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ノルウェーは「ファッションショー」にこだわる必要があるのか?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
byTiMoのコレクション Photo:Asaki Abumi

8月24・25日、オスロでファッションショー「オスロ・ランウェイ」が開催された。さて、今回の記事を書くにあたって、その方向性について今回は迷ってしまった。ノルウェーのファッションを応援しようという、知り合いの関係者も多い。罪悪感もあるのだが、正直に書くことにする。

「ノルウェジアン・ファッション」という国のブランドを確立させるために、文化大臣から補助金をもらうことが最大の目的となりすぎてしまっていないだろうか。そもそも、ノルウェーという、「ファッション国」とはいえない国が、無理に欧米の真似をして「ファッションショー」という形にここまでこだわる必要があるのだろうか。

HOLZWEILER Photo:Asaki Abumi
HOLZWEILER Photo:Asaki Abumi

「ファッション」業界で目立たないノルウェー

北欧の中で、ノルウェーは「ファッション」という色合いが薄い。子ども向けなどの機能性の高いウール素材やスポーツファッションは別だが、その以外のファッションはいまいち目立たない。いや、頑張っている方々もいるのだが、まだまだ「ノルウェーのファッションって、すごい」という意味では国外・国内では認識されていない。筆者は、ノルウェーの各ブランドはそれでも可能性があると思うし、情報として伝えていきたいと思う。ただし、ここ数年の「ファッションショー」騒動と「政治家に頼る」傾向は、違和感を感じざるをえない。

「ファッション・ウィーク」が確立されないノルウェー

ノルウェーには、実は有名な「ファッションショー」は、ない。ないし、なかった。あったが、自滅した。「オスロ・ファッション・ウィーク」というものがあったが、10年悪戦苦闘した後、2014年に幕を閉じた。クオリティの低さや、現場での不協和音が原因だ。「有名人たちのパーティー」だと批判され、スポンサーだったロレアルにも見限られた。ネガティブな頭文字の報道が当時から目立っていたことが、記憶に残っている人も多い。

2014年、「新しいオスロ・ファッション・ウィーク」として、オスロ・トレンドが始まり、それが現在のオスロ・ランウェイとなった。良いと思う。そこにクオリティが伴っているならば。

CATHRINE HAMMEL Photo:Asaki Abumi
CATHRINE HAMMEL Photo:Asaki Abumi

オスロ・ランウェイの出演ブランドに否定的というわけではない。むしろ、ADMIR BATLAK、日本でも活躍するCATHRINE HAMMEL、HAIKW/、JOHNNYLOVE、VERONICA B. VALLENES、MOODS OF NORWAY、FWSS、HOLZWEILERなど、ファッションショーは関係なくとも、もともと取材したいなと思っていたブランドばかりだ。byTiMoは、アジアやヴィンテージのデザインからインスピレーションを受けており、日本の着物を連想させるものが多かった。日本よりも、これをエキゾチックだと感じるであろう欧米でうけるのかもしれない。

FWSS/CalaJade/Diemme Photo:Asaki Abumi
FWSS/CalaJade/Diemme Photo:Asaki Abumi

ノルウェーで影響力がある人たち=白人の裕福層

気になったのは、会場にいた人々だった。そもそもクローズドのイベントで入場制限がかかっており、「インフルエンサー」とされる影響力のある政治家、業界人、報道陣のみが招待されている。ということは、筆者も報道陣の枠で、どうやら主催者が誇って語る「選ばれた人たち」の1人らしいが、正直、「この中で一緒にされるの、嫌かも」と思った。

ノルウェーの「インフルエンサー」たち Photo:Asaki Abumi
ノルウェーの「インフルエンサー」たち Photo:Asaki Abumi

驚くほど、白人、明らかな富裕層ばかりだったからだ。恐らく、オスロ西部に住む人たちばかりだろろう。オスロは、地図を見た時に、アーケシュアルバ(アーケル川)という川を堺に、東部と西部で分けられる。東部は学生や移民が多い貧困層、西部は「純ノルウェー人」とされる、移民などの背景がない富裕層が多いとされる。

