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マイアミオープンレポート:クルム伊達、ダブルス敗戦も明るい兆し。「止める気ない」と現役続行宣言

内田暁フリーランスライター

T・バボス/K・ムラデノビッチ 62 67 (7)[13-11]クルム伊達公子/Ka・プリスコワ

相手にポイントを決められた時、あるいは自分のボレーがネットを叩いた時、クルム伊達は首をかしげ、顔をしかめ、時に自分を叱責するように太股をピシャリと叩きます。

ポイント間にはパートナーのプリスコワと談笑しますが、勝負にかける峻烈な闘志はポイントを失った際の表情や、決めた時に繰り出されるガッツポーズに凝縮されています。テニスを楽しみ、同時に勝負の瞬間を生きている――そんな情熱が、コート上の至るところに満ちていました。

昨年末から抱える肘のケガと、それを庇い誘発した右肩の痛みを抱えたまま、2月の伊達はまともに練習すらできず、2週間前のインディアンウェルズではダブルス欠場も強いられました。そのような時期を1カ月半ほど過ごした後に、ようやく「練習で痛みを感じることはほとんどなかった。過去5週間くらいの中で一番良い」状態で迎えたダブルス。第7シードのバボス/ムラデノビッチ組との一戦は、本人の言葉を借りれば「どちらに転んでもおかしくない」緊迫の展開となりました。

第1セットを落とした後の第2セットは、流れが幾度もネット上を往復する、主導権の奪い合いとなります。先にブレークアップしたのはクルム伊達組ですが、ジュニア時代からの友人である相手ペアは、互いに闘志を高めあうような気迫のプレーで追い上げます。2つのブレークを連ねた相手が3ゲーム連取、しかし直後のゲームでは伊達がボレー2本、リターンウイナーも奪ってブレークバック。

雪崩こんだタイブレークでは1-4までリードを広げられるも、そこからコートを縦横に走る伊達のボレーや、プリスコワの一撃必殺のリターンウイナーなどで逆転します。第2セットを伊達組が奪い返し、試合の行方は10ポイントマッチタイブレークに委ねられました。

このタイブレークで、先に流れを手にしたのは伊達たちです。伊達の会心のボレーを皮切りに4ポイント連取。

しかし今度はバボスのウイナーをきっかけに相手が4ポイントを奪います。

その後は一進一退の攻防。マッチポイントは先に相手が手にしますが、ここではプリスコワのボレーが際どくラインを捉えて凌ぎます。

2度目の危機では、伊達が起死回生のフォアのリターンウイナーをストレートに叩きこみました。その伊達のプレーが伝播したかのように、続くポイントではプリスコワがリターンウイナー。伊達たちが最初のマッチポイントを手にしました。

しかしここから、相手のパワフルなストロークに伊達たちのボレーが続けてネットを叩きます。最後も、必死に飛びついた伊達のボレーが浮き、1時間半の接戦に終止符が打たれました。

「今日の試合はお互いにファイトしたし、誰かが悪かった訳でもない。最後は、勝負運がなかった、ということに尽きるのかな」

会見でのクルム伊達は、どこか達観したような表情で、そう振り返ります。ある程度の長期的な視野に立っているからこその、納得……そのようにも見えました。

1月には心身がかみ合わず「さまよった」時も経験するも、その行き詰まりを打破すべく、オーストラリア人コーチを新たに加え、ケガも徐々に癒え、今彼女は「ファイトできれば、チャンスがあることはわかっている」と前を向きます。肩と肘の痛みは、未だ就寝時に彼女を襲いますが、「寝る時に痛いくらいは、しょうがない。練習で痛みがないのがうれしい」とまで言いました。

今のランキングでは全仏の本戦出場は厳しいですが、「予選から行く覚悟は決めた」と宣言。それでもまだ可能性の残っている限りは挑戦すべく、マイアミの後はチャールストンのグリーンクレー、そしてコロンビア開催のクラロオープンへと戦いの旅は続きます。

「WTAツアーはタフだけれど、ここから遠くないので行くことにしました。まぁ、どうなるかは……見ていて下さい」

首をかしげ、顔をほころばせ、クルム伊達は明るい声を残しプレスルームを後にしました。

※テニス専門誌『スマッシュ』facebookからの転載。連日レポートを掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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