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今季開幕戦のカタールオープン優勝のジョコビッチ。ナダルをして「パーフェクト」と言わしめる圧巻の強さ

内田暁フリーランスライター
トロフィーを手にするジョコビッチ(左)とナダル

「今日の彼はパーフェクトだった。このスポーツを始めて以来、あんなに高いレベルでプレーする選手を見たことがない」

時に笑顔さえ浮かべて語るこの言葉に、敗者の全ての思いが込められているでしょう。大会第1シードと第2シードという、これ以上は望めないカードが実現したカタールオープンの決勝戦。それはジョコビッチとナダルにとって、テニス史上最多記録となる通算47回目の対戦でもあります。しかも過去の対戦成績は、23対23の五分。ただしこれまでは常にナダルが先行し、ジョコビッチが追う立場でした。その関係性がついに、この大会で崩れます。47回目の対戦を6-1、6-2で制したことで、ジョコビッチはナダルの先を行き、同時に最高のライバルから「今日の彼はパーフェクトだった」という最上級の讃辞を送られたのです。

ナダルが「完璧」と称したジョコビッチのプレーですが、もし唯一の綻びがあったとすれば、それは最初のゲームだったのではないでしょうか。自らのサービスゲームで、この日唯一のダブルフォールトもあり、ブレークポイントを許しました。しかし最後はエースでキープすると、以降は強烈なストロークを時に深く、時には鋭角に、そして常に左右に鋭く打ち分けます。そのプレーにプレッシャーを感じたか、ナダルはチャンスボールを大きく外すなど“らしくない”ミスも重ねました。

第2セットでは最初のゲームをブレークし、ジョコビッチがいきなり流れを掌握します。迎えた最終ゲームでは、フォアのクロス、次いで逆クロス、そしてダウンザラインへとフォアのウイナー3連発。最後はエース級のサービスを叩き込み、まさに「パーフェクト」と形容するに相応しい勝利を、そして2016年シーズン最初のタイトルを手にしました。

会見で、ナダルの「完璧だった」というコメントを記者から伝え聞いたジョコビッチは、「偉大なチャンピオンから、そのように言ってもらえるのは光栄だし本当にうれしい」と相好を崩しますが、来たる全豪オープンに話題が及ぶと、早くも勝負師の顔に戻ります。

「この勝利は、今シーズンを戦う上で大きな自信になるが、今の僕の関心は全豪オープンでしかない。しっかり大会にピークをもっていき、メルボルンでも今日のようなプレーをしたい」

これでジョコビッチが、昨年から重ねた連続優勝大会数は6。絶対王者を破る者は、果たして近いうちに現れるのか?

ナダルによれば、「今日のようなプレーをされたら、誰も彼に勝てない」。しかし同時に、「今日のような高いレベルを、常に維持することは難しいだろう」ともナダルは言います。

誰がジョコビッチを止めるのか――テニス界全体の命題が、改めて浮き彫りになったシーズン開幕戦でした。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日テニスの最新情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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