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ノルウェー流・意思決定と討論の「席順」 上下関係を崩した「椅子の輪」の魅力

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
10個ほどの「椅子の輪」が重なった討論の場 Photo:Asaki Abumi

28日、ノルウェーの首都オスロ市内で、ノルウェー政府が主催する環境政策における会議が開催された。この日、とある風景が強く印象に残ることとなった。それは、上下関係よりも平等を好む、北欧らしい一面だった。

記者会見やカンファレンスの壇上、これは一般的 Photo:Asaki Abumi
記者会見やカンファレンスの壇上、これは一般的 Photo:Asaki Abumi

前半、記者会見だった会場では、壇上に(写真上右より)アーナ・ソールバルグ首相、ヴィーダル・ヘルゲセン気候・環境大臣、デンマーク人であり、元欧州委員会気候変動委員/元気候・エネルギー大臣だったコニー・ヘデゴー氏、ノルウェー人実業家であるIdar Kreutzer氏という大物が並ぶ。

壇上の話者の話を、多少下の位置から眺める形で聞くのが普通。手前は首相 Phoot:Abumi
壇上の話者の話を、多少下の位置から眺める形で聞くのが普通。手前は首相 Phoot:Abumi

主役が壇上の上から、観客を見下ろし、全体に話しかけるような構図が、このような場では一般的だ。

だが、この後、休憩時間に、主催者たちが椅子の位置を全て移動しはじめた。「何をしているのだろう?」と思ったら、会場の中央を中心に、丸い円を描くように、椅子の位置を置き換えたのだ。

中心には、当初、丸い形の台も置かれていた。そこに椅子を置き、スピーカーが座るのだろうと思ったのだが、真ん中だけ高いのは違和感があると思ったのか、それも結局取り除いていた。

結果、話し手と観客の間で、段差は一切なくなり、小さな椅子の輪を、一回り大きい椅子の輪が囲み続けるという図ができた。

椅子の輪が、さらに何輪もの輪で囲まれ、太陽のような図に Photo:Abumi
椅子の輪が、さらに何輪もの輪で囲まれ、太陽のような図に Photo:Abumi

中央の5脚の椅子には、司会者とスピーカーたちが座り、周囲の椅子は誰もが自由に座っていい雰囲気となっていた。大臣やら党首やら、ノルウェーではおなじみの大物たちが、上座・下座を意識せず、好きな場所に座っていた。

主役の話し手たちは、花やお洒落な家具に囲まれて話すこともできたはずだ。そもそも、当初の構図で、そのまま討論は始まってもよかった。しかし、きれいとは言い難い、部屋の中央の柱の側で始まった会話は、緊張をほぐし、面白いものだった。

このような討論の場では、テーマが変わるごとに、話者も全員一斉に交代する。だが、ここでは、1人が席を立ち、別の人物がそこに座って話が続くという、不思議な流れをとっていた。まるで、飲み会のテーブルに人々が気まぐれに移動してくるかのようだ。

ノルウェーの気候・環境大臣も、自分の話が終わると、別の椅子に移動していた。小腹がすいたようで、自分で飲み物などをとりにいき、ニンジンケーキを食べながら話を聞いていた。秘書に頼まず、自分で動いているのはノルウェーらしい。

また、椅子のサークル効果は不思議なもので、座る場所によっては、スピーカーのお尻や背中がこちらを向くことになる。違和感はあるが、失礼だとは感じない。ほかの話し手の顔はみえるので、まるで自分もその場に参加しているような気分になる。周囲の人たちの表情も見やすかった。

話者は1人ずつ交代する Photo:Asaki Abumi
話者は1人ずつ交代する Photo:Asaki Abumi

これまで、いくつもの政策会議をノルウェーでみてきたが、このような「椅子の輪」を作った場は初めてだったので、新鮮だった。

たまには、いつもとは違うことをしてみると、話し合いの場に、新しい空気をうむことができるのかもしれない。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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