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分析力と臨機応変さを発揮しコート上で作戦構築。超攻撃テニスで錦織圭がベスト8へ!:マイアミ・オープン

内田暁フリーランスライター

マイアミ・オープン4回戦 錦織圭 62 64 R・バティスタアグト

米国フロリダ州で開催中のマイアミ・オープン4回戦で、錦織圭は第17シードのスペインの強敵相手に快勝。試合で見せた攻撃的姿勢、そしてコート上で依頼したラケットのストリングスの張り出しにも、錦織の微調整力と臨機応変さが発揮されていた。

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鋭いリターンを放つや否やコート内深くに踏みこみ、跳ねるようにフォアでボールを打ち抜くと、ボールは快音を残して美しい弧を描き、相手コートに刺さります。

続くポイントでも、ドロップショットで相手を揺さぶり、すぐさまバックのクロスを叩き込む――。

バティスタアグト戦の錦織は、戦前から攻撃的姿勢を心に決めていたかのように、最初のポイントからボールを深く、強く打ちこんでいきます。相手のサービスゲームで始まった試合は、ラリーを完全に支配してのブレークの幕開け。続く自分のゲームでブレークを許してしまうも、次のゲームも攻めてブレーク。打ち合いが続くにつれ、ベースラインの2~3メートル後方へと下がっていくバティスタアグトとは対照的に、錦織は足でベースラインをつかむように下がらず、またドロップショットも多用しコートを広く使います。

第2セットも、リターンでプレッシャーを掛けて早々のブレーク。サービスキープに手こずる場面もありましたが、要所で連続エースを決めるなど、重要な局面ほどサービスの精度を高めます。終わってみれば、相手に2本のブレークポイントしか与えず、自らは4つのブレーク奪取。快勝とも言える勝利で、ベスト8に歩みを進めました。

攻撃的姿勢に、ドロップショットの有効活用――試合前に用意した戦術が悉くハマったのかと思われましたが、その件について尋ねると、錦織は「いやっ、そこまで考えていなくて……」と、笑顔でやんわり否定します。

「じっくりやろうと思っていたんですが、ナイトマッチでフィーリングも良かったし、相手の球が浅いのを感じたので、打っていかなくてはいけないなと感じました」

「相手のバックが浅くなるのを感じていたし、なるべく自分が中に入っていかなくては勝てないと思っていた。作戦でもありましたが、どちらかというと試合の中で、自分で見つけた感じです」

試合開始直後から感じた相手の状態、そして自身のフィーリングの良さを相照らし、彼は勝利への策を咄嗟に組み立てたと言うのです。

試合中での微調整……ということでいうと、ラケットのストリングスも、同様なのかもしれません。

今日の試合は、錦織にとって今大会3試合目にして初めてのナイトマッチ。日差しが激しく湿度の高いマイアミでは、昼と夜では打球感が大きく変わり、そのため夜の方がテンションを低めに張るのが一般的です。しかし錦織はいつも通りのラケットで試合に入り、しかし試合中に2本の張り替えを依頼しました。張り替えのテンションは、それまで使っていたものより高め。何事においても先入観やセオリーには捕らわれず、試合中のフィーリングや展開に応じて調整していくのが、錦織流のようです。

そのように戦術もラケットも臨機応変な錦織が、次に対戦するのはガエル・モンフィス。彼もまた、型に捕らわれぬ独創的なプレーを身上とする、テニス界のファンタジスタです。

「やりにくい相手ですね。今日の試合を見ていてもディフェンスが硬いなというのは感じたし、ボールも深かったですし」

その相手を錦織がどう崩しに掛かるか? そして錦織のプレーに、モンフィスはどう応じるか? 互いの機転と適応力が交錯する、楽しみな一戦になりそうです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。雑誌は毎月21日発売

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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