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ウィンブルドン1回戦レポート:25歳土居美咲、大人のプレーで20歳の新鋭を圧倒

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

○土居美咲 6-1,6-2 L・チリコ●

隣のコートで起きていたのは、“ウィンブルドンの奇跡”だった。

ツアープロの道を諦め、街のクラブのレッスンコーチをしていた英国のマーカス・ウィリスが、予選を勝ち上がってウィンブルドンの舞台に辿り着き、本選初勝利をも手にしようとしていた17番コート――。スタンドから溢れ通路まで埋め尽くす観客たちは、ウィリスがポイントを決めるたびに、会場全体に鳴り響く程の大歓声を上げていた。

その隣の16番コートに入りベンチに座った土居美咲は、自分たちに背を向け17番コートをのぞきこむ観客の姿に、「みんな隣の試合を見ているな~」と思っていたという。しかしそれも、ゲーム開始までのこと。一旦試合が始まれば、土居の視界はコートと対戦相手のみにスッと絞られ、フォーカスは鮮明さを増し、外野の喧騒はまたたくまに遠のいていく。

そうしてはっきり見えたのは、初めてウィンブルドンの舞台に立つ20歳の対戦相手の、緊張でこわばる表情。

「自分は集中できていたのもあるし、相手が緊張しているのも見て取れた」。

ウィンブルドン出場は6回目。実績と経験で遥かに上回る土居は、相手の出鼻をくじくように瞬く前に5ゲーム連取。ボールが走る芝のコートで気持ちよさそうに左腕を振り抜き、ウイナーを量産して、僅か20分で第1セットを先取した。

第2セットに入るとしかし、急成長中の対戦相手は開き直り、次々に強打を叩き込んでくる。第4ゲームでは、ブレークポイントを握られる局面もあった。だがこの場面で土居は集中力のレベルを一段引き上げ、フォアのウイナーを叩き込むと、気合いの籠ったガッツポーズを2度繰り返す。危機を脱した後には相手の落胆を見逃すことなく、再び突き放して会心の勝利を手にした。

ウィンブルドンは土居にとって、20歳の時に予選を勝ち上がり、本戦でも3回戦に達する快進撃を見せた思い出の地。

「あの時はアクセルを踏み続けて、そのまま突っ走ったイメージだった」

5年前を懐かしむように言う25歳は、この日の試合で、あの時の自分のように怖い物知らずの20歳の対戦相手の勢いを受け止め、一気に押し返す貫録のプレーを披露した。

「今は実力もついている。行けるような予感は凄くある」

経験に裏付けられた自信を胸に、2回戦では第15シードのK・プリシュコワに挑む。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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