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全豪OP3回戦:大坂なおみ、女王に完敗も数々の“願い”を叶えた掛け替えのない経験

内田暁フリーランスライター
試合後に、元世界1位のアザレンカと握手を交わす大坂

「とても興奮した。そして、ちょっと緊張もした……」

自身の試合がセンターコートである“ロッドレーバーアリーナ”に組まれたと知った時の心境を、大坂なおみは、そう振り返りました。「大きなコートで試合をしたい」と常々言っていた彼女の願いは、予選から挑み達した全豪オープンの3回戦にて、一つ叶ったことになります。

しかしもう一つの願い……「コート上で楽しみ、できることなら金星を持ち帰ること」には、残念ながら及びませんでした。2回戦で痛めた腹筋の影響で満足にサービスを打つことができず、さらには「疲れ」のために動きにも鋭さを欠きました。もっともここまでの足跡を思えば、それは不思議でもなんでもありません。何しろ今年に入ってからの3週間で、彼女が戦った試合数は既に13。それも、初のグランドスラムという慣れない環境に身を置きながらなのだから、心身の疲労は相当なものだったでしょう。

その、本来の調子に程遠い大坂のパフォーマンスが、試合開始直後はV・アザレンカの予想とタイミングを狂わせます。「爆発的なショットを予測していたのに、実際には緩いボールが来た」ことに戸惑ったアザレンカはミスを重ね、試合はいきなりの大坂のブレークで幕開け。アリーナは、何かが起こりそうな予感にざわめきました。

しかし当の大坂は「こんなに簡単にいくはずない」と覚悟していたと言います。その予感通り、ケガの影響でスピードが出ない大坂のサービスを狙い打ち、アザレンカが直ぐにブレークバック。全豪2度の優勝を誇る元女王は、そのまま6ゲーム連取で第1セットを奪いました。

第2セットに入っても、流れは変わりません。アザレンカがコーナーに打ち込む強打の前に、大坂は守備に費やす時間が長くなります。このセットも、終始アザレンカのペース。それでも第3ゲームでは、我慢強い打ち合いから、最後はバックのダウンザラインに強打を叩き込んでゲームキープ。その瞬間、アリーナはこの日最大の声援に包まれました。

予選を突破して初のグランドスラム本選に出場し、シード選手を破って3回戦に勝ち進んで、2度のグランドスラム優勝を誇る最強の選手とセンターコートで戦った――それら数々の経験の中でも大坂は、アザレンカに1-6,1-6で完敗を喫したこの試合こそを「最大の収穫」だと言います。

「実を言うと、このような形で彼女(アザレンカ)が私を負かしてくれたことを、ちょっぴりありがたく思っているの。だって、物凄く多くをこの試合から学べたし、とても良い経験だったから」

悔しい敗戦もまた、苦み混じりの“願い”が一つ叶った瞬間。そしてこの経験は間違いなく、次の願いを叶える糧になるはずです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日、大会レポートや最新情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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