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学費無料のノルウェー+留学生にも返還不要の奨学金100万円を支給

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
オスロ大学でのノルウェー語の授業 Photo:Asaki Abumi

「ノルウェーは学費が無料」。日本人からすると考えられないことなので、すぐに信じてもらえない時があるのですが、これは本当です。

また、日本では知られていないことですが、一定の条件をクリアすると、留学生も返還無用の奨学金をもらえます。私は大学院進学にあたり、約100万円支給されていました。

ノルウェーでの学生生活について、質問をいただくことが多いので、長文となりますが、詳細をまとめました。

私は2008年にノルウェーに引っ越してきて、移民生活8年目となりますが、オスロ大学で8年間かけて、メディア・コミュニケーション学の学士号と修士号を取得しました。

  • 2008年 オスロ大学でノルウェー語講座
  • 2009~2016年1月 オスロ大学で学士号、オスロ大学大学院で修士号(学士号は3年、修士号は通常は2年です。私は健康状態が原因で、学科と医者からのアドバイスにより、大学院は3年かけて通いました)
2010年当時のオスロ大学キャンパス Photo:Asaki Abumi
2010年当時のオスロ大学キャンパス Photo:Asaki Abumi

学費は無料!

国立大学では学費はかかりません。1年に2回、コピー機の印刷代や福祉機関の利用費として約1万円を払うのみでした。

とはいえ、物価が高い国なので、家賃や食費を考えると、「勉強するのが安い国」とは言い難いです。予想外なのは、教科書代。紙の価格が高い国なので、教材代にいくらかけたのか、あまり考えたくないほどです。

1学期で購入した教材、加えて電子教材がある Photo: Asaki Abumi
1学期で購入した教材、加えて電子教材がある Photo: Asaki Abumi

大学試験はなし!高校の成績で合格が決定

大学試験というものはなく、書類審査のみ。日本から、高校と日本の大学(私は上智大学卒)の成績を英語翻訳して郵送しました。面接はなし。

英語ができることを証明する書類も必要だったのですが、英語の国際試験を受けることが正直面倒で、オスロ大学に問い合わせました。私はオーストラリアの高校に1年間留学していたので、当時の成績表を全て郵送したところ、英語の試験は不必要という連絡がきました。この辺りは、融通がきくノルウェーらしいところといえるかもしれません。

日本の大学の成績は、恐らく合否にほとんど関係していません。大事なのは、高校の成績。ノルウェーでの大学の合否は高校での成績で、入学できる学科が決まります。

書類郵送後、オスロ大学からメールが届いて、第一希望のメディア学科に合格しました。

正規学生になる前に、1年間ノルウェー語講座(無料)

気晴らしにノルウェーの文化やフランス語の授業も受けていました
気晴らしにノルウェーの文化やフランス語の授業も受けていました
日本語学科のノルウェー人学生にも食堂でよく勉強を手伝ってもらいました
日本語学科のノルウェー人学生にも食堂でよく勉強を手伝ってもらいました

外国人の場合、すぐに正規生として勉強がスタートするわけではありません。移民局や政府の取り決めで、まずはオスロ大学で1年間のノルウェー語の授業を受けます。通常の外国人なら1年半かけて通過するコースですが、正規生プログラムではスパルタの詰め込み1年間コース。ノルウェー語のレベル1・2・3の試験を全てクリアした者のみが、2年目から合格通知を受けた学科で普通に勉強ができます。

ちなみに、このコースでは続々と落第者が出ます。合格できないと2年目のビザを更新できず、泣く泣く帰国した生徒もいました。

正規プログラム開始、壁となった5言語と方言!

突然、自分だけが外国人の環境に Photo: Asaki Abumi
突然、自分だけが外国人の環境に Photo: Asaki Abumi

2年目、無事に正規生としてメディア学科での大学生活が始まりました。学科にもよりますが、この学科はノルウェー語で勉強。ほかに外国人はおらず、移民背景のあるノルウェー人もほぼゼロ。学科に確認したところ、どうもアジア人留学生がメディア学科に正規生としていること事態が初のようでした。

大変だったのは、言語でしょうか。ノルウェー語ができれば何とかなると思いきや、教科書はノルウェー語(しかもノルウェー語は2種類あり、私が勉強したのは片方のみ)、スウェーデン語、デンマーク語、英語が読解できなければいけませんでした。しかも、議論をしなければいけないセミナーでは、学生たちがこれらの言語に加えて方言で話す(特に私の副専攻だったジェンダー平等学)!出身地によっては、聞き取りがとても困難です。

よく留年せずにすんだなと思います。最高点をとることは目標にせず、きついなと思ったら、スウェーデン語の教材は時に読むことは諦めました。筆記試験でも、完璧な文法やスペリングではもちろん書くことはできませんでした。しかし、なぜか大学生活の成績は、全体的に中級レベルの成績で、一度も落第点をとることはありませんでした(今でも不思議)。

