Yahoo!ニュース

原発・石油・車を否定する北欧の緑の党は「ふざけた党」?ノルウェーとスウェーデンの比較。日本では必要か

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
スウェーデン緑の党のように、ノルウェーでも成功するか Photo:Abumi

ノルウェーの首都オスロでは、地方選挙で勝利した新党「緑の環境党」(MDG)が革命的な政策を次々と強行している(以下、緑の党と省略)。

選挙後、「市民生活を規制する政策ばかり」と批判が続出。加えて、大気汚染の原因とされる飛行機やタクシーを、党員たちは都合のいい時に利用していると怒りを買う。対立する保守派政党陣営は、これまでの取材でも筆者によく語っていた。「緑の党はどれだけ頭がおかしいか」を。報道やSNSでも、「ふざけた党だ」と笑いのネタにされる傾向が強くなっている。

緑の党が権力を握ったノルウェーでは混乱が起きている。なぜ苛立つ人が多いのか。車や石油を敵にまわす代償

スウェーデン緑の党の国会議員 Photo: Asaki Abumi
スウェーデン緑の党の国会議員 Photo: Asaki Abumi

ノルウェーの先輩である、隣国スウェーデンでも党は同じような道筋をたどったのだろうか?

「スウェーデンでも、同じように批判されますよ。車と飛行機嫌いだ、全てを禁止したいのだろう、とね」と、スウェーデンの緑の党・国会議員スティーナ・ベルグストゥルム氏は笑いながら語る。

緑の党は、政党として認められるか、流行で終わるか?

4月8~10日は、オスロ市内でノルウェー緑の党の総会が開催され、スウェーデン緑の党もゲストとして招待されていた。インタビュー中、ノルウェー緑の党青年部のヨン・ヤネッソン氏が付け加える。「両国での批判は似ているけれど、大きな違いがある。ノルウェーでは、僕たちは“ちゃんとした政党”だと認識されていない。新しくて、ヒッピーだ。今の流れは、ただのトレンドだと。でも、スウェーデンでは、緑の党にはしっかりとしたイデオロギーがあり、環境だけの単独政策だけではない、確立された政党だと誰もがわかっている」。

スウェーデン緑の党は「原発反対」がきっかけに

スウェーデンでは自転車乗りのための整備が整う。オスロはまだまだだ Photo:Abumi
スウェーデンでは自転車乗りのための整備が整う。オスロはまだまだだ Photo:Abumi

ベルグストゥルム氏は、スウェーデンで緑の党が必要とされた理由は、原発反対の世間の流れがあったからだと振り返る。「福島の影響も後押ししましたね。日本のように自然災害はないけれど、テロや人間が事故を起こす可能性もある。10か所の廃炉には今取り組んでいるのですが、お金がかかるわね~」。

ノルウェー緑の党の「石油・ガス反対」は壁が高い

スウェーデン緑の党では原発反対の一方、ノルウェーでは「石油・ガス反対」だ。しかし、ノルウェーでは石油への依存度が強い。難民問題もあることから、経済の循環を優先する大人や保守派政権から大きな反発を浴びる(緑の党は若者からの支持が多い)。

どうすれば車を減らせるか?

大都市での大気汚染問題においても、スウェーデン緑の党は早期に実力を発揮した。排気ガスを出す車をどうすれば減少させられるか? 国会にデビューした当時、緑の党は、混雑するラッシュアワー時期に割増料金を追加することを提案。「うまくいくわけないだろう!」と猛反発を浴びた試験プロジェクト。しかし、思わぬ良い結果を生んだという。「空気も綺麗になって、渋滞は減り、本当に運転する必要がある人達にとって走りやすくなった。集まった料金も、公共交通政策に回せる。人々の反応が一気に好転した良い例でした」。

孤独にスタートした緑の党

ノルウェー緑の党代表ハンソン氏 Photo: Asaki Abumi
ノルウェー緑の党代表ハンソン氏 Photo: Asaki Abumi

スウェーデンでは25人の国会議員がいる中、ノルウェーではたったの1人。しかし、地方政策で手腕を発揮できれば、「世間の反応は変わる。緑の党はノルウェーでも大きく成長する」とベルグストゥルム氏は話す。

「ノルウェーの国会議長(保守党)にお会いしたけれど、“緑の党はラスムスがひとりぼっちで議席に座りながら、政策を通過させようと頑張っている”と、感心していましたよ。仲間が増え、色々な政党と自治体で協力体制を組んでいくことで、情勢は変わるでしょう。世間の評価は変わります。ノルウェーでも同じことが起こりますよ、楽しみね」。

大政党がしっかりした緑政策をもっていれば、緑の党が立ち上がる必要はなかった

ベルグストゥルム氏とノルウェー緑の党の共同代表ハンソン氏は、「日本の緑の党とはまだ交流をしたことがないが、緑の党は必要だ」と話す。「他の政党に、十分な緑政策がない限りは」とするベルグストゥルム氏。デンマークでは、緑の党がなくとも、北欧を代表する自転車政策などを実現している。

日本はテクノロジーをもっと生かせるはず

「日本はテクノロジー最先端の国。その能力を生かし、原子力を他の再生可能エネルギーに置き換えれば、世界でトップの環境に優しいテクノロジー国家になれるはず。ノルウェーでは、保守党と進歩党が原発に興味を持っていますが、我々は反対している」とハンソン氏は答えた。

緑の党の役割は、右寄り・左寄りに限らず、多くの政党と協力し、緑の考え方を少しずつ政策に浸透させていくことだ。それでも、ノルウェーとスウェーデンでは、両国で「極右」と位置づけされている政党とはチームを組むことを否定している。現在、その極右に例えられるノルウェー進歩党は、与党であり、高い支持率を誇る。進歩党を取材していると、彼らの「緑の党嫌い」はすさまじいと、痛感することが多い。

緑の党がメディアで注目を浴びるようになり、ノルウェーの全ての政党が緑政策を熱く議論しはじめたことは間違いがない。有権者を緑の党から取り戻すために、各党は緑政策の改善に必死になりはじめた。これは、緑の党が狙っていた流れだろう。全ての党が、少しずつグリーンカラーになっていく。

今は批判報道が目立つが、ノルウェーもスウェーデンのような成長の道を辿るだろうか。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

鐙麻樹の最近の記事