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国民を感動させた王様のスピーチ。「私の祖父母は移民だった」。ノルウェー人って、誰?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
Foto: Sven Gjeruldsen,Det kongelige hoff

ノルウェー国王であるハーラル5世(79)による、スピーチが、「これまでのお言葉の中で、最も素晴らしい」と、国民を感動させている。

9月1日、首都オスロにある王宮公園で、全土から招待された国民1500人を招いたガーデンパーティーが開催された。そこでの国王によるスピーチが大きな感動を呼び、SNSを中心に「誇りに思う」と大絶賛されている。

難民問題が表面化して以降、保守党と、右翼ポピュリスト政党・進歩党による与党連立政権は、難民申請者の受け入れを厳格化した。右翼与党が安定した支持率を維持する一方、「ノルウェーは冷たい国になった」と批判する声も目立っていた。

環境政策が議論される一方、石油業界や車は、「環境の敵」だと一部の政党や団体から批判され、居心地の悪い思いをする人も増えた。また、同性愛者や、イスラム教徒であり同性愛者でもある、マイノリティとされる人々の人権における議論も活発化していた。

誰もが結婚して、子を持たなければいけないのか? 自分に自信がなく、鬱になることは、恥ずかしいことなのか? ブルキニと宗教の議論は、ノルウェーでも波紋を広げている。

ノルウェーという社会はどこに向かうのか? その風潮の中で、国王からのシンプルでストレートなスピーチは、多くの人々の心を動かした。スピーチ後、同性愛者の移民がカミングアウトしたり、移民の人々が国王に感謝の言葉を述べるなど、大きな反響を呼んだ。

見方を変えれば、政治的なメッセージだとも捉えられる。しかし、「王室という立場で発言が許される限りで、史上最高のスピーチをした」と、報道機関や弁論の専門家たちからは高評価を得た。

筆者の周りでも、フェイスブックで「感動した」とコメントしている人が多かった。ノルウェー国営放送局がフェイスブックで投稿したスピーチの動画は、この記事の執筆時点で320万回を超えている(ノルウェーの人口は520万人)。

一部、翻訳

ノルウェーとは、なんでしょう?

ノルウェーとは、人でできています。

ノルウェー人とは、北部県民、中部県民、南部県民。そして、全ての地域の人々のことです。

ノルウェー人とは、アフガニスタン、パキスタン、ポーランド、スウェーデン、ソマリア、シリアからの移民でもあります。

私の祖父母は、110年前のデンマークと英国からの移民です。

私たちが、どこからやってきたのか、それは時に簡単に言い表すことはできません。どこの国籍に、私たちが所属しているかも。

私たちが、故郷とよぶものは、私たちの心の中にあり、国境で位置づけすることはできません。

ノルウェー人とは、若者で、高齢者で、背が高く、背が低く、健康で、車イスを使う者もいます。100歳以上の人も増えてきました。ノルウェー人とは、裕福で、貧乏で、その間にいる人もいます。

サッカー、ハンドボール、クライミング、山頂、船が好きな人もいれば、ソファに座っていることを好む人もいます。

自分に自信がある人もいます。ありのままの自分が、すでに十分なのだと、信じられずに苦しんでいる人もいます。

ノルウェー人は、店、病院、石油掘削施設で働きます。私たちが安全でいられるように働き、地球からゴミを掃除して、グリーンな未来のために新しい解決策を探します。

ノルウェー人は、熱心な若者、人生経験が豊富な高齢者です。ノルウェー人は、独身で、離婚していて、子どもがいる家族で、年老いた夫婦です。

ノルウェー人は、女の子が好きな女の子で、男の子が好きな男の子、そして、お互いを好きな女の子と男の子です。

ノルウェー人は、神様を、アッラーフを、全てを信じます。何も信じない人もいます。

ノルウェー人は、グリーグ(作曲家)、Kygo(今大人気のDJ)、Hellbillies(90年代からのロックグループ)、 Kari Bremnes(フォーク音楽家)が好きです。

別の言葉で言うと、ノルウェーとは、あなた方です。

ノルウェーとは、私たちです。

私のノルウェーへの最大の望みは、互いを思い合っていくことです。

私たちには違うところもありますが、私たちはひとつです。

ノルウェーとは、ひとつなのです。

出典:ノルウェー王室公式HP Hagefest i Slottsparken: Velkomsttale

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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