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ノルウェー初!10~15才の子ども限定図書館 大声で走り回れる遊びの空間

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
料理、プログラミング、チェス。ここは子どもだけの世界 Photo:Abumi

イングリ、クララ、アーヤの12才の3人は、楽しそうに野菜を切っていた。ここは、子どもの料理教室。いや、実は「公共図書館」だ。

ムンク美術館のあるオスロ東部のトイエン地区では、日本人旅行者の姿が頻繁に見かけられる。同時に、貧富の格差問題が象徴される、移民が多い貧困エリアとしても現地では知られる。東西の格差をなくそうと、街の開発が進む中、3月31日にオープンしたのがビブロ・トイエン図書館だ。ここは、10~15才の子ども限定、大人は入場が禁止されている。

まるで遊園地のような遊び場 Photo:Asaki Abumi
まるで遊園地のような遊び場 Photo:Asaki Abumi

「静かに本を読む」という図書館の常識を破る

図書館といえば、おとなしく、静かに読書や自習をする場所だ。だが、動くことが大好きな子どもたちにとって、それは楽しいものではない。この図書館では、子どもたちは大声で話し、叫び、駆け回り、友達と楽しく遊ぶことができる。

肉のない野菜中心の料理教室で自由に調理。3Dプリンターで恐竜の頭を作る。乗り物の中で、チェスをする(チェスはノルウェーで人気が高いゲームだ)。クッションの上でジャンプしたり、かくれんぼや鬼ごっこをする。人気のアーティストがきて、ダンスなどを披露する。ここは、子どもたちにとって、まさに夢の国だ。

教育現場でのIT導入が進むノルウェー Photo:Asaki Abumi
教育現場でのIT導入が進むノルウェー Photo:Asaki Abumi

ノルウェーの公共図書館は、スウェーデンのストックホルムにある10~13才限定の類似する空間からインスピレーションを受けたという。さらに空間を大きく拡大させたと、自信満々のスタッフたち。ノルウェーでは、初の子ども限定図書館となる。

チェスをする子たちを応援するオスロ市長  Photo:Asaki Abumi
チェスをする子たちを応援するオスロ市長 Photo:Asaki Abumi

「10~15才の年齢というのは、小学校の後半から、遊んだり、図書館にいく機会が減る傾向がある。その子たちのための空間を作りたかった」とレイネット・ミット・ハッセル館長は取材で語る。「トイエン地区では、市民が狭い密接空間で暮らしており、子どもの遊び場が少なかった。移民の子どもが最も多いエリアということも、この場所を選んだことに関係している」。

説明しにくい世の中のテーマを集めた本棚 Photo:Askai Abumi
説明しにくい世の中のテーマを集めた本棚 Photo:Askai Abumi

約3000冊の本のほとんどはノルウェー語で、一部は英語やアラビア語だ。

テーマ分けされている本棚も、「怪談」と記載されるのではなく、「鳥肌がたつよ」という分かりやすい表現に。

「そういうものなのだよ」という、人生とはこういうものだという本棚には、「テロリズム」の本の隣に、女子を熱狂させるジャスティン・ビーバーについての解説本が並んでいた。

入場料は無料で、本当に10~15才かどうかは厳しく確認はしないそうだ。

大人の監視がない、子どもの空間があって当然

オスロ市議会の行政府のレイモンド・ヨハンセン議長は、「街はみんなのもの。だからこそ様々な空間があるべきで、ここは大人が立ち入り禁止。我々は、石油とガスの代わりとなる、次の未来資産を求めている。子どもたちには消費者ではなく、新しいものを創り出す担い手になってほしい」とオープニングスピーチで語った。

チェスに夢中になる男の子 Photo: Asaki Abumi
チェスに夢中になる男の子 Photo: Asaki Abumi

シーヴェル(12)「クールなものが多くて、ここはわくわくする」

ハムセ(12)「新しい友だちにも会える」

フィーセ(13)「ほかの図書館ではおしゃべりができないし、座っていないといけない。ここだといろいろなことができるよ」

まるで潜水艦の中 Photo:Asaki Abumi
まるで潜水艦の中 Photo:Asaki Abumi
「他の図書館よりも楽しい!」と声を揃える子どもたち Photo: Abumi
「他の図書館よりも楽しい!」と声を揃える子どもたち Photo: Abumi

「楽しいから、また明日も来たい」と話す10才の女の子たち。「毎日でも来たいわ!」と目を輝かせる子もいた。読書力向上だけではなく、自立的な創造力を鍛えることになるであろう図書館。難民・移民が社会にどう溶け込んでいけるか議論される中、一筋の光となるかもしれない。子ども限定図書館がどのような効果をもたらすかは、まだまだ未知数。だが、このような空間のさらなる必要性は、子どもたちの笑顔がすでに証明していた。

部屋と部屋の通り道は鏡の世界 Photo:Asaki Abumi
部屋と部屋の通り道は鏡の世界 Photo:Asaki Abumi

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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