ノルウェーでの大学は入学は簡単ですが、卒業が大変です。大学でも大学院でも、ノルウェー人が何人かドロップアウトしたり、途中で諦めて学科を変更などしていました。

試験なしで大学院へ進む

メディア学科での授業風景 Photo:Asaki Abumi
メディア学科での授業風景 Photo:Asaki Abumi

最初は大学院に進むことは、全く考えていなかったのですが、オンラインで応募するだけだったので、まさかと思いつつ、進学希望はだしていました。

ただ、希望を出すときに、また問題となったのが、英語能力の証明。オスロ大学大学院のメディア学科は2種類あり、英語で受ける留学生向けのコースと、ノルウェー語で受けるノルウェー人向けのコースがあります。私の場合は留学生コースとなるのですが、また「英語の試験を受けよ」とのこと。しかし、英語はできると思っていたし、今更ながら試験対策をするのは嫌だったので、学生カウンセラーに相談。そうすると、「あさきはノルウェー語で学士号取得できているから、英語試験を受けたくなければ、ノルウェー人向けのコースに応募できるみたいだよ」という驚きの返事をいただいたのでした。

結果、なぜか大学院にも合格し、ノルウェー人しかいないメディア学科生活がまた始まりました。

留学生も返還不要の奨学金をもらえるという驚き(面接なし)

そこで、この時浮上したのが、「奨学金」。

私は、自分は外国人・留学生・移民だと自覚していたので、ノルウェー人の友人たちが恩恵を受けている奨学金は、自分とは一切関係ないと思っていたのです。

ところが、ノルウェー人の友人たちがサイトを調べていて、「外国人でも、ノルウェーの高等教育を一度終えている者は、奨学金受けれるって書いてるよ」と教えてくれました。

「いや、そんなことないだろう。そんな優しい国ないだろう。外国人に政府がお金をあげるわけないだろう」と思ったのですが、確かに公式サイトに書いている。

日本の高等教育(大学)を終えただけでは無理ですが、ノルウェーのオスロ大学を終えたので、確かに応募できるらしい。「いや、そんなことはないだろう」と半信半疑で応募しました。ビザのコピーなど、一部書類を郵送し、あとは簡単にオンラインで申し込み。

そうしたら、本当にいただけました。

返還する必要のない奨学金。計2年間分で7万5450ノルウェークローネ。現在1ノルウェークローネ13円なので、約100万円です。ただ、振り込まれていた当時は1ノルウェークローネが17円ほどだったので、128万円前後となります。

大学は2学期制で、学期の初月に約1万800~900ノルウェークローネ、2月目からは約3000ノルウェークローネが自動的に銀行に振り込まれていました。

ちなみに、私が応募したのは、「返還不要の奨学金」のみで、希望をすれば「返還要の奨学金=ローン(借金)」も可能です。

面接や試験もなく、応募しただけで銀行口座に奨学金が振り込まれていたので、あまりの簡単さにあっけにとられたのを覚えています。

ちなみに、奨学金はしっかりと単位を獲得した生徒のためのものです。もし、留年などで指定の単位が取れていないときは、返還要となります。それは、大学側が、試験後に成績を国家教育ローン基金に報告することで、順調に学業をこなしていると判断されます。

外国人の私に政府が約100万円も支給し、学業を支えてくれたことには本当に感謝しています。

卒業式?とは言い難い簡単な食事会で学科からお花をいただきました
卒業式?とは言い難い簡単な食事会で学科からお花をいただきました

修士論文は2015年年末に提出し、口頭試験を1月に終え、合格。その後、卒業証書はシンプルに郵送されており、「感動的な卒業式とかはないのね」と思っていました。学生気分はとっくに過ぎ去った5ヶ月後、メディア学科限定の卒業セレモニーに招待されました。名前とタイトルが読み上げられてのシンプルな食事会でした。

平等に、みんなに勉強するチャンスを

ノルウェーの教育機関では、子持ちの学生、花粉などのアレルギーのある生徒、学習障害、試験にストレスを覚えやすい人など、さまざまな学生に対しての支援が整っています。

とはいえ、ノルウェーに住み続け、税金を払うなど、将来的に国家に貢献するかわからない留学生にまで返還不要の奨学金制度があるとは、驚きでした。ここまで、「平等」を貫こうとするのもノルウェーらしい。

いずれは終わるであろう、外国人への驚きの対応

しかし、この流れにも変化がでています。現在、移民や難民に厳しい右翼ポピュリスト政党もいる連立政権では、欧州経済領域の非加盟国の留学生に対して、学費を有料にすることも検討。しかし、有能な頭脳をもつ留学生がこなくなってしまうと、一部の学長などは反対しています。

石油資源でお金持ちとされるノルウェーですが、その石油の恩恵にも限界があり、「誰もに学費無料」の流れがいずれ終わってしまうことは、不思議ではありません。与党が右翼・左翼かは関係なく、いずれは欧州経済領域の非加盟国の留学生に対しては、学費や奨学金は有料となるのではないでしょうか。

とはいえ、外国人学生に対する様々な優しすぎる対応は(ほかにもある)、現時点では国会討論での主要テーマとはなっていません。現時点では、誰もが無償で勉強できます。難民も、もちろん無償で勉強できます。

論文を提出し、約1年後にすべての成績が承認された直後、ローン基金からはこのようなお手紙が届きました。「この手紙をもって、あなたの奨学金期間と義務が終了したことを証明します。あなたが、学業を楽しめたことを、我々は願っています」。

国家教育ローン基金

Study in Norway

オスロ大学

駐日ノルウェー王国大使館 滞在許可(長期ビザ)

※ビザ、入学条件、奨学金の申し込み基準などは、毎年内容や条件が変更されます。最新情報は関連サイトを参照ください。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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