ノルウェーで深刻化する「殺し屋ナメクジ」問題 政党が「世界中でナメクジ拾い」企画を提案
「あぁ、またか!」。イライラしながら、家主がピンセットで「とあるモノ」を庭で拾い上げて、袋に次々と入れていた。巨大なナメクジだ。この光景は、多くのノルウェーの一般家庭の庭で起きている。
たかがナメクジ、されどナメクジ。
ノルウェーでは、雪がない春から秋にかけて、雨の日に住民を悩ませる生き物がいる。この茶色で巨大なナメクジだ。今や社会問題となっており、政治家がその対応を議論するほど、事態は深刻化している。
茶色い「殺し屋ナメクジ」とは?
日本で見かけるナメクジの2~3倍はあるほどの大きさで、およそ7~15センチほど。茶色や黒色で、雨の日に芝生や林のある周辺でよく見かけられる。現地では「ブラウン・ナメクジ」や「ブラウン・フォーレスト・ナメクジ」、と呼ばれる。その破壊力から「殺し屋ナメクジ」、「カンニバル・ナメクジ」と言われ、欧州各国では「スペイン・ナメクジ」とも。
「この大きなナメクジは何?」と、驚いた旅行者が、オスロなどで撮影した写真を、インターネットにアップすることもある。日本人ならば、衝撃を受けるサイズと気持ち悪さだ。筆者も、今年の雨の日だけで、もう何百匹も目にしており、好きではない。散歩中や駅前など、至る所で、にょろりにょろりと神出鬼没に現れる。
ノルウェーでの生息が拡大されたのは、1980年以降。庭や畑の花や野菜にからみつき食べ始めるため、その土地の自然サイクルを破壊している。寿命は1年ほどだが、1匹で400個ほどの卵を産むとされ、その繁殖力は驚異的だ。
ノルウェーの外来種ブラックリストで「ハイリスク」に指定
ノルウェー生物多様性情報局が最新で発表した「ノルウェーの外来種ブラックリスト2012年度」によると、確認された2320種類のうち、1180種が国の生態系に悪影響を及ぼす可能性があるとされている。その中でも、ブラウン・ナメクジは「ハイリスク」に指定されている。庭の植物を食い荒らすほか、ナメクジ駆除に市民が費やす時間などを考慮すると、その損害額は毎年5千~5億ノルウェークローネに及ぶと環境局は発表している。
対策に困る政府と自治体
効果的な駆除案がないことが、ノルウェー政府や各自治体の地方議員の悩みだ。複数の一般家庭が自分の庭のナメクジを必死に駆除しても、隣県の庭にはナメクジがいるままかもしれない。「ボランティア活動で、みんなで一斉にナメクジ掃除をしよう!」という議論は毎年起こるが、自治体全土の市民が積極的に参加したいわけではない。
左寄り小政党が「ナメクジ・アワー」を提案
野党で左派勢力の左派社会党SVは、「次の国会予算案に、3千万ノルウェークローネをブラウン・ナメクジ対策として充てるべき。それだけでは十分ではないので、年に2回、1時間、ノルウェー人みんなでボランティアでナメクジ拾いをしよう」と提案した。
世界各地で開催されている、人々が同じ日・同じ時刻に電気を消すアクションである「アース・アワー」のように、「ナメクジ・アワー」を提案しているのだ(書いていて、気持ち悪くなってきた)。左派社会党の政治家であるカスキ氏は、ノルウェー国内だけではなく問題が発生している各国での連帯が必要だとし、隣国スウェーデンにもナメクジ・アワーへの参加を呼び掛けている。
ブラウン・ナメクジ問題は政党色関係なく議論がされるべきだとは思うが、今回の提案者が「理想ばかりで現実味がない」とからかわれやすい小政党SVであることから(オスロ市長所属)、与党政党から馬鹿にされることに。「今年の最もくだらない政策案」、「エイプリルフール」と、与党の国会議員から笑われた。しかし、研究者からは「現政権はブラウン・ナメクジ問題の深刻性を理解しておらず、無責任だ」と批判している(VG)。
BBCは、「ノルウェーがナメクジ・アワーを提案している」と報道した。
ノルウェーといえば、政権交代も多いため、驚きの政策案が国会で後々通過することもある。数年後には、世界各国で同時ナメクジ拾いプロジェクトが行われているかもしれない。
Photo&Text: Asaki Abumi