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西岡良仁と大坂なおみ、共通する収穫とぶつかった壁。課題を認識し次なるステージへ:マイアミ・オープン

内田暁フリーランスライター

マイアミ・オープン3回戦 西岡良仁 26 26  D・ティーム(14)/大坂なおみ 57 06 T・バボス

初めて出場したマイアミ・オープンで、上位勢を破り勝ち進んだ2人の若き日本人選手の快進撃は、いずれも3回戦で終焉を迎えました。シード選手撃破の高揚感、集まる注視、自分への期待感――多くの“初”を経験した2人が3回戦でぶつかった壁にも、幾つかの共通項があったでしょう。

「5試合目(予選2試合、本戦2試合)ということもあり、体力も削られ、足が動かなくなり、徐々に相手の好きな所に打たれた感じでした」。

台頭著しいティームに1時間4分の敗戦を喫した西岡は、試合後、冷静に敗因を振り返ります。ティームが「エグイ」ほどに重く跳ねるスピンを打つことも、片手から放つバックが強烈なことも、ジュニア時代の対戦や最近共に練習した経験から、西岡には十分にわかっていました。

しかしやや想定外だったのが「フォアハンドのクロスの精度と威力が、思ってた以上にすごかった」こと。相手のフォアにボールを集め、序盤はそれがうまく機能することもありましたが、徐々に相手の球威に押されだし、ベースラインの後方へ後方へとジリジリ押し込まれていきます。連戦の疲れもあった西岡の170センチの小さな身体には、ティームの強打を押し返すだけのエネルギーが残っていませんでした。

「どういうわけか、今日は自分を奮い立てることができなかった……」

1時間6分でバボスに敗れた大坂も、敗戦の最大の理由を、エネルギーの欠如に求めました。しかし彼女の場合は、体力よりも精神の活力だったようです。

それでも第1セットでは、相手に先にブレークされながら2-5のサービスゲームで3本のエースと1本のサービスウイナーを叩き込み、客席から驚嘆の声を誘います。茫然とする相手を尻目に一瞬でキープした大坂は、畳みかけるように次のゲームをブレークし、さらに第10ゲームでも2本のエースと2本のウイナーで瞬く間にゲーム奪取。流れは完全に、大坂の手中にあるかと思われました。

しかし「今日はリターンがずっと悪かった」大坂は、次のゲームで「リターンに集中しようと思いすぎてしまった」のだと言います。

「あの時、もう少しサービスに集中して勢いを継続できていれば、違った展開になっていたかもしれない…」

やや集中を欠き5-6からのサービスゲームを落とすと、第2セットは相手に6ゲーム連取を許してしまいました。

西岡は体力、大坂は気力……この日の2人はいずれも、身体の内から湧き上がる力を、コート上で感じることができなかったと言います。上位勢相手に連日心身をピークに持っていく難しさ、あるいは隔日のスケジュールの中で雑念を拒絶し勢いを継続することの困難さなどを、恐らくは体感したのではないでしょうか。

そして若い2人は共に、今回の経験から自分に何が必要かを拾い上げます。

「まずは、もっと身体が強くなり常に良い状態にもっていければ、足を使って深く打ち返したり、ダウンザラインに打っていけた。もう少しパワー負けしないようになったら、今日のようなハードヒッターにも対抗できるのではと思います」

西岡はさらなる体力面の強化に、上位進出への鍵を見い出します。

「もっと自信が必要だと思う。いつも気力を高く保てていれば、こんな風に試合ごとのアップダウンがなく、常に高いレベルでプレーできるのではと思っている」

経験により得られる自信、そして自信により得られる集中力や“エネルギー”こそが、「次のステップ」に踏みこむために必要だと大坂は言いました。

そして2人に共通するのが、今大会の活躍によりランキングが上昇し、今後はツアーやグランドスラム本戦が主戦場になっていくだろうこと。彼/彼女らが得た収穫と課題を生かすべき舞台は、すぐにもまた訪れます。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日テニスの最新情報を掲載。雑誌は毎月21日発売

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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