Yahoo!ニュース

保健・医療・介護の地域包括システム:人口減少を見据えたまちづくりに求められる終のすみかとは。

足立泰美甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

超高齢社会を伴う人口減少がもたらす社会のひずみ

図1 人口減少と高齢化率
図1 人口減少と高齢化率

出生率の低下によるとめどない人口減少が顕在化している。長期化する出生率の低下は、若年人口、生産年齢人口及び老年人口を合計した総人口の急激な減少を招いている。国立社会保障・人口問題研究所は、2010年から2045年までの35年間で、全国的に10.0%以上に人口が減少すると報告している。

だが人口減少の割合は地域によってその程度が異なる。長引く出生率の低下に加え、若年人口が都市部に流出し、人口減少率に地域格差が生じている。減少率が最も高い秋田県は28.4%、それに続く和歌山県は25.8%に達し、人口の1/4以上が減少すると推計されている。

さらに人口は減少するものの、高齢者人口は増え続けている。20年後の2035年には高齢化率は30.0%上回り、国民の3人に1人が65歳以上の高齢者となる。2042年以降は高齢者人口が減少に転じるものの、高齢化率は引き続き上昇し、総人口に占める高齢者人口の割合は一層高くなるであろう。

高齢化の影響は、経済・社会・福祉など様々な領域に及んでいる。高齢化の進捗と生産年齢人口の減少は、労働力の減少、貯蓄率及び投資の減少、さらには経済成長にも影響を与え、従来型の社会制度の維持を難しくしている。人口減少問題においても、超高齢社会に適応した視点を併せて考えていくことが重要である。図1に人口減少と高齢化率の推移を示す。

超高齢者社会を伴う人口減少は社会に様々なひずみをもたらす。地域に人が減少するということは、コミュニティが機能しなくなり、社会基盤の維持を困難にさせるだろう。具体的には、地域の伝統行事の継承が難しくなり、商店街は衰退し、小中学校は統廃合せざるをえなくなるだろう。生活圏レベルの見直しがせまられ、かつての都市の拡大に合わせた基盤整備から、既存のストックにあわせたコンパクトなまちづくりへの発想の転換が求められている。そこに、超高齢社会を伴う人口減少を踏まえたまちづくり。高齢者のニーズに応えたまちづくり、つまり高齢者にふさわしい住環境及び生活環境を備えたまちづくりとはどうあるべきであろうか?

超高齢社会にふさわしい保健・医療・介護の地域包括ケア

図2 コンパクトシティのイメージ
図2 コンパクトシティのイメージ
図3 保健・医療・介護の地域包括ケアシステムのイメージ
図3 保健・医療・介護の地域包括ケアシステムのイメージ

いくつかの調査結果を参考に、多様で複雑な高齢者のニーズを紐解いていこう。内閣府(2012)「高齢社会白書」によると、65歳以上高齢者の5人に1人が健康面で日常生活に何らかの影響を感じており、実際に65歳以上の要介護者数は増え続けている。介護を受けたい場所として高齢者の2人に1人が自宅を希望している。

高齢者は、加齢とともに身体機能が低下し、移動及び諸動作が難しくなり、日常生活の圏域が縮小している。内閣府(2010)「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」によると、高齢者が不便を感じる事柄として、「日常の買い物に不便」が最も多く、次いで「医院や病院への通院に不便」があげられている。

高齢者の生活ニーズに照らし合わせたまちづくり。それは日常の衣食住を難なく行うことができ、住み慣れた自宅で医療や介護を安心して受けられるまちづくり。具体的には自宅近くで医療・介護機関を受診し、必要に応じて入院ができ、退院後も自宅に戻りサービスが受けられる、集約的かつ包括的なシステムの構築が必要であろう。その実現のためには、日常の衣食住サービスが集約化されており、医療及び介護の包括的ケアシステムが整備され、これらサービスがワンストップで提供されることが重要である。

一方で、体力の低下及び疾病を予防する保健活動の促進にも力を注ぐことが有効である。高齢化が進むなかでは、医療及び介護を利用する高齢者が増加し、社会保障給付費は毎年1兆円規模で増え続けており、社会全体のコストが益々上昇することが危惧される。

そもそも医療サービス及び介護サービスを利用している受診者及び利用者の割合を減らすことはできないのだろうか。高齢者の体力を低下させることなく、健康を維持することで、疾患に罹患するのを防ぐこと。それによって、医療機関に受診せずに、安心して自宅で健康に生活を送れるようになる。

高齢者を対象にした予防活動は既に色々な形で各自治体やNPOを中心に実施されている。その1つに介護予防がある。高齢者が要介護状態等となることの予防、軽減及び悪化の防止だけでなく、高齢者を取り巻く生活環境の調整や地域のなかでの生きがいづくりを目的に掲げている。

日常生活の行動範囲に制約がかかり、健康面も懸念する高齢者にとって、保健・医療・介護の地域包括ケアが集約化されたコンパクトなまちづくりが必要とされる。図2にコンパクトシティ、図3に地域包括ケアシステムのイメージを示す。

地域で広がるコンパクト化した高齢者の終のすみか

高齢者の終のすみかとしてのまちづくり。保健・医療・介護の包括的なケアを目指して自治体は様々な取り組みを行っている。地域包括ケアシステムを実施している自治体に新潟県長岡市と千葉県柏市がある。

長岡市では、12か所のサポートセンターの設置と小規模多機能住宅、グループホームなど豊富なサービスを設け、高齢者が住み慣れた地域の中で暮らしながら、包括ケアを受けられるようにしている。柏市では、東京大学高齢社会総合研究機構、UR都市機構、企業、住民と協働して、豊四季台地区の住宅団地を利用し、自宅で医療・介護サービスが受けられるシステムを実現させた。

さらに新潟県内陸に位置する見附市では、保健活動をまちづくりに取り入れている。2011年に「スマートウエルネスみつけの推進」プロジェクトをたちあげ、10 ケ所の公民館等で健康運動教室を開催している。また商店街の道路を片道通行とし、空いたスペース(片道)にベンチを置き、自動車から歩行の機会を増やす取り組みを行っている。

高齢者が住み慣れた場所で安心して生活できるために医療を軸とし、高齢者サービスの拠点が日常生活の中にあり保健及び介護を包括したケアシステムの導入と途切れることなくワンストップでサービスを提供できるまちづくりが徐々に始まっている。

超高齢社会を伴う人口減少がもたらす社会のひずみは複雑である。だが一つの解決策として高齢者の終のすみかとして、保健・医療・介護の地域包括ケアシステムを備えたコンパクト化したまちづくりが今後一層求められてくるであろう。

(参考文献:図の出典)

図1:総務省「国勢調査」及び「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計):出生中位・死亡中位推計」をもとに筆者作成

図2:国土交通省(2012)「国土交通白書:第2節 住まい方・動き方に関する分野横断的な取組み」より抜粋

図3:厚生労働省(2013)「地域包括ケア研究会報告書」より抜粋

甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

専門:財政学「共創」を目指しサービスという受益の裏にある財政負担. それをどう捉えるのか. 現場に赴き, 公的個票データを用い実証的に検証していく【略歴】大阪大学 博士「医学」博士「国際公共政策」内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務省「公営企業の経営健全化等に関す​る調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審議会」委員を多数歴任【著書】『保健・医療・介護における財源と給付の経済学』『税と社会保障負担の経済分析』『雇用と結婚・出産・子育て支援 の経済学』『Tax and Social Security Policy Analysis in Japan』

足立泰美の最近の記事