ノルウェーでは選挙中、小学生が宿題で政治家に問う。「あなたの政党は難民のために何をするの?」
ノルウェーの選挙の現場には、子どもがいる
ノルウェーでの9月の地方選挙を連日取材していて、驚いたことがあった。それは、小学生が至るところにいたからだ。
選挙期間中、首都オスロの大通りでは、各政党がカラフルで可愛い「選挙小屋」の前に立ち、PR活動をする。そこで一番わいわいと楽しそうにしていたのは、大人よりも、小学生だった。
ハフィントンポスト「日本とは違う、なぜノルウェー選挙運動は「祭り」のように楽しい?」
12才が、政治的な質問をする
小学生は、授業の課題として、先生が用意した質問票を手渡され、グループごとに、各政党の選挙小屋を順番に回る。筆者が出会った子どもたちは12才だった。真剣に話を聞いて、答えをメモする。先生は引率しておらず、子どもたちは自由に会話をしていた。
アーナ・ソールバルグ現首相が党首でもある保守党の選挙小屋にいた12才の子どもたちに、お願いをして質問票を見せてもらった。質問のレベルが高いではないか。
- 保守党が最も重要視している政策は?
- なぜ保守党は固定資産税に反対なの?
- オスロの学校教育制度がさらによくなるために、保守党はなにをしてくれるの?
- 学校の民営化についてどう考えているの?
- どうして保守党は、店の日曜営業に反対なの?
大人よりも、子どものほうが難民問題を気にしている?
先生からの指定の質問以外にも、子どもたちは次々と質問をする。各政党の小屋の担当者に、「大人と子どもは、違う質問をするか?」と尋ねたところ、ほぼ全ての政党から共通していた感想が、「子どもたちは、”あなたの政党は難民のために、何をするのか”、と聞いてくる。大人は年金や税金など、自分たちの生活に関わることばかり気にしているのにね」、だった。
子どもが選挙や政治にどれほど関わるか決めるのは、先生の判断
オスロ大学の政治科学学 ベルント・オールダル教授は、インタビューで次のように説明してくれた。「ノルウェーでは、社会科の授業の一環として政治や選挙をテーマとすることが普通です。義務ではなく、担当の先生の判断にゆだねられています。このような活動が、子どもにふさわしくない影響を与えるだろうとは、この国では考えられていません。ずっと昔はそうだったかもしれませんが」。
選挙小屋を訪れ、小学生が質問をするという文化は、かなり昔からあるそうで、各政党の選挙小屋に立つ大人たちも、同じようなことを経験したそうだ。
この文化は何年代から始まったのか気になるのだが、政府関係者や専門家に問い合わせても、誰も明確に答えることができなかった。それほど長く、誰も疑問に感じることもなく、いつの間にか教育現場に浸透していたのだろう。
ノルウェーの地方自治省に問い合わせたところ、「ノルウェーでは、子どもや若者が選挙運動に関わることを制限していない」そうだ。
社会人・未成年、選挙権があるか・ないかは、ノルウェーでは関係ない。国の未来を決める政治について、みんなで一緒に考えて、意見を言い合う。なぜなら、それがノルウェー人が大事にしている民主主義だからだ。日本でも、子どもの頃から、政治について考える機会がもっとあれば、国のかたちは変わるのかもしれない。
Photo&Text:Asaki Abumi