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全豪OP2回戦:観客を味方に引き込むエンターテイナー気質と、強きメンタル。大坂なおみが3回戦へ

内田暁フリーランスライター
第18シードを破り、ガッツポーズを見せる大坂

○大坂なおみ 6-4,6-4 エレナ・スビトリーナ

「私は、エンターテイナーなの。サービスで観客の度肝を抜こうと思っていたわ」

か細い声で照れたような笑いを浮かべながらも彼女がそう言ったのは、1年半前の夏。当時世界19位のサマンサ・ストーサーを破り、テニス界の注視を集めた頃でした。

「無茶をしない、我慢することを覚えているところなの」

そう言ったのは、昨年の初夏のこと。岐阜のITFトーナメントで準優勝した大坂は、急成長の理由を「守備を鍛え、戦術面を学んでいる」点に求めました。

それから、約8カ月――。満席に膨れ上がった全豪オープンのショーコート2(会場で4番目に大きなコート)で、大坂なおみは高速サーブやフォアのウイナー、そしてそれ以上に、長いラリーにも際どいジャッジにも気持ちを切らさず戦うメンタリティで、3000人のファンを魅了しました。

大坂にとっての最大の“テスト”が訪れたのは、第1セット5-4とリードし迎えた、自分のサービスゲーム。対戦相手のスビトリーナもシード選手の意地を見せるかのように、苦しそうな声を上げながら懸命に走り、大坂の強打を拾いまくります。対する大坂は2本のエースと、危機にも攻め続ける強気の姿勢で対抗。そうして4度のデュースを繰り返した後、大坂に初のセットポイントが訪れました。

この場面で大坂は、体得した「我慢強さ」を発揮し、長い長いラリーを戦います。互いにショットを左右に打ち分け、交わされたラリーは31本。しかしその最後の1本……大坂のフォアの深いストロークがラインを捕らえた時、客席から大きな「アウト」の声が上がってしまいました。すかさず「リプレイ」を宣告する主審。スビトリーナはチャレンジを宣告するも、モニターに映されたボールは僅かにラインに乗っていました。勝負事に「もし」は禁物ながら、もし客席から声が上がらなければ、大坂がセットを取っていたのではと悔やまれる場面です。

試練は、まだ続きます。リプレイとなったポイントでも、繰り広げられる高質で長いラリー交換。その21本目――スビトリーナが放ったフォアはネットの白帯を叩き、真上に跳ねると再び白帯をかすめて、非情にも大坂のコートにポトリと落ちたのです。

2度までも続いた、不運なショット……。ところが続くポイントでは、大坂は「これなら文句ないだろう」とばかりに、まずはサービスからダウンザインに展開し、返球をフォアでクロスに放ってウイナー。迎えたゲームポイントでもフォアの逆クロスを豪快に叩き込み、圧巻の2連続ウイナーでセットをもぎ取ったのです。この気持ちの強さ、そしてストロークのスピードに、ファンは熱狂の声をあげました。

第2セットでも大坂は、攻撃的姿勢と粘り強さを、絶妙なバランスで配合していきます。第5ゲームをブレークし、そのままリードを明け渡さず到ったゴールライン。最後は、この日最速の193キロのサービスで相手を崩し、フォアのウイナーで試合を締めくくりました。

勝利後の姿は、コート上のプレーと比べると驚くまでに控え目。会見での小さな声での質疑応答にも、初々しさが漂います。

しかし、次に対戦するV・アザレンカについて問われた18歳は「私は自分より強い相手と戦うことに、プレッシャーを感じたことはないわ。ハッピーだし、番狂わせを起こしたい」と、その発言は堂々たるもの。アザレンカは元世界1位にして2度の全豪OP優勝者ですが、誰が相手だろうと大坂は、いつもと同じように勝利を狙います。

「エンターテイナー気質」と「我慢」をブレンドし急成長したように、壮大な夢と控え目な姿勢を配合して胸に抱く18歳の少女が、さらなる興奮を真夏のメルボルンで巻き起こしてくれそうです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、全豪オープンレポートを掲載しています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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