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現実的?オスロは4年間で排ガス50%削減、車5台に1台を排除予定。強制的な緑政策に批判殺到中

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
勢いが止まらない、オスロ市議会3党の代表 Photo:Asaki Abumi

昨年9月の統一地方選挙で勝利した3党が率いるオスロ市議会。ノルウェーの政界で初めて大きな権力を握ることとなった「緑の環境党」の存在で、過激な緑政策が話題だ。2020年には首都中心地から車を排除するカーフリー計画などが、世界中のメディアでも話題となった。

市民を仰天させ続ける、緑の党

しかし、首都の市政を任されて数か月。理想的で急進的な緑政策に、早くも市民から不満の声が高まりつつある。だが、市議会の前向きな勢いは止まらない。18日、さらなる高い目標を掲げ、市民を仰天させた。

「パリ合意での目標を実現するために、環境問題の責任は国内でとらなければいけない。そのために、市民はライフスタイルを変える必要がある」と、緑の環境党の政治家たちはこれまでの取材でも、常々語っていた。

2020年になる前に、排ガス50%削減!

中心地のカーフリーなどに加えて、2020年になる前に、市議会は以下を追加で実行すると宣言。2019年9月の次の地方選挙までに結果を出さなければ、市民からの信頼度は急落確実だろう。

・排ガスを50%削減(1990年比)

・車の交通量を20%削減

・公共交通機関の燃料を再生可能エネルギーに

・自転車の利用者を16%増加

・トラックなどの貨物自動車の最低20%は、燃料を再生可能エネルギーに

ちなみに、1990年比ではなく、現在比にすると、削減しなければいけない排ガスは60%となる。

想像してみてほしい。東京で、4年間でこれが実行できるだろうか?

最終目標は、化石燃料フリーの首都

これは緑政策の一部でしかない。さらに、地方選挙で勝ち続けた場合、2025年までに自転車の利用者数を4人に1人に増加、2030年前に排ガスを95%削減、また車の交通量は3分の1に減らすなどの約束を掲げている。

さらに壁が高い、フィヨルドの海上交通の規制

オスロはフィヨルドに面しているため、観光ビジネスにもなっている船の利用率が高い。海上交通からの廃棄物の排出を2030年までに50%削減することも掲げているが、これは難しそうだ。

心配点は、経済面などへの影響だけではない。海上交通は、自治体レベルではなく国レベルでの政策転換となり、対立する現政権の協力が必要だからだ。だが、今の交通大臣(進歩党)は、緑政策の考え方が異なるため、オスロ市議会へは非協力的だ。保守派政権は、市民の生活を強制的に変えようとする左派勢力に対して、警報を鳴らしている。

緑の女王と党のSNSは炎上中

理想が高い目標は、「すごいね」と思わせる。すでに、市議会は車両の駐車料金を上げ、市内での駐車を困難にさせるなどの条例を施行。しかし、中心人物である緑の環境党と、同党の環境・交通通信局長であるラン・マリエ・ヌイェン・ベルグ氏には、一部の市民から苦情が殺到しており、同党や彼女のソーシャル・メディアは何度も炎上している

急進的な緑政策が、嫌になってしまう可能性

理想的かもしれないが、困惑する市民を無視し続けると、「環境政策」自体が、国民にネガティブな印象を与える原因になりかねない。

残りの約3年間半で、排ガスを50%、車の交通量を20%削減し、同時に中心地をカーフリーにし、高速道路建設計画を変更させられるのか? 市議会には他にも高い目標があるが、もし、すべて実現できていれば、称賛に値する。緑の都市開発モデルとして、国際的にも注目を浴びることとなるだろう。だが、約束を守れなかった時の代償は、非常に高くつくこととなる

緑の党が権力を握ったノルウェーでは混乱が起きている。なぜ苛立つ人が多いのか。車や石油を敵にまわす代償

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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