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「社会援助に甘えて、働こうとしない」ノルウェーのソマリア移民・難民における議論

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
議論を望むノルウェー移民・社会統合大臣 Photo:Asaki Abumi

20日、ソマリアからの難民であった作家アマル・アデンさん(1983)のとある寄稿が、ダーグブラーデ紙に掲載された。アデンさんはノルウェーに住むソマリア人の問題点を、「社会統合を成功させるためには、もっと議論すべきだ」と問いかける。

人口約520万人のノルウェーで、ソマリア人は約2万8千人。政府は、移民が十分に納税をしておらず、福祉制度に依存していることを問題視している(その中には日本人を含むアジア人も含まれる)。

その中でも、社会援助を受けているソマリアからの人の割合は38%と高く、シリア30%、アフガニスタン22%、イラク20%と続く。

およそ10人中4人のソマリア人が社会援助を受けていることになる。首相は、「この国に来る人が努力をしようとしなければ、ほかの人がもっと税金を払わなければいけない」と警報を鳴らした(国営放送局)。

アデルさんは、宗教や文化的な壁が邪魔をして、ソマリア人は働こうとせず、公共職業安定所からの社会援助に甘えていると指摘する。

社会に溶け込もうとせず、法律や規則を守ろうとしない人々の責任は、誰がとるのでしょう?

私は宗教が原因で、働こうとしない人々に会ってきました。酒や豚肉を売りたがらなかったり、家で子どもの世話をするほうがいい、という人たちです。夫の許可が得られずに、外出できない女性にも会いました。宗教を言い訳にして、子どもを叩いたり、複数の妻をもったり、親が子どもの生活をコントロールしているのです。若者や同性愛者もその犠牲となります。

幸運なことに、多くの人は社会に溶け込んでいきます。しかし、職業安定所の行列に並び、宗教が原因で働こうとしない人々はどうするのでしょう?社会に出てこようとしない人たちに、自治体はどう向き合っていくのでしょう?

ここでは偽名を使いますが、私はファトゥモという、ソマリア出身の30代のイスラム教徒に出会いました。ノルウェーに住んで5年、ヒジャブを被り、宗教をなによりも大切にしています。

彼女は若いイスラム教徒の子供たちに、ノルウェー人のようにふるまわず、良いイスラム教徒でありなさいと教えようとします。

彼女はノルウェーが嫌いです。しかし、職業安定所からもらえるお金は大好きです。

彼女は援助金をもらう術を知り尽くしています。彼女のような人々は、とれるだけ、とろうとします。

酒や豚肉を仕事先で提供することを拒みます。病院での仕事もすすめられましたが、男性の世話をしたくないと言います。彼女は、イスラム教徒にあわせた職業があってもいいはずだと主張します。

このようなファトゥモたちの存在に、目をつぶってはいけません。社会からとれるだけとろうとする人々に対して、私たちも厳しい条件を突きつけなければいけません。だって、私たちが望んでいるのは、そのような社会ではないでしょう?

出典:Dagbladet

この投稿は、大きな反響を呼んだ。移民や難民の人々が、このような議論を起こすと、本人たちが脅迫や暴力を受けることが多い。

322件の脅迫メール

25日のダーグブラーデ紙で、アデンさんは、322件の脅迫メールを受け取ったと語る。その差出人の多くは、難民や移民からというよりも、「ノルウェーに長く住みすぎて、通常であれば社会統合されているはずの人々」や、ノルウェー国外のソマリア人からだと彼女は語る。

難民のために働いている人の中には、私の主張は、“社会統合の流れそのものを、台無しにしてしまう”という人もいます。右翼が正しいということを、私が後押しすることになり、それで怒る人がいるのは当然だと。私は右翼でも左翼でもありません。目的は議論を始めることでした。でも、脅迫はその意味をなくします

出典:Dagbladet

この報道後、アデンさんの勇気ある投稿と、議論しようとする姿勢を応援する政治家が現れた。シルヴィ・リストハウグ移民・社会統合大臣(進歩党)だ。

がんばるのよ、アマル・アデン!発言の自由のために立ち向かい続けてください。私たちはあなたを応援します。

300件以上の脅迫が届いていることは、受け入れがたいことです。脅迫の多くは国外からでした。なぜなら、彼女は自身が体験した、本当の問題を口にしているからです。

出典:Facebook. Sylvi Listhaug

同大臣も、同じ問題を議論したが、[ 「ノルウェー人は誰もが酒や豚肉を食べる」と解釈される書き方をした]ために、大きな批判を浴びた。

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ただし、アデンさんや大臣の言い分だけを聞くと、「多くのソマリア人などが、宗教・文化が原因で就業をしようとしていない」かのように思えるが、それを裏付ける統計や調査結果はない

ほんの一部の例が、特定の人種や外国人を総括してしまい、「北欧の福祉制度に甘えようとしている」というステレオタイプを浸透させてしまうリスクがある。移民大臣などのストレートすぎる発言が、不必要な「異端者恐怖」を世間に拡散させてしまうと、批判される一因だ。

難民申請が許可されたソマリア人1600人を再調査

ほかにも、ソマリア人の間では動揺が広がっている。ノルウェー政府は、難民として正式な滞在許可を得た1600人を再調査予定。滞在許可を取り消し、平和となった故郷に送還させる可能性があることを発表した(国営放送局)。すでに与えた難民のステイタスをこのような形で取り消すのは、ノルウェーでも初となる。

「帰国し、母国の再建に取り組みなさい」と、リストハウグ大臣は自身のフェイスブックで語る。

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Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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