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ドーピング検査拒否で騒動のX Games、記者会見中はその話題には触れず

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
X Gamesの話題は競技よりも薬物検査に Photo: Asaki Abumi

エクストリームスポーツの祭典X Games「エックスゲームズ」がオスロで幕を開けた。誰もが楽しみにしていたイベントだが、開催者であるアメリカのケーブルテレビネットワークESPN(ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下)が、国際基準での一部のドーピング検査をかたくなに拒んでいることが、ノルウェー国内で波紋を広げている。

ドーピング検査機関やノルウェースキー連盟は激しく批判しており、スキー連盟は数日前に突如主催者側との契約を解除した。

オスロでX Games開催が、ドーピング検査を拒否!フェアプレー精神に反するとノルウェーで批判

ドーピング検査騒動の説明は避け、「今日はいい天気だ」、「大会を楽しくしたい」と強調

24日、オスロ市庁舎で開催された記者会見。主催者であるESPNやノルウェーテレビ局TV2、代表して参加した選手たちは、ノルウェー現地で最も話題となっているドーピング検査には一切触れず、どれだけ大会を楽しみにしているかのみを話した。

記者会見で記者が質問をせず

ESPN広報のラーシュ・ペッテルソン氏は、報道陣に向かって、「ぜひ良い質問を選手にしてくださいね」と伝えたが、全選手の挨拶後、質問をする記者は1人のみだった。広報が「え、もう質問はないのですか」と問いかけても会場は静寂に包まれ、これに対し、あせった最初の記者は「ノルウェー人はシャイだから」と選手たちにフォロー。これまで数多くの記者会見に出席したが、ノルウェーの記者が一切質問をしない光景は筆者も初めて遭遇した。会見後、独占インタビューしている報道陣もいたが、国が楽しみにしていたスポーツイベントの記者会見にしては、静かで盛り上がりに欠けていたという印象を受けた。

スポーツ鑑賞好きのノルウェー王室は欠席

VG紙によれば、通常は国内の数多くのスポーツ大会にゲストとして公式鑑賞するノルウェー王室一家だが、エックスゲームズにだけは出席しないことが判明している。

多額の資金援助をうけながら、「我々は独立した機関」

ESPN側は大筋の検査は許可しているが、「競技会(In-Competition)検査」だけは拒否。オスロ市から約5億円以上の支援を受けているにも関わらず、ノルウェースキー連盟の国際基準の検査要望を聞き入れなかった。「我々は独立した機関であり、自分たちなりのルールがある」と主張を貫き通している。オスロ市は来年以降の主催は支援するべきでないという声も政治家からあがっている。

選手「もっと検査するべき」

ノルウェーのスキー選手ティリル・ショースタ・クリスチャンセン氏は、アフテンポステン紙の取材に対し、「今回の騒動は残念。スキー連盟とも話し合いをしたが、検査はされるべきだと思う。アスリートがクリーンでいられるように、もっと検査をしてほしいくらい。ノルウェーという同じ土地にいながら、私たちだけが検査を逃れるのは、他の選手にとって不公平」と話している。

TV2は通常であればニュース番組で報道義務があるが、エックスゲームズの主催者側であり、中立性を維持できない立場のため、一連の騒動の報道は控えている。

ノルウェーでは異常な状況

ノルウェースキー連盟の広報クラエス・トミー・ハーランド氏は、「ノルウェーではこのような形で、競技の主催者がドーピング検査を拒否するのは普通ではない」と電話での問い合わせに答えた。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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