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全豪オープン10日目メルボルン現地リポート:錦織圭、流れをつかみかけた刹那の幕切れ

内田暁フリーランスライター

※こちらの記事は、テニス専門誌『スマッシュ』facebookの転載です。連日、全豪オープンの現地レポートを掲載しています

S・バブリンカ(4) 63 64 76(6) 錦織圭(5)

追い風は間違いなく、錦織圭の背を押していました。

第3セットのタイブレーク。スコアは6-6の並行カウント。しかし単なる並走ではなく、1-6と大きくリードされながら、5ポイント連取の猛追撃で肩を並べた6-6です。何かが起きそうな予感に、声の限り「ニシコリ」コールを送るファンや、手拍子を鳴らす観客たち。この時、流れや勢いは疑いなく、錦織の側にあったのです。

試合そのものは、立ち上がりからバブリンカが主導権を握ったまま進んでいました。昨年の全米準々決勝で錦織に敗れていたバブリンカは、サービスを打ち分け、ストロークでもバックを主軸に圧力を掛け続けてきます。そんな相手の展開の速さに、反撃の機を見つけられない錦織。

「展開が早かったので、自分からボールを左右に散らすことができなくて、どうしたら良いのか、なかなか見えてこなかった」

焦りがミスにも繋がって、第1セットは第4ゲームを、第2セットでは第5ゲームを失います。第1セットでは、バブリンカのバリエーション豊富なサービスに「ほとんどコースが読めず」ブレークポイントはなし。第2セットでは終盤に3本のブレークの機をつかみますが、その度に強烈なサービスに凌がれました。

それでも第2セット終盤に作った反撃の兆しは、第3セットで結実の気配を見せます。最初のゲームをラブゲームでキープすると、続くゲームは錦織の深いストロークに相手のバックが乱れ始めてラブゲームでブレーク。その直後のゲームを錦織が落とし、以降は両者ゲームキープが続きました。

そうして雪崩れ込んだタイブレークでは、冒頭で述べたようにバブリンカに5本のマッチポイントを握られるも、相手のセカンドサービスを叩いて猛反撃を見せます。

「1ポイントごとに自信が出てきた」

錦織の内側でも、何かが変わり始めていきます。スコアは6オールとなり、そして、コートチェンジを迎えました。

しかしエンドが変わったことで、文字通り風向きが変わり、錦織にとっては向かい風となったのです。

「僕は風上のサイドからタイブレークを始め、かなり助けられた。6オールになった時、再び風上に戻ってきた」

バブリンカは、このコートチェンジを一つのターニングポイントにあげました。

それでも錦織は、風下からでもストロークで攻め、バブリンカを圧倒します。そうして相手をベースライン後方に十分に押し込んだ後、狙いすましたように、フォアのドロップショットを放ちました。

ふわりと浮いたボールはしかし、切ない音を残して白帯を叩き、錦織側のコートにゆっくり落ちます。

「正直、すごくうれしかった。入っていたら取れなかったから」

試合後にバブリンカは、そう素直に認めました。そして、こうも加えます。

「あれは難しいドロップショットだった。僕が風上だったからね」

「あの流れを取りきれなかったのを悔やみますね。取っていれば自分の中でも何か変われた可能性はあったので」

逆風の中でがっくり膝を折り噛みしめた悔い。印象的かつ象徴的なその姿は、次なる戦いへの教訓を見つけた姿勢にも見えました。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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