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ノルウェーに着いた難民は、どうやって暮らしているの? オスロの町の例 

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
地元の人々の協力は受け入れに必要不可欠だ Photo: Asaki Abumi

ノルウェー人は寒い土地柄のように、冷たいと感じた

「オスロに来てから、最初は全てのことが難しかったです。特に、ノルウェー語。あと、寒い土地柄のように、人々も冷たいなと思いました」。2013年にイランから難民としてオスロにやってきたカーベ・アハンガリ氏は、地元の公民館の会場でノルウェー語で語った。郵便局で働き始めたばかりの、イランからの難民だ。

「ノルウェーの人々は冷たくて、友達になりにくかった」という正直なエピソードに嫌な顔をする人はおらず、会場は大爆笑に包まれた。北欧の中でもシャイな国民性で知られているノルウェーなので、そのことをあえて気にする現地の人はいないようだ。言葉や文化の壁で、すぐに新しい国に溶け込めないもどかしさは、移民や難民ではなくとも、外国暮らしをしたことがある多くの人が感じたことがあるのではないだろうか。

アハンガリ氏と彼の家族に、地元は近所のノルウェー人家族を紹介した。2家族は今、仲のいい友達として交流を続けている(冒頭写真:左 友人となったノルウェー人女性、中央 アハンガリ氏、右 ノルウェーの有名な司会者)。

4万7千人の町は、今年77人の難民を受け入れる

有名な野鳥保護区である湖があるオステンショ Photo:Asaki Abumi
有名な野鳥保護区である湖があるオステンショ Photo:Asaki Abumi

湖や林の豊かな自然に囲まれたオスロの自治体オステンショ町では、今年77人の難民を受け入れる。「私たちにも何ができることはないか」という地元の人々のための交流会が24日に開催された。

難民申請者としてノルウェーにやってきた人々は、1~数年間は受け入れ施設で暮らし、難民として正式に認定された後に、国内の自治体に送られる。受け入れ数は国や市議会が決めるので、自治体は断ることはできない。

オステンショ町はオスロ中央駅から地下鉄やバスで約20分ほど。移民や難民よりも、裕福そうなノルウェー人が多そうな自然豊かな住宅街だ。

このエリアで難民の受け入れが始まったのは2005年。当初は25人ほどだったが、毎年その数は増加し40人ほどに。昨年の欧州の難民問題が影響し、今年は77人を受け入れる。

難民の暮らしはどのように始まる?

難民認定された人々は、その後どのように暮らしをスタートしていくのだろうか。町の難民受け入れの担当者である、労働福祉局NAVのコーディネーター、カステンス・オべング氏に聞いた。

「自治体にとっての最大の問題は住居不足です。大人数を受け入れられる建物が必要だが、オスロ県では住居の競争率が高い。ノルウェー人の学生寮も足りていない状況です。家賃も高いですからね」。

毎月約20万円の給料で、入門プログラムを2年間

「今年はシリアなどからすでに28人の難民がやってきました。会話には通訳が常に必要です。自治体に着いた後は、健康検査のほかに、入門プログラムというものを2年間受けます。これは仕事の一種。毎月1万5千ノルウェークローネ支給されます(約20万円)。この間は、ノルウェー語の授業と職業研修を受け、現地でネットワーク作りにも励んでもらいます」。

「入門プログラムを受けた人の50~60%が仕事を見つけますよ。清掃員など、職業資格を必要としない職種が多めです」。

自治体に来た時は、モチベーションが高い人が多い

難民申請者でいる間に、受け入れ施設で1年間など長い時間を過ごしていた人が多いため、自治体に難民として来たときにはモチベーションが高い人が多いとオべング氏は語る。「新しいスタート」として、喜んでいる人も多いそうだ。

「もちろん、家族と離れ離れで落ち込んでいる人もいますが、深い鬱状態の人はあまりいませんね。いたとしたも、カウンセラーに通ってもらいます」。

ノルウェー人の家族と難民の家族が交流できるように、赤十字社が率先し、出会いの場所を作る手助けもしている。

「この地域の人々は、難民受け入れに対して好意的です。受け入れに否定的な雰囲気は、ここではあまりみられませんね」

オステンショ町では、18歳未満の子どもも、今年は7~8人受け入れる。家族と離れて単身で逃れてきた子どもや若者は、大人よりも精神的な苦痛を抱えていることが多く、社会に溶け込むまでに時間がかかることも。ホストファミリーとなってくれるノルウェー人は、まだまだ足りていない。

子どものホストファミリーとなったノルウェー人女性(左) Photo:Abumi
子どものホストファミリーとなったノルウェー人女性(左) Photo:Abumi

オステンショ町に住む一人のノルウェー人女性は、「子どもたちが独立して巣立ってしまったから、今はこの子がいてくれて嬉しいわ」と、ホストしている男の子を会場で抱いてた。

移民・社会統合大臣の厳しい規制の影響は、まだ現場には影響がない

厳しい移民・社会統合大臣がいることで知られているノルウェーだが、現時点では、受け入れ態勢に大きな変化は「まだ」感じていないとオべング氏は語る。「まだ」という部分を強調していた。

「もっと、難民の人たちと交流したいんだ」

公民館の会場では60歳以上とみられる年金生活の人々の姿も目立った。筆者が一緒に座っていたテーブルにいた2人のおじいちゃんは、「難民の人たちともっと交流したいんだけどね。普段はあまり出会う機会がないんだよ。もっと出会える場所があったらいいね」とニコニコと笑っていた。

オステンショ町の公民館の中には、ノルウェーの報道から伝わってくるような、国の難民に対するキリキリした緊張感は伝わってこなかった。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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