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全米予選現地レポ1:ダニエル太郎、日比万葉、それぞれの思い出の地で……

内田暁フリーランスライター

全米オープンは、世間一般では8月31日開幕となっていますが、すでに会場には多くの選手が集まり、拡張工事が進行するビリー・ジーン・キングナショナルテニスセンターで、熱い戦いを繰り広げています。

8月25日より、予選が開幕しました。

予選初日にコートに立った日本勢の中で、会心と呼べるスタートを切ったのは、ここニューヨーク生まれのダニエル太郎でしょう。立ち上がりからサービスの調子が良く、ストロークにもリズムが生まれます。相手もベースラインからの打ち合いを得意としますが、ダニエルのボールは深く、ミスをする気配もさほどありません。また、相手のセカンドサービスを果敢に叩く積極性も光りました。

第1セットは常にスコアで先行し6-2。第2セットは、サービスの少しの乱れから相手にブレークバックを許しますが、すぐに突き放すなど流れを明け渡しません。終始主導権を握ったダニエルが、ストレート勝利で幸先の良いスタートを切りました。

ダニエルにとってこの全米オープンは、生まれ故郷のみならず、昨年初めて予選を突破しグランドスラム本戦出場を果たした地でもあります。その時は「やはり、運命みたいなものがあるんですかね」と興奮気味に口にしていたダニエルですが、今回はどこか落ち着いた雰囲気が見られました。

「最近、風邪でちょっと体調を崩していたし、テニスの調子はあまり良くなかった」ようですが、グランドスラムは「他の大会とはちょっと違う。精神力で力の足りなさを埋めていけるところがある」と言うダニエル。

1年前とは立場もランキングも変わり、今回は第9シードとしての挑戦。

ここニューヨークでも人気者のベビーフェイスに、貫禄が漂い始めています。

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女子の方では、グランドスラム予選に久々の挑戦となる日比万葉が、キャリア最高位54位のベテラン選手を3-6、6-1、6-2で破り、初戦突破です。

日比が全米オープン予選に出るのは、2年ぶり。その2年前はワイルドカード予選を勝ち上がっての出場だったため、ランキングでの地力出場は今回が初めてです。また日比にとって全米は、2年前にジュニアの部でベスト4に勝ち上がるなど、グランドスラムの中で最も馴染みのある地でもあります。

その2年前の快進撃と同様に、今日の試合でも、日比は彼女らしい逆転勝利を手にしました。第1セットこそ、暑さで頭が十分に働かなかったそうですが、やや日が陰り涼しくなり始めた2セット目から、逆襲が始まります。スライスやループを織り交ぜ丹念にラリーを紡ぎ、ここぞと言う場面ではフォアの逆クロスでウイナーを狙う。第3セットでは何度もブレークポイントを握られますが、それらをしぶとく粘って凌ぐと、直後のゲームで、荒っぽくなった相手の心身の隙をつきブレークを奪います。相手のブレークポイントを11本凌ぎ、8本あったブレークポイントのうち5本をものにする勝負強さを発揮した日比が、まずは思い出の地に順調な足跡を刻みました。

テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日、テニス関連の最新情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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