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北欧コーヒーの流行発信地、オスロのカフェ最新事情。エスプレッソは誤解されている?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
国民の生活に深く浸透しているコーヒー Photo:Asaki Abumi

酸味が特徴的なオスロのコーヒー

「アイスコーヒー、おいしいね!」とオスロのカフェ店内の窓際で、カウンターのバリスタにニッコリと微笑む小さな兄弟。北欧といえば、浅煎りで酸味が特徴的な、新しい味を追求するコーヒー先進諸国として知られている。

ノルウェー人のコーヒーの消費量は、1人あたり1年に160リットルとされており、毎日およそ3杯のコーヒーを飲んでいることになる(ノルウェーコーヒー協会調べ)。深煎りコーヒーとは対照的に、オスロのカフェでは、果実の酸味がはじけるような味が特徴的だ。「酸っぱい!」、「紅茶みたい」と驚くかもしれないが、その癖のある味のとりこになり、世界中からのコーヒーファンがオスロを訪れる。

国内外のコーヒー好きが集まるティムのカフェ Photo:Asaki Abumi
国内外のコーヒー好きが集まるティムのカフェ Photo:Asaki Abumi
ティム・ウェンデルボー氏 Photo:Asaki Abumi
ティム・ウェンデルボー氏 Photo:Asaki Abumi

冬が長い雪国なので、ホットコーヒーが定番だったが、最近ではアイスコーヒーも人気急上昇中だ。

オスロがコーヒーのトレンド発信地として国際的に知られている理由のひとつに、ティム・ウェンデルボーという1人のノルウェー人男性の活躍がある。ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ2004年度の優勝者であり、業界では誰もが知る有名人だ。

現在は「ティム・ウェンデルボー」というブランド名で、カフェと小規模焙煎所を経営している。2012年に東京にオープンしたオスロ発のカフェ「フグレン」が情報源となり、ティムの名前は日本でも知られるようになった。

5年前と今のエスプレッソを比較

数日前に、ティムがSNSで新しいイベント「今とあの時」(Now and then)の告知をし、これがコーヒー好きをなんともワクワクさせる。2010年当時と2015年現在の異なる焙煎レシピで、2種類のエスプレッソを提供。

彼のコーヒーが、この5年間でどれだけ進化したかが、明確にわかるのだ。この機会に、5年前から今に至る、オスロのコーヒー業界の変化を本人に回答していただいた。

―やろうと思ったきっかけは?

とある記事で、「オスロのエスプレッソは、昔のほうがおいしかった」という一文をみたからです。私たちのカフェは経営を始めて、もうすぐ8年になります。焙煎方法や味、農家との関係などにおいて、クオリティは進化し続けてきました。その変化を皆さんに感じてもらおうと思ったのです。

一言でいえば、エスプレッソの味は、以前よりも確実にレベルの高いものへと進化しています。

ブレンドコーヒーから、シングルオリジンへ

―味の違いは?

2010年のエスプレッソは、40%がブラジル、60%がケニアの豆をブレンドしたものです。当時の手法で焙煎し、結果、現在のコーヒーよりも深煎りで、多少酸っぱく、後味は焦げたようで、粉っぽく感じるでしょう。これが当時の我々の味だったのす。

現在、われわれのカフェでは、ブレンドコーヒーは一切していません。特定の農家との関係を大事にしており、豆の個性が反映されるようなコーヒーを店頭で提供しています。エスプレッソには、コロンビアのフィンカ・タマナ農園の豆を100%使用し、さらに浅煎りとなっています。フレッシュでクリーン、甘味があり、コロンビアのコーヒーらしい果実感も感じられるでしょう。

2015年(右)と2010年度版(左) Photo:Asaki Abumi
2015年(右)と2010年度版(左) Photo:Asaki Abumi

ーカップのサイズは、なぜ違うのですか?

大きいサイズのほうが、おいしいからです。2010年当時の、小さなサイズのカップは事前に温められており、それが苦味を引き起こしていました。2015年のカップは、常温で保管された状態で、サイズも大きめ。よって、甘味で、バランスを保つことができています

ーなぜ比較対象を「エスプレッソ」にしたのですか?

エスプレッソは、バリスタにとって最もハードルの高い飲み物だからです。小さな失敗が、味に大きな影響を及ぼします。

エスプレッソは、多くの人にさまざまな意味で誤解されているとも思います。「小さいカップで提供され、強い味で、クレマ(泡)があるべき」と考える人が多いのはないでしょうか。われわれは、生豆の味が反映された、おいしい1杯であることをなによりもを優先します。

最近のオスロの市場は、どのように変化したと感じ取っていますか?

新しい焙煎所が次々とオープンしていますね。同時に、大きなカフェチェーン店も爆発的に増加しています。

以前よりも、良質な生豆の購入が簡単になったので、市場の味全体がどんどん向上しています。焙煎知識をもつバリスタも増加し、コーヒーを抽出する技術もレベルアップ。

とはいうものの、オスロだけではなく、ノルウェーには、まだまだおいしくないコーヒーを淹れるカフェもたくさんありますよ。

ご自身はどのように成長したと思いますか?

5年前に比べて、さらに良質な豆にこだわる時間が増えました。1年のうち、150日は国外の農家へ出張して、現地の人と仕事をしています。

最近、コロンビアに自分の農地を購入したので、これから自分で豆を栽培していくことになります。早くてもあと3年はかかると思いますが、今よりもさらに良質なコーヒーをつくることができるでしょう。

ティムの店を支えるバリスタは女性率が高い Photo:Asaki Abumi
ティムの店を支えるバリスタは女性率が高い Photo:Asaki Abumi

オスロのカフェでは、ブラックコーヒー1杯はおよそ25~30ノルウェークローネ(408~490円)。一方、ティムのカフェでは、1杯42ノルウェークローネ(686円)と市場より高め。その理由は?

生豆を生産している農家に、適正な賃金を支払うためです。物価が高いノルウェーでは、従業員への賃金も高い。焙煎機も1台しかないため、大手の焙煎所よりも生産量に限りがあるからです。良質な豆を続けていくためにも、必要なコストなのです。

農園の労働者に適正価格が支払われることを重視するティムは、「コーヒー1杯にどれだけの人が関わっているか」を消費者に理解してもらおうと努力する。良質な豆を市場に届けるために、SNSなどを通じて透明化された情報も積極的に発信。だからこそ、その姿勢を支持し、「彼は今何に注目しているのか」を、追い求め続けたいファンは絶えないのだろう。

オスロでは、現在スターバックスのほかに、北欧諸国のスウェーデンやデンマークの大手カフェチェーンが、驚異的なスピードで店舗拡大を続けている。メディアも頻繁に関連記事を特集しており、ウェブで高い閲覧率を記録する傾向に。日本でも北欧でも、コーヒーへの熱気はますます強まるばかりのようだ。

Tim Wendelboe「Now and then」エスプレッソ企画

期間:店頭にて豆の在庫が切れるまで、5月末までを予定

価格:50ノルウェークローネ

ティムのツイッターインスタグラム

Tim Wendelboe Kaffe フェイスブック

ティム・ウェンデルボーの豆は、日本国内では村上隆氏がプロデュースするカフェ「Bar Zingaro(バー ジンガロ)」で購入可能

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Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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