政治参加がしやすいノルウェー。自転車で現れた、支持率ギリギリ小政党が影響力を持つ
政界進出への敷居が低い国
ノルウェーの政治は不思議だ。人口520万人という小さな国の規模と、平等と民主主義を重視する基盤が、日本とは異なる政治体制を作る。
平等を重んじるため、白人男性以外の声にも耳を傾けることが重要視される。女性や移民出身者たちは、政治家として優先的に選ばれ、小政党が驚くほど大きな影響力を持つ。
国の政治を支えてきた、対立する2大政党、保守党と労働党。大多数の賛成を維持するために、今は小政党との合意体制なしでは政権を維持できない。そのために、自分たちの考えとは遠くとも、小政党の政策を取り入れなければいけない。支持率が低くとも、選挙で思わぬ爆弾となる。
スーツを着た伝統政党と、リュックサックを背負った自転車政党
4月は各政党で全国総会が開催される時期。8~10日は、ソールバルグ首相が率いる保守党と、支持率が低下中の緑の環境党の総会が開催された。
与党・保守党の会場規模は大きかった。司会進行は完璧で、アイロンがかけられたスーツに身を包んだ政治家たちが優雅に交流する。首相と大臣たちが慣れた様子で、スピーチをし、ゲストとの会談や音楽の催しで、まるでエンターテイメントのように完璧に進行された。
一方、オスロ郊外のホテルでの緑の環境党の総会規模は、まだまだ小さかった。
緑の党員は、リュックサックを背負い、ジーンズをはき、ノーメイク、緑色の上着、カジュアルな恰好。スキーや登山が週末の趣味である人が多い。環境に熱いことを強調するために、植物が生えた植木鉢を手にして会場を歩いている者もいた。緑の党員たちは、自転車と電動バスで会場に登場した。
保守党が裕福層と政治のプロの集まりなら、緑の環境党は、贅沢な暮らしには興味がない政治の素人の集まりに近い。党員たちの恰好からも、政党色の違いが明白だった。
1議席の自転車政党に、大政党がイライラする理由
環境・交通政策のテーマの時間、多くの保守党党員たちが口にしたことがある。緑の環境党が「どれだけ頭がおかしい政党」で、人々が「どれだけ彼らの政策に対してイライラしているか」だった。国会に1議席しかない小政党にも関らず、与党が大きく警戒しているのが明らかだった。
地方選挙の勝利で、首都オスロで力を握った緑の党。「道路が増えれば、車が増える」という考えで、高速道路建設の中止や、オスロ中心部のカーフリー政策を強行しようとしている。カーフリーは国際的には称賛する報道が目立ったが、国内では反対・戸惑う声も多い。自治体レベルとなるため、国会に座る与党にはこの政策は止められない。首都が舞台のため、連日大きく報道される。
小政党の影響力が大きすぎるノルウェー?
大政党にとって、悩みの種となっているのは、緑の環境党だけではない。他にも、議席の少ない複数の政党が、政界の権力図を変える力をもつ。これにより、小政党=少数派の意見も政治に反映される。小政党が、あまりにも影響力を持ちすぎているのではないか、と感じるほどに。
メディアの注目をどうしてもひきつける、自転車の人たち
中でも、緑の環境党がどうしても今注目を集めるのは、政策や選挙活動が「斬新で新しい」からだ。今までの政党が、してこなかったことをしようとしている。
わくわくする人もいれば、イライラする人もいる。現在の経済システムを規制しようとする緑の党の政策では、「原始時代に逆戻りだ」と一部の人々は批判する。政策として良いか・悪いかは別として、メディアは新しいネタを好む。政治に嫌気がさしていた有権者の興味をそそる。しかし、欠点として、政治経験が非常に浅い。政策も、環境方面には強いが、経済などの多分野における全体政策には欠点が多いと批判されている。日本であれば、このような政策と経験値不足では、受け入れられないだろう。
会場の後ろの席で、じっと総会を観察している人物がいた。ノルウェー国営放送局で、政治コメンテーターとして人気があるサンド氏。首相がいる保守党の総会を優先するかと思いきや、支持率ギリギリの緑の環境党の総会に密着し、原稿を書いていた。
日本で通用するか?
政治経験のない政党に、ここまで大きなチャンスを与えるのはノルウェーらしい。日本で通用するだろうか? 政策が異なる政党の権力交代があると、政治が安定しなくなる。現在のオスロのように、市民の間に困惑が広がり、ここまで劇的な形では難しいだろう。
だが、小規模国家だからこそ、日本では実現までの手続きが大変そうな改革を、試験的にさらっと試すことができる。そういう意味では、議論がどのように進んでいくのか、北欧政治の観察は面白い。経験値が浅いというのはリスクが高い。それでも、さまざまな人が政治に参加・意見しやすい環境づくりは、日本でも少しは参考にできるのかもしれない。
Photo&Text: Asaki Abumi