ノルウェーFMラジオ放送を廃止へ。DAB+が今後の未来? よくある質問

筆者の家のラジオには「FM/DAB DAB+」の記載がPhoto:A Abumi

1月11日11時11分より、ノルウェーでは12月13日までを目標に、国内のFMラジオ放送の大部分を段階的に廃止していく。

今後は、「DAB+」(Digital Audio Broadcasting) というデジタルオーディオへと移行。

年内の完全移行の対象は、14チャンネルを持つ国営ラジオNRK、全国にわたって放送される民間ラジオ局の最大手「ラジオ・ノルゲ」と「P4」の2社、また一部の地方局。その他の地方局の200チャンネルほどは、2021年までFM放送で視聴可能予定。

筆者が「ノルウェーがFMラジオを廃止する」と聞いたのは、もう6年以上前になるだろうか。オスロ大学メディア学科の授業で、ノルウェーの通信事業者テレノールの社員がゲスト講演していた時に触れていた。だが、すぐに信じることができず、周りの学生も無反応だったので、「私はノルウェー語を聞き間違えたのかな?」と思ってしまった。

この取り組みは世界初とされている。移行計画を国民に詳しく解説するサイト「radio.no」によると、デンマーク、英国、ドイツ、イタリア、オランダ、スイスなど、今後41か国がDABを将来的なプラットフォームとして検討中だそうだ。

同サイトによると、人口520万人のノルウェーでは300万人以上が毎日ラジオを聴いており、国民の71%がDABラジオを保有している。DABはすでにFMに匹敵するほど浸透しており、国民の99.7%が国営ラジオを、92.8%が民放ラジオをDABで視聴。国内の電化製品店などでは、DAB+のラジオ製品は6年間ほど前から販売。ノルウェーではDAB+の放送はすでに2010年より開始されていた。

「DAB」の定義には、「DAB」と、さらに進化した「DAB+」の両方を含む。筆者のラジオのように(冒頭写真)、DAB+と表記されている製品であれば、DABとDAB+の両方を聴くことができる。

FMラジオではラジオの発展に限界があり、DABにすることでチャンネルは増加し、音質は向上。FMとDABの両方を維持することは費用がかさみ、DABだけにフォーカスすることで、国民によりよいものを提供できるとしている。

縦に長い地理的条件がノルウェーのデジタル化を進める

深いフィヨルド、高山、各世帯との物理的距離が離れている地理的条件が、ノルウェーがDAB先進国となった理由だとサイトでは述べられている。

これは本当のことで、ノルウェーが様々な面でデジタル化を進めている理由でもある。縦に長い地形で、雪や山などが原因で交通・通信が不便。人と人とのコミュニケーションに時間や手間がかかることから、経費を抑えるためにも、デジタル化がなによりの解決策となってきた。これは筆者がいたオスロ大学メディア学科でも、この国のメディアの特徴として何度も言われてきたことだ。

アナログを好む人は置いてきぼりに?

デジタル化は、ラジオだけではなく、個人情報、硬貨や紙幣、教育現場など、様々な場所で驚異的なスピードで進んでいる。国民の動きをデータ化し、管理できるという点では政府にとっては便利かもしれないが、アナログを好む人は置いてきぼりにされる可能性もある。

DABラジオは以前から販売されており、筆者の家にもある。とはいえ、11日になった瞬間、DABラジオ製品をまだ購入していない国民が、ラジオが聞けなくなる、というわけではない。ラジオは、今やネットでいつでも好きな時に聴くことができる。筆者は、ラジオはパソコンかスマートフォンで聴くことのほうが多い。

このラジオのデジタル化の流れについていけずに困る人がいるとしたら、ニュースをあまり聞いていない人や、特に地方に住む車の運転手だろう。

ノルウェー政府や自治体が新たな政策を打ち出した時、人々が困るのは情報共有だ。政権交代が頻繁に起こるノルウェーでは、政策も変わりやすい。だが、その情報は市民一人一人に丁寧に伝えられるわけではなく、変更のお知らせなどが届くこともない。筆者が政治家にインタビューしていて驚くのは、政治家は「(自分たちがそうだから)市民全員が毎日ニュースをチェックしている、また我々自治体の公式HPを訪問しているだろう」と思っていることだ。

