石油に依存するノルウェー、環境団体が首相に中指を立てる「くそったれ」 若者の失礼な(?)抗議活動
石油産業に依存するノルウェー
18日、ノルウェー政府は第23回探鉱ライセンスラウンドを発表した。バレンツ海において、13社に10の新たなライセンスを賦与する。バレンツ海南東部では、22年ぶりとなる新規鉱区を含む。開発事業に参加する企業は、スタットオイルや出光ペトロリアムノルゲなど。トルド・リーエン石油・エネルギー大臣(進歩党)は、「ノルウェーの石油産業の歴史における新たな章の始まり」と誇らしげだ。
ノルウェー社会の発展に大きく貢献してきた石油・ガス産業。しかし、環境に対する脅威であるとして、環境団体や一部の左派政党が、石油資源への依存に対して反対の声をあげている。
ノルウェーでは、「石油・ガス資源開発を維持しながら、少しずつ環境対策に取り組もう」とする現政権を中心とした立場と、「今までお世話になった石油産業に今すぐにハッピーエンドを告げ、全ての資金とエネルギーを再生可能エネルギー産業開発に注ぐべきだ」という立場で、世間は分かれている。
国内の報道機関は、政治色を問わず、環境問題に関心が高い編集者や記者が多いためか、石油資源や道路開発に依存する国の動向を懸念・批判する傾向にある。
「今の政権、何しているの?やめろ!」
20日、王宮前では若者たちによる抗議活動が開催された。呼びかけ人となった自然と青年(Natur og Ungdom)団体をはじめ、環境団体や政党の青年部など、14〜80歳までの約200人が集合。
王宮前でデモを行った理由は、毎週行われる国王への定時報告会が首相や各首脳により開催されるためだ。首相などが乗っているであろう黒い乗用車が王宮前を通過するたびに、若者たちは大声で叫んだ。「石油は地球を燃やしている!石油をやめて!」。
首相に中指を立てる青年環境団体「くそったれ」
若者たちが手にしていた大きな布には、現政権に向かって、「何を血迷ったことをしているんだ」と乱暴な言葉遣いで書かれていた。若者の一人は、ソールバルグ首相のお面と地球の形をした模型に向かって、中指を立てるポーズで挑発する。「首相は地球のことなど全く気にかけていない」との抗議だ。
トルド・リーエン石油・エネルギー大臣と首相のお面をかぶった若者2人は、地球の模型をハンマーで破壊するデモンストレーションをおこなった。
「私の未来を壊す首相だって、かなり失礼よ」
若者たちの言葉は過激だ。考え方や政策は違えど、首相や現政権も環境政策には取り組んでいる。「首相に対して失礼な言動だとは思わないのか」と尋ねたところ、「ああ、失礼かも。でも、私の未来を壊す首相も、かなり失礼よ」と、自然と青年団体の執行委員会で石油政策担当のナタリー・エーケロードさん(20)は答えた。
自然と青年団体代表のイングリ・ショルヴァールさん(20)は、抗議活動の理由を語る。「環境問題を指摘する研究者たちの意見を、政府は聞き入れない。世界的にも裕福な国であるノルウェーが、石油発掘をやめない。怒りを感じます。私たちの意見を彼らは無視するでしょうが、抗議の声が高まっていることは明白。石油発掘を続けるべきかどうか、その議論が国内で起きている事は、よい傾向だと思います」。
政権交代が起きても、石油依存は変わらない
ノルウェーでは国政選挙が2017年に控える。だが、現政権の保守派陣営が対立する中道左派・労働党陣営が政権を奪回したところで、ノルウェーの石油発開発の勢いは止まらないとショルヴァールさんは話す。
三大政党は、石油資源との決別に否定的だ。石油から決別できない政党を批判するのは、少数派政党や環境団体。パリ協定後、環境大臣(保守党)は、「ノルウェーは協定目標を達成できないだろう」と発言し、国内で物議を醸した。
理想的な言葉でしか批判できない、非現実的な(?)環境推進派
石油反対派の弱点は、代用となる経済モデルや失業対策案を、理想案としてではなく、現実的な経済プランで提示できないことだ。国民の誰もが、「今よりも不便な生活となってもよい」と考えているわけではない。首都オスロで起きているような、急進的すぎて、「車や飛行機の利用、魚や肉中心の食生活、大量消費社会を止めよう」という環境政策は「原始時代に逆戻りだ」と異論も多い。
「ノルウェーは石油なしでも大丈夫と思うか」かという問いに対し、ショルヴァールさんは、「難しいと思う。でも、それしか選択肢がない」と答える。
ノルウェー国内の温室効果ガス排出量が1.5%増加
この日、ノルウェー統計局は、2014年度比に対して、2015年度のノルウェー国内の温室効果ガス生産量が1.5%増加したことを発表した。石油・ガス産業からの排出量は全体の28%を占める。統計局は、温室効果ガス対策において、石油・ガス産業が最も対応策が必要とされる分野と結論付けた。
ノルウェー政府は、1990年比で2030年までに、温室効果ガスの40%削減を目指すとしている。しかし、現在の環境・石油政策では、実現できる可能性は低いとする悲観的な雰囲気が国内には漂う。
難民問題と同様に、石油と環境政策は、今後もノルウェー政治の動向を左右する爆弾となりそうだ。
Photo&Text: Asaki Abumi