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子ども食堂だけでは足らない 子どもの貧困対策

赤石千衣子しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長 

子どもの貧困が大きな問題となっている。

子どもの6人に1人が相対的に貧困状態にあること。

ひとり親家庭の貧困率は50%を超えていること。

子どもの貧困は見えづらいものであること。

しかし、食に困るような深刻な貧困の子どもたち、親が忙しすぎてひとりでご飯を食べているような子どもたちがいること。

などが報道され、問題となっている。

この、子どもの貧困をなくすために、いったい何ができるのだろうか。

現在、「子ども食堂」を各地でつくろうというムーブメントが盛んだ。

食に困っている子どもたち、あるいはひとりでご飯を食べている子どもたち、あるいは、母子だけで父子だけでさびしく食べている親子が子ども食堂にやってきて、楽しくご飯を食べる、そんな取組だ。

ホームレス支援でいえば「炊き出し」にあたる。

私はすばらしいとりくみだと思う。子どもたちの笑顔、それを見られる大人たちもしあわせになり、そして子どもたちが自分たちは孤独ではない、助けてと言ったときに助けてくれる大人たちがこの社会にいるんだ、と思えるようになるのはすばらしいことだ。

同時に、関わる大人たちも、自分の地域を変えていけるそんなきっかけになるのではないだろうか。

また、無料学習支援なども広がっている。

居場所づくり、学習支援、これが子どもの貧困対策の主流となりつつある。

だが、ちょっと待ってほしい。

政府が、自治体がやる子どもの貧困対策が居場所づくりでいいのか? そこに補助金をつけることで、子どもの貧困対策は事足れるのだろうか。

子どもの貧困とは、子どもが育つ世帯の貧困である。子どもの親たちの貧困問題である。多くが非正規や不安定就労、無職などで、子どもたちの育ちに十分な経済的な余裕がなく、あるいは長時間労働で子どもと過ごす余裕がないなどして、孤立している世帯の問題である。

まずはこの世帯の経済的な問題や複合的な問題を解決できるようにしなければならないのではないか。

私は、「ひとり親家庭を救え!キャンペーン」http://save-singleparent.jp/や「あすのば」http://www.usnova.org/の活動を通じて、いくつかのことを要望してきた。

子どもの育つ世帯、特に大きなかたまりとして存在する、ひとり親家庭に支給される児童扶養手当の増額と延長を求めた。

児童扶養手当の、ふたりめ以降の加算額を、二人の場合は5000円を最大1万円に、三人以降の場合には3000円を最大6000円に加算額を増額するよう、平成28年度予算案に盛り込むことができた。予算が通れば実現することとなった。

関係者のみなさんにはほんとうにほんとうに感謝したい。(20歳までの延長についてはまだ実現していない)。

考えてみてほしい。月々5000円の増額は、子どもたちの10日分のおかずになることもできる。あるいは、子どもたち4人で回していたワークブックをひとりずつに買う、といった親もいた。

この児童扶養手当の増額により、ひとり親家庭の貧困率が54.6%から3%、削減されるそうだ。80億円の予算で3%。それだけ厳しい状況だということである。

しかし、ここにはエビデンスがある。

私は子ども食堂が各地にできることで子どもたちの笑顔が増えることもほんとうにうれしいことだと思う。

だが300万人いる相対的に貧困であるといわれる子どもたちに何%がそこにつながれるのだろうか。

いや、だから計測してほしいというのではない。

私は、自治体の子どもの貧困対策には、やはり、子どもの育つ世帯の問題解決、収入増をどう実現するのか、という視点がなければならないと考えている。

根本的には女性たちの低い賃金を上げること、あるいは最低賃金を上げることも、非正規労働を正規にしていくことも、その一環で必要だろう。

ただ、ハードルはそれなりに高い。

手前にできることもある。

まずは、子ども食堂のその次に、親を含めた世帯への、ソーシャルワークが必要となる。親とつながり、抱えている問題解決をできるような取組が必要となる。親が何を抱えているのか。鬱状態でネグレクトになってしまっているのか。あるいは、有効な就労支援がないのか。親も低学歴であったら、高卒資格を取得する道はないのか。あるいは、保育サービスがあれば、就労が出来るようになる場合もあるだろう。ファミリーサポート事業やホームヘルプサービス事業を充実させようと取り組んでいる自治体もある。(私は、子ども食堂をつくる熱気の一部をファミリーサポートへの提供会員になる方向に進めてほしいと思っている)。

子どもの貧困対策が絆創膏を貼るだけ、のような対策にならないよう、私たちは常に効果を検証をしながら、進んでいきたい。

すぐにできること、そして、予算がかからないことは、児童扶養手当、児童手当のまとめ支給を止め、毎月支給にすることだ。

これによって家計管理がずっとしやすくなり、そして、ガス電気水道などの滞納やストップが減るだろう。

ひとり親家庭に限られるが、児童扶養手当の毎年の届のときに、相談を充実させていく方向性もある。

そのほかにもできることがある。

就学援助は、誰にも情報が届くようにしよう。クラス全員の子どもに就学援助の申込み用紙を配布し、クラス全員の子どもから回収すればスティグマは無くなる。

学校給食のない中学をなくそう。

どこで貧困な対象をとらえていくのか、情報は十分に届いているのか。SNSは使えるのか。いろいろな部署が連携してできることは何か、まだまだ知恵を絞ることが必要だ。

私たちも、それをやっていく。

安易な流行や絆創膏対策に終わってはならない。

しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長 

NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。当事者としてシングルマザーと子どもたちが生き生きくらせる社会をめざして活動中。社会保障審議会児童部会ひとり親家庭の支援の在り方専門委員会参考人。社会福祉士。国家資格キャリアコンサルタント。東京都ひとり親家庭の自立支援計画策定委員。全国の講演多数。著書に『ひとり親家庭』(岩波新書)、共著に『災害支援に女性の視点を』、編著に『母子家庭にカンパイ!』(現代書館)、『シングルマザー365日サポートブック』ほかがある。

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