今回のラジオに関する変更や対策は、普段毎日ニュースを見ていれば、戸惑うことはないだろう。だが、誰もが毎日NRKなどのページをクリックしているわけではない。また、ノルウェー語が分からない在住外国人にはさらに壁が高い。

ノルウェーでもし自然災害が発生したら?、ということを日本人は疑問に思うかもしれないが、実はこれはノルウェーではあまり議論されていない。この国には、大きな自然災害がほぼない。

車や山奥でDABは聞けるのか?

むしろ、ノルウェーで懸念されていることは、「週末の山小屋でラジオが聞けなくなるじゃないか!」という、いかにもこの国らしい平和な心配事だ。

ノルウェーの多くの人は、山奥に「ヒュッタ」という「別荘」、「丸太小屋」を所有し、週末やバカンスにのんびりと過ごすことを好む。そのため、「山奥でラジオが聞けなくなるではないか」、そして、「趣味であるボート(船)でラジオは聞けるのか」、ということのほうを心配している。

radio.noなどでは、山小屋を愛する国民のために、「ヒュッタではどうする?」というページを設け、解説動画も出している。

ラジオ改革が国民の経済的な負担に

強制的なラジオのデジタル化は、国民の財布に負担だろうか。政府などは、デジタル化によりチャンネルは増え、便利になるとしており、データ料金などが多少増額されることとなっても、コストパフォーマンスはよいとしている。

現地の電化製品店のサイトを見ると、DABラジオは一番安くて199ノルウェークローネ(2700円)だ。最も売れている製品は399ノルウェークローネ(5400円)。

だが、radio.noの製品一覧では、山小屋ヒュッタで利用でき、山で推奨される12電源というふたつの条件を選択すると、価格は1118~3999ノルウェークローネ(1万5000~5万4000円)と倍となる。加えて、車の所有者の場合、さらにラジオ交換に費用がかかるだろう。その人のライフスタイルによっては、嬉しくはないコストがかかる。

ゴミ増加になるのでは?ノルウェーのラジオサイトに掲載された「よくある質問」

FMラジオ廃止で、ラジオ製品を捨てなければいけない人が続出し、ゴミが増えるのではないか?radio.noでは、99%のFMラジオは再資源化が可能なため、市民がゴミ分別をしっかりすれば問題はないとしている。

DABのほうがFMよりバッテリーを消費するのでは?

radio.noは、消費量は製品によって異なり、ラジオがそもそも電力をたくさん使用するかというテーマにおいては、DABもFMも関係はないとしている。

520万人の国で、200万台の車がラジオ交換へ

radio.noによると、今回のFMラジオ廃止にあたり、200万台の車がラジオをアップデートする必要があるだろうとされている。

11日より国内各地から徐々にFMラジオは廃止されていく。首都オスロでは9月以降だ。FMラジオ廃止は国民の生活にどのような影響を及ぼすか、1年をかけて試されることとなる。

クリスマス前には、FMラジオ廃止に対して、安全対策は本当に充分なのかという指摘から、国会では政党が議論を続けていた。しかし、結果は変わらず、11日から廃止開始という計画は続行されることに。

12月21日のダーグブラーデ紙の世論調査では、66%のノルウェー人が「強制的にDABへとラジオの聴き方を変えられる」ことに対して反対だと答えている。

もうすぐ、ノルウェーではFMラジオ廃止の1日目を迎える。初日の対象地域とされているヌールラン県の人々は、どのような1日を過ごすのだろうか。また、同時にチャンネル構成にも変更が行われるため、全国の国民はチャンネルを改めて合わせなおす必要がでてくる。これまでNRKがDABで流していたチャンネルは、DAB+へと完全に移行し、チャンネル数は増加。

FMネットワークのシャットダウンが始まる1月11日11時11分は、ノルウェーのメディアの歴史の教科書に残るであろう、大きなデジタル改革がされた日となりそうだ。

Photo&Text: Asaki Abumi