ノルウェー統計局によると、国内には現在223か国からの移民が在住し、国内の13.4%が移民、加えて2.9%が移民第二世代となる。オスロでは、この層が32.5%を占める。平等先進国とされ、移民との暮らしが、いまや当たり前のノルウェーで、白人裕福層という、限られた社会階級の人のみを、「影響力がある人々」とすることに、ためらいはなかったのか。モデルも白人ばかり。ほかの取材現場では人種にはもっと多様性がある。一体、だれがターゲットなのだろうか。

この「インフルエンサー」という会場にいた方々は、もちろんお洒落で、高級そうな服を身に着けていた。

国際メディアは会場入り口でインフルエンサーたちをスナップショット
国際メディアは会場入り口でインフルエンサーたちをスナップショット

会場の外で、招待されていた外国メディアが、ストリートスナップフォトを撮影していた。彼らは、「ノルウェー人のファッション」として紹介されるのだろうが、一般人の代表とは言い難い。一般のノルウェー人は、ヴィンテージやH&Mなどの、格安ファッションやスポーツファッションが圧倒的に多い。

マイナビウーマン

「北欧ファッショントレンド2014―H&Mや古着が人気!ノルウェーのストリートファッションSNAP」

欧米の真似をせずとも、ノルウェーはノルウェーらしく、ノーメイクで、身体のラインがふくよかな、本来の人々に近いモデルをあえて採用したほうが、ノルウェーらしさがでる気がする。

4月にもファッション業界関係者向けのカンファレンスが開催されて、レポートを書いたが、この時も、イベント内容自体は新鮮さを感じず、むしろ残念だと感じたことも多々あった。

文化大臣から補助金を!

byTiMo Photo:Asaki Abumi
byTiMo Photo:Asaki Abumi

この時も、今回のファッションショーでも、重要ゲストだったのが、リンダ・カトリーネ・ホフスタ・ヘッレラン文化大臣だ。国や自治体から補助金をもらうために、一生懸命に政治家を招く傾向はノルウェー全体の特徴だ。政治家へのアピールにエネルギーを注ぎすぎていないだろうか。

この期間も、ノルウェー国営放送局の記事の内容は、オスロ・ランウェイを取り仕切るPR会社のイベントマネージャーが、国から補助金がでなければ、来年以降のショーは打ち切りだとする、メディアを利用した文化大臣への最後通牒だった。これに対して、文化大臣は「約束できない」と返答している。

ファッションショーがないと、ノルウェーのファッションはだめなのか?

CATHRINE HAMMEL Photo:Asaki Abumi
CATHRINE HAMMEL Photo:Asaki Abumi

そもそも、ファッションショーは、ノルウェーブランドを確立させるための「絶対条件」なのだろうか。関係者が集まる場所を作り、誇れる舞台があることは大事だが。

ノルウェーは特殊な国だ。ファッションや美意識の考え方が異なり、差がある社会階層を好まない。特定の美意識を植え付ける広告禁止や、「大量消費をやめよう、ヴィンテージの服を買おう」と唱える政党が複数ある。がんばりすぎて、無理に他国の真似をしなくてもよいのではないだろうか。

「みんなで応援しないといけない」空気

HOLZWEILER Photo:Asaki Abumi
HOLZWEILER Photo:Asaki Abumi

最後に、この業界には今、「みんなでノルウェーのファッションを応援しないといけない」という空気感がどうしてもある。国外のゲストはそれを感じないだろうが、国内では「●●のブランドが」という前に、「ノルウェーのファッションはよい」という言葉が呪文のように使われている。この雰囲気、実は、もしいまいちな作品があったとしても、批判しにくい空気をつくる。業界も狭いので、知り合いも多い。だからこそ、筆者も正直に書くことにためらった。

「うーん」とごちゃごちゃ考えながら、会場を後にしようとしたとき、出口で協賛しているヨーグルト会社の製品が配布されていた。スーパーで買える、いつものヨーグルトだ。定番のプラスチックパッケージに入れられた状態で、お洒落な容器にもいれられておらず、無理に飾らない。それがなんだかノルウェーらしいなと感じた。

Photo&Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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