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シンシナティ・オープンでベスト4 天才ドルゴポロフ躍進の陰に、錦織のサポートあり…!?

内田暁フリーランスライター

男子はジョコビッチ対フェデラー、

女子はS・ウィリアムズ対ハレップ――。

男女ともに、トップ2シード(ハレップは第3シードですが、シャラポワが欠場したのでシード順としては2番目となりました)による頂上決戦という、到達してみれば、これ以上望めない決勝カードが実現したシンシナティ。

もちろん、その「到達してみれば」の以前にも様々なドラマがあったのですが、今大会、その前段階で最もファンを沸かせた選手の一人が、アレンクサンダー・ドルゴポロフではないでしょうか。

ドルゴポロフのプレーの魅力については、今さら説明不要でしょう。早いタイミングでボールを捉え、あらゆる角度に打ち分ける強打。予測不能なタイミングでのドロップショットや、ダイナミックなジャンピングショットなどのトリッキーなプレーの数々。あたった時の彼は、世界で最も危険なプレーヤーの一人になります。

昨日の準々決勝では、過去4戦全敗だったベルディフを「ここ最近で最も良いプレー」で退けたドルゴポロフ。そして本日は、やはりまだ勝ち星のないジョコビッチと、決勝の席を賭けて対戦しました。

ランキングでは1位に対し66位と大きな隔たりがありますが、第2セット中盤まで試合を支配したのは、予選上がりの66位の方でした。ジョコビッチが、彼の水準からしてみればミスが多かったこともありますが、その機を逃さず果敢に攻め、ブレークされても直後に集中力を上げてブレークバックする盤石の試合運び。

第1セットを6-4で奪い、第2セットはタイブレークへ。タイブレークでもドルゴポロフが、3-0と先行しました。

その後は一進一退の攻防となりますが、特に惜しまれるのが、5-4からのラリーでスライスをネットにかけた場面でしょうか。

「今回は、緊張したり硬くなったわけではなかった。ただ、ちょっとした判断ミスだった。勝負に行くべきではない場面で、リスキーなプレーを選びすぎた」

試合後、敗者はターニングポイントをそう振り返ります。

「集中力を上げ、全ての思考を次のポイントだけに向かわせること……それが、ピンチの場面でいつも心がけていることだ」

4回戦のゴファン戦でも似たような危機を乗り越えた世界1位は、「言うほど簡単なことじゃないんだけれどね」と苦笑しながらも、その「簡単じゃないこと」を今回もやり遂げました。

決勝進出は逃したドルゴポロフではありますが、今回のベスト4の好結果で、ランキングも40位以内にジャンプアップ。「自信を持ってNY(全米オープン)入りできる」と、敗戦後も引き締まった表情でした。

そんなドルゴポロフの大躍進、実は、錦織のお陰でもあるのです。

なぜって…?

予選上がりのドルゴポロフは、錦織の欠場により、その空いた“第4シード”スポットに座ることができたから。そのために初戦は免除、準々決勝まではシード選手にも当たることがありませんでした。

「僕もそのことは考えていたんだ。ケイの助けのお陰だよね(笑)。そのチャンスを上手く使うことができたよ」

ドルゴポロフにとっては、互いに「友人」だと認め「対戦するのが楽しみな相手」とも言う良き好敵手からの、思いがけぬプレゼントだったようです。

テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。同ページでは、連日テニス関連の情報を掲載しています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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