10歳~)から高校に通う約6万3000人の生徒が、日常的に学校で月に2~3回、もしくはそれ以上の回数でいじめにあっていると回答している(参照Folkehelseinstituttet)。
10人に1人以上がデジタルいじめの被害に
特に、デジタル化が進んでいるノルウェーやスウェーデンでは、ITの発達におけるメリットがある一方で、ソーシャルメディア(SNS)における、子ども間でのいじめが問題化。ノルウェーメディア局によると、9~16歳の13%の子どもがインターネット、もしくは携帯電話を通じて、「いじめられた」と経験している(参照Medietilsynet)。
4月1~4日、首都オスロでは「インフェルノ」(Inferno)というメタルフェスティバルが開催された(冒頭写真はノルウェーのデスメタル「Execration」)。聴衆の大部分が、メタルバンドの黒いTシャツや皮ジャンで来場しており、静かな連休中のオスロ中心地が、いつもとは違う雰囲気で包まれた。
いじめに反対するヘビメタファンの会
ノルウェー人が多いので、鍛えた腕の筋肉に、体格も大きい人が多く、タトゥーは当たり前、長髪や丸刈りで黒い服装をした人たちの中に囲まれて、場違いな筆者は「おお」と驚いていた。その中、会場で気になったのが、骸骨をシンボルにした黒いポスターが立っているスタンドだった。ファンのためのメタルグッズを販売しているのかと最初は思ったのだが、「いじめに反対するヘビーメタル音楽ファンの会」(Metalheads against bullying)という団体だった。
みんなと違うから、距離を置かれる
「メタルとロックは“みんなと違う人たち”と同義語になってしまいました。みんなと違う格好をしていたり、音楽への熱い情熱や、特殊なライフスタイルが原因で、変な目でみられてしまうのです」。メタルやロック界では、いじめられた経験をした人たちが多いのだとスタッフが教えてくれた。グッズの売上金は、団体の運営金などに使用されるのだという。
同団体は「いじめ反対のわたしたち」(Oss Mot Mobbing/省略OMM)という別団体の支援グループでもある。OMMは2014年にクリスチャン・サートレ氏という18歳の少年によって設立された。いじめられていたサートレ氏は、負けないためにボクシングを始める。FacebookでOMMのグループを立ち上げ、現在メンバーは6400人以上。ノルウェーのメディアで大きな注目を集める2014年度の「今年のロールモデル」に選出され、2015年度1月に開催されたいじめ対策のカンファレンスに、ノルウェー現首相がサートレ氏を招待したことでも知られている。
メタル界の人たちは、その外見から「強そうだな」という印象を、音楽祭の初日で筆者も少なからず抱いてしまったのだが、話してみると誰もが優しい、むしろシャイな人も多かった。外見や嗜好が違うからといって、先入観で距離を置いてしまうにはもったいない魅力的な人たちばかりだ。
「いじめに反対するヘビーメタル音楽ファンの会」のパンフレットでは、最後の文面をこう締めくくっていた。「流行に流されないのが、メタルファン。だから、私達は“いじめ”という流行に背を向ける」。
Photo&Text:Asaki Abumi