ノルウェー連続テロ犯と犠牲者の所有物を展示、悲劇を忘れないために
ノルウェーの悲惨な連続テロ事件から4年目を迎える7月22日、爆破事件が起きた政府庁舎内の1階で展示会が初日を迎える。「7・22センター」という展示会では、服役中のアンネシュ・ブレイビク受刑者が、事件当日に使用した所有物を公開。
前日に報道陣に事前公開された展示会には、国内外から20以上のメディアが駆けつけた。
最も注目を集めていたのは、政府庁舎で自動車爆弾として使用された、黒こげの自動車の残骸と、犯人の所有物だ。会場の中央に設置された自動車の残骸は、不気味な空気を帯びていた。犯人が使用していた偽の警察官証明書、ノルウェー国旗と十字架の小道具は、警察による保存袋に入れられた状態のままだった。
武器を入れていたとされる犯人のスーツケースは展示予定だったが、最終的には展示会場では不必要とされた。犯人が着用していたコスチュームは展示されていない。
青少年の命が奪われたウトヤ島の大きな写真の前に置かれた展示ケースに並べられていたのは、当日島にいた犠牲者と生存者の携帯電話、オーディオプレーヤー、カメラなどの約30台の電子機器だった。粉々に割れたスマートフォンのスクリーンが、当日の悲惨さを物語る。私たちは、この所有物にどのような記録が残されていたのかを知ることはできないが、恐らくそれは、犯人が銃を持って島に上陸する前の、キャンプ場での楽しい時間の記録なのではないだろうか。
事件当日の悲惨な現場写真の中には、爆破現場で流血している女性や、現場で警備する警察官、事件の翌日に国民がバラの花を持って追悼するシーンなどが収められている。当時の首相が犠牲者数を記したメモや、事件後の裁判の写真、テロ事件を解明しようとする世界各国で出版された書籍やノルウェーの学生による論文も展示。
命を落とした77人の顔写真が飾られた小部屋では、報道陣は写真撮影を遠慮するように促された。そのうちの何枚かは、遺族の意思を尊重し、顔写真は白紙となっている。写真の下には、名前・当時の年齢・出身地・殺害された場所が記載されている。
生き残った青少年が当時を振り返るインタビュー映像、犯人が爆弾を仕込んだ自動車を政府庁舎内に駐車し、数分後に建物が爆発するシーンを収めた監視カメラの動画映像も展示されている。
時系列に作られた当時の出来事を振り返るタイムラインには、錯綜する報道を見て、困惑する人々のツイッターでの書き込みも。
展示会は、今後5年間を予定して、月~日曜日、入場料無料で一般公開される。犠牲者の遺族や関係者にとってはつらい内容となるため、一般公開前に事前に招待し、約450人が訪れた。ウトヤ島での生存者の中には、展示を目にして、泣きだした者もいたという。
政府によって主催されている展示会には、肯定的・否定的な両方の反応が届いていると、ヤン・トーレ・サンネル地方自治大臣は取材で語る。
「ノルウェーが持ち続けてきた価値観と民主主義を揺るがした事件は、いまだに多くの人々の心に強い傷跡を残し、議論が続いている。この出来事を忘れないために、7・22センターは、訪問者にとって、考え、学ぶことのできる場所であってほしい。ここでストーリーが終わるのではなく、始まりのきっかけとなれば」。
展示会では、犯人の顔写真が使用されているのは、偽の警察官証明書と、法廷での写真だけだ。このことについて同氏は、「これは自然災害ではなく、人間の手によって起こされた事件。犯人の顔写真がなくとも、展示会での説明文が十分なほどに語っている。もっと多くの動画や音を展示することもできたが、あえてしなかったのは、訪問者に独自の解釈で考えてほしかったから」と語る。
事件の記録を展示し、解釈を見るものにゆだねてしまうことに関しては、事件の悲惨さを考慮すると「無責任では」という批判もノルウェー国内ではあがっている。
遺族の中には、展示会を訪れない人もおり、主催者側は「異なるさまざまな意見と思いを、われわれは全て尊重している」としている。
爆破が起きた政府庁舎はいまだに残ったままで、破壊される前の様子の窓や壁をプリントした巨大なシートによって覆われている。
先日、77人もの命を奪ったブレイビク受刑者は、オスロ大学政治学科への入学が認められたばかり。
新しい政府庁舎の設計候補のモデルも、会場では展示されており、事件現場は未来に向けてどのようにデザインされるべきか議論が高まっている。4年経ってもテロ事件の傷跡は、未だに癒えていない。「私たちはこの出来事を忘れてはいけない」という思いが、現場からはひしひしと伝わってきた。
Photo&Text:Asaki Abumi