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西岡良仁とダニエル太郎、厳しい道を選び取り到った全仏オープン本戦の舞台

内田暁フリーランスライター
190センチと長身のダニエル太郎

錦織圭への期待と注目が集まるフレンチオープンで、既に本戦出場を決めている添田豪と伊藤竜馬に加え、2人の若い日本人選手が予選を勝ち抜き本戦出場権をつかみ取った。

一人は、ダニエル太郎。スペインのバレンシアを拠点とし活動する22歳である。

もう一人は、西岡良仁。錦織と同様に盛田正明テニスファンドの支援を受けて、中学3年生時にIMGアカデミーに留学。現在、ATP(テニスプロ選手アソシエーション)も「躍進する10代選手たち」の一人として推す19歳だ。

この2人は昨年末の全米オープンでも、そろって予選を勝ち抜いている。今回の本戦切符獲得の道中でも、ダニエルは初戦で第5シード相手に6-3,5-7,7-5という接戦を競り勝った。西岡も2回戦で、第7シードの選手にマッチポイントを握られながらも、危機を切り抜け2-6,6-2,8-6という劇的なスコアで勝利をつかんでいる。ここぞという場面での勝負強さ、大舞台で結果を残す強心臓――それらが、2人に共通する武器だ。

ダニエルと西岡が揃って残したこれらの結果は、決して偶然の産物ではないだろう。2人のランキングは、いずれも150位前後。そして彼らに共通して見られるのが、ATPツアーでの実績が既にあることだ。

“ATPツアー”とは、数多くあるテニストーナメントにおいて、最も上のグレードに分類される大会群である。その中でもさらに格付けは細分化されているが、ランキング100位以内というのが、ツアーに出られる一つの目安だ。

このATPツアーの下に格付けされる大会群が、“ATPチャレンジャー”。主に100位台から200位台の選手が参戦し、ツアーに上がるための足掛かり的な位置付けである。

ダニエルや西岡のように150位前後のランキングの選手たちは、このチャレンジャーと、さらにATPツアー予選の両方に出られる地位にいる。チャレンジャーならいきなり本戦に参戦でき、上位進出も期待できる。だがATPツアーとなれば、予選と言えど選手のレベルは高く、また本戦に出られたとしても、初戦から厳しい戦いを強いられる。ランキング維持に主眼を置けば、ATPツアー挑戦の方が困難な選択なのは、間違いない。

それでもダニエルと西岡の2人は、積極的にこのATPツアー予選に挑み、そして結果も残してきた。例えばダニエルは、昨年2月にチリオープンに予選から参戦し、本戦でもベスト8進出の快進撃を見せた。

同じく西岡は、今年2月に米国のデルレイビーチ国際選手権の予選に参戦。本戦出場を決めたのみならず、本戦でも2連勝を重ねベスト8に勝ち上がったのだ。

もちろんそのような高いレベルへの挑戦は、常に結果を伴う訳ではない。現にダニエルは、今年3月にインディアンウェルズ(ATPツアーマスターズ1000大会)の予選で敗れ、「メンタル的にぶち切れた」と告白している。それでも彼は、ツアーで得た傷はツアーで癒す道を選ぶ。少しの休養を挟んでリフレッシュした後、今度はマイアミオープン(こちらもマスターズ1000)予選で初戦に勝利。2回戦でも善戦したことで、自信を回復し上昇気流に乗った。

170センチの小柄な身体を目いっぱい使い戦う西岡
170センチの小柄な身体を目いっぱい使い戦う西岡

このような西岡らの挑戦を、頼もしく感じているのが、錦織だ。

「日本人選手たちにとって一番良いサンプルは、ヨシ(西岡)だと思います。彼はATPツアーにも果敢に挑戦し、デルレイビーチでも活躍した。これからは若い選手たちも、早めに上の大会に出て慣れていくことが必要だと思います」

自らの背で、後進に道を示してきた世界5位の言葉は重く、その足跡に残した轍は深い。

今回の全仏で、西岡は初戦で第4シードのトマシュ・ベルディヒと、ダニエルは32シードのフェルナンド・ベルダスコと対戦する。いずれも、厳しい対戦になるのは間違いない。だが、自ら望んで険しい道を選び取っている彼らなら、いかなる戦いでも、必ず糧にするはずだ。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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