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「ノルウェーでは豚肉を食べ、酒を飲み、顔を見せるのよ」、移民・「社会統合」大臣の爆弾発言が炎上

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
Photo: Asaki Abumi

シルヴィ・リストハウグ移民・社会統合大臣の爆弾発言は、相変わらず収まることがない。右翼ポピュリスト政党である進歩党のリストハウグ氏は、同党の将来の党首候補ともいわれる。移民や難民の受け入れに懐疑的な人々の間では、「未来の首相に」と望む声も少なくない。

リストハウグ氏はノルウェーの大臣たちの間でも、ソーシャルメディアのFacebookでは、高いフォロワー数を誇る。人口約520万人の国で、フォロワー数は8万人以上。ソールバルグ首相と共に、政治家の中でも最も活発なSNSアカウントといえる。

18日、リストハウグ大臣のこの投稿が、各マスコミの見出しを大きく飾ることとなった。

ノルウェーに来る人々は、私たちの社会に適応しなければいけません。ここでは、豚肉を食べ、酒を飲み、顔を見せるのです。この国に来るのであれば、ノルウェーの価値、法律、規則に従うべきです。

出典:Facebook. Sylvi Listhaug

さすがにこの投稿には、移民として暮らす筆者も吹きそうになった。「何を食べるかくらい、好きにさせて……」。

しかも、筆者の周りにはヴィーガンやベジタリアン、酒を飲まないノルウェー人も意外と多い。大臣の描写する「ノルウェー人」は、「進歩党党員」の代表ではあるかもしれないが、約520万人のノルウェー人とは結び付かない。

大臣のこの投稿は、4600回シェアされ、2万人が「いいね」を押している。

顔を見せる、見せないの議論は、ニカブやブルカのことだ。

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この投稿は賛否両論で、各報道機関も大きく取り上げた。大臣のコメント欄には、さまざまな反応が届く。通常は支持者からの応援の声が圧倒的に多いのだが、今回に限っては、疑問や反対の声をあげるノルウェー人が多かった。

反対派

  • 怖いわ。(その通りにしないなら)納税していても、人生を支援してもらえないということですね。ノルウェー生まれでも、移民でも
  • ノルウェー人全員があなたが描写するような生活をしているとお考えとは、興味深いです。ノルウェーに住んでいる人たちが、どういう人たちか、あまりにも狭すぎる描写ではありませんか?
  • 私たち多くのノルウェー人も、かつては土地を移動していたのですよ。この国に住むために、豚肉を食べたり、酒を飲む必要はないと思いますよ
  • 中国では私は犬を食べなかったし、フランスではエスカルゴを食べなかったし、スウェーデンでは私はニシンを食べませんでしたよ
  • 全く賛成できない。ノルウェーは民主主義国家で、宗教の自由があるということを忘れたの?ノルウェーの法律を読んでみたら?
  • シルヴィさん、私はノルウェー料理のヒツジの頭が嫌いです。元の国に戻らないといけませんか?

賛成派

  • なんてすばらしい大臣。やっと、勇気をもって発言する人が現れた。がんばってください
  • 同意!私たちは彼らに強要はしないけれど、彼らも私たちの生活を変えることはできない!
  • 私たちは価値や文化を変えない。彼らの前に宗教が立ちはだかるようなら、自分の国に帰れ
  • ノルウェーのために戦ってくれて、ありがとう
  • 我々の社会で起きているイスラム化ともっと戦ってください
  • どこの労働環境でもドレスコードがあるのだから、それに適応するのは当たり前のこと、移民だってそう
  • 移民をとめて。彼らはハローワークからお金をもらうためにやってくる
  • ノルウェーは私たちの国。ここに来る人は順応しなければいけない

SNSやマスコミからの反応に、大臣は珍しく対応に追われていた。眉をひそめた人々に対して、移民大臣は後々、「誤解だ」と説明している。

どうやらたくさんの反応が今日はあるようですね!とてもいいことです!

豚肉を食べたり、酒を飲んだりすることを強要させたいわけではありません。

ノルウェーにいる人々は、ノルウェーでの労働市場に適応しなければいけないということです。飲食業界で働くのであれば、豚肉や酒を提供しなければいけません。

就職活動の面接で、ジョギングシューズや帽子で現れないでしょう。ニカブやブルカで顔を隠したままでは、仕事を見つけることは難しいのではと私は思います

出典:Facebook. Sylvi Listhaug

この投稿は1万4千の「いいね」がされ、735回シェアされている。

炎上させ、議論を起こさせるプロ?

リストハウグ氏の過激な言動は、国内外でも注目を集める。

Independent

Norway integration minister faces resignation calls after telling Muslims 'we eat pork and drink alcohol'

メディアでは批判されがちな大臣だが、一点、日本では知られていないことがある。

リストハウグ氏は、国内では有名なPR会社ファースト・ハウスで働いていた。この企業は政界でも影響力が強い。リストハウグ氏は、どうしたらSNSで人を惹きつけ、わざと議論を呼び起こし、どのような発言がジャーナリストを喜ばせるか、熟知しているPRのプロなのだ。

「難民の体験を共有」するために地中海に飛び込んだ件も、報道陣を船に同行させていた時点で、話題づくりのために計算されていたとしか思えなかった。今回もそうだ。移民大臣には何回か取材したこともあるが、彼女は、世間が移民や難民議論で両断され、議論が活性化することを楽しんでいる。駆け引きに長けた、タフな大臣だ。

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Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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