ノルウェー政権に「緑」の激震が走る 緑政策と難民問題が影響した地方選挙
9月14日、ノルウェーの統一地方選挙の開票結果が発表された瞬間、与党議員たちの顔が青ざめた。2013年の国政選挙から2年、ノルウェーの国民が、現政権に厳しいマイナス評価を下したのだ。原因は、環境を考慮する「緑の政策」を支持する若手の野党への期待と、難民対策に非積極的な与党の姿勢への失望などが挙げられる。
快挙を遂げたのは、労働党(33%の票)と緑の環境党(4,2%)。前回の選挙よりも支持率を大幅に下げ、大敗したのは、現政権で連立を組む保守党(23,2%)と進歩党(9,5%)だ。
オスロ市民が求めた「緑の改革」とはなんだ?
地方選挙で焦点となったキーワードは、「グリーン」だった。
これまでたった1人の議員しかおらず、無名に等しかった緑の環境党(MDG)。自然や環境に優しい政策にこだわる党の代表ラスムス・ハンソン氏は、「経済よりも、環境が第一優先。我々には、石油資源を支えていくような政策案はない」と言い切り、他の政党と国民を驚かせた。
「車に乗るのをやめて自転車を使おう。高速道路はつくらずに自然を守る。石油産業と縁を絶ち、地球に優しい緑の労働市場の開拓」などを提案する同党。
「なにをふざけたことを言っているのだ、石油産業で失業する人たちの労働場所をつくりだしてから言え」と、あきれる人。反対に「緑の改革が実現できるのは、この党だけだ」と、国の新しい未来像に期待をする人と、反応は大きく分かれる。
報道陣が、緑の党を特集しはじめた
数年前までは国内メディアにも相手にされていなかった緑の環境党(以下MDG)だが、党員数は増え始め、地方選挙が近づくにつれ、風向きが変わり始めた。与野党が真似をするかのように、「緑の転換」、「緑の政策」と連呼しはじめ、「MDGが異例の快挙を遂げるかもしれない」とテレビや新聞の見出しを飾る日が続いたのだ。
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MDGを支持するのは、地方よりもオスロなどの大都市が多い。自動車の増加で空気が汚染され、呼吸困難の問題を抱える人が続出。「オスロを自転車の街へ」と賛同する人が増加。近年の、肉食よりもベジタブル、ヴィーガン、オーガニック、サステイナブル、グルーテンフリーなどの、食生活の変化も関係している。同党を支持するのは、年配よりも若者や学生が圧倒的に多い。
無名の党が、首都で第3党に
オスロでは、労働党、進歩党に続き、MDGが8,1%で第三党となった。今までライバル視されていなかった状況から一転、各政党がMDGと連立を組もうとアプローチしている。
これまでの伝統的な政党にとって、産まれたばかりの赤子のようなMDGは未知の恐怖だ。「我々も緑の政策を強化しなければ、支持者が去る」と、強烈に認識させている。
MDGが2年後の国政選挙までに、どのような結果をだせるかで、政権は大きな変革期を迎えるかもしれない。政治家としての経験が浅い党員が多いということは、言い訳にはならないだろう。緑の政策で、現在のノルウェーの政治家と国民たちの意識をどれだけ変えられるか。その手腕がこれから厳しい目で判断される。
難民問題が選挙に与えた影響
選挙結果が荒れた第二の理由が、選挙活動中に、世界中で大きく報道されはじめた欧州の難民問題だ。ノルウェーでは、ほとんどの党が賛成し、今後3年間で8千人の難民の受け入れに同意したばかりだった。その後、現在の欧州の難民問題が報道されはじめた。「経済的に豊かなノルウェーは、もっと難民を受け入れるべきではないのか」という世論の声が高まりはじめる中、各政党の反応は分かれた。
新たな難民の受け入れに関しては、慎重な労働党や保守党。もともと移民や難民の受け入れに、大反対の進歩党。これら大きな3党に対して、他の政党は「いますぐにもっと多くの難民を受け入れよ」と声を挙げた。
12日には国会議事堂前で市民が集まり、シリア難民の受け入れを求めるデモがおこなわれ、MDGなどをはじめとする党が集結。顔をだしていない党は、難民受け入れに慎重か反対であるかを、明確に表していた。
加えて、多くの報道陣と国民から、さらに批判を浴びることとなったのは、移民政策に厳しい進歩党の前党首で、オスロ市の市長候補であったカール・ハーゲン氏だ。
Facebookで、難民支援のボランティアに参加する企業や人々を批判するだけではなく、海岸に遺体で見つかった男児アラン君の父親を批判する投稿をした。進歩党が大幅に票を落としたのは、ハーゲン氏の言動が原因であると指摘する人は多い。
難民問題は、選挙結果に大きな影響を及ぼすだろうと、多くの人は感じていた。ただ、結果をいうと、難民問題はある程度は影響したが、報道陣や世論が思っていたほどではなかったともいえる。なぜなら、難民の受け入れを強く求めたキリスト教民主党をはじめ、複数の党は大きく票が伸びなかったからだ。とはいえ、進歩党は大敗したので、影響したともいえる。
「政権への厳しい審判だ」と報道陣に指摘されたが、「これは国政選挙ではない」と首相は否定
地方選挙なので、教育問題や個人資産税の導入など、自治体ごとの課題によって、支持された党は異なる。しかしながら、全体的に現政権は大敗し、労働党とMDGが快挙を遂げたということは、国民が現在のアルナ・ソルベルグ首相の指揮を問題視していることになる。
地方選挙の結果は、2年後の国政選挙の未来予想図を描く。MDGをはじめとする、グリーンカラーの強い政党が大きな影響力を持ち始めたら、ノルウェーの経済や社会は大きく変わることとなるかもしれない。
Photo&Text:Asaki Abumi