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シンシナティ・マスターズレポ:10年戦士の杉田祐一、過酷なダブルヘッダーを制し初のマスターズ3回戦へ

内田暁フリーランスライター
写真は、リオ五輪での杉田祐一(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

1R ○杉田祐一 67(4) 64 62 ズベレフ

2R ○杉田祐一 63 75 マユ

自身初のマスターズ3回戦進出を決めたばかりのその足で、取材者が待つミックスゾーンへとまま真っすぐに向かう――。ラケットバッグを担いだまま取材に応じる杉田の姿に、勝利の余韻や感慨に浸っている様子は全くありません。

「非常にうれしいんですけれど、なんか、ちょっと行けるところまで行きたいなという想いがあるので、意外と落ち着いています」

それが杉田の、第一声でした。

「今は、自分が何で勝負しているか分かっている」

今大会の予選を突破した時、自信に満ちた目で真っすぐに放った言葉の真価を、彼は本戦のコートであますことなく発揮しました。初戦の相手は、今、テニス界が最も注視と期待を寄せる19歳のA・ズベレフ。しかし、今季は意図的にATPツアーを主戦場に選び、ロジャース・カップやオリンピックの大舞台も踏んだ杉田は、相手を“格上”と見なしてはいなかったようです。軽快なフットワークで相手の強打の落下点にピタリと踏み込み、鋭く、なおかつ軽やかにラケットを振り抜いて、相手に先んじ左右にボールを打ち分けます。ゲームカウントこそ並走状態が続きますが、攻勢に立っていたのは明らかに杉田。その試合展開に、若い対戦相手は苛立ちをつのらせていました。ラケットを叩きつけ、主審にも抗議するズベレフ。対する杉田は不運なショットや判定がありながらも、淡々と冷静に、しかし時にはジャンピングスマッシュを叩きつけ会場を沸かせる熱さで、自分のテニスを貫きます。結果、タイブレークの末に第1セットを失いますが、「体力的なところで負けてはいけない。第1セットは良い形でラリー戦もできていた。上手くかみ合えば追いつける」との感触をつかんでいました。

第2セットは相手のダブルフォールトにも乗じ、常にブレークで先行。照りつける日差しが、前日から降り続いた雨を蒸気に変える蒸し暑さの中、ズベレフは明らかに体力と集中力を失っていきます。そんな19歳を尻目にサービスの調子も上げていった杉田が第2セットを奪い、第3セットでも第5ゲームを3度のデュースの末にブレーク。この時点で、もはやズベレフは完全に戦意を喪失していました。

「最後、相手が疲れてダウンしていたのが見えていた。そこで一気に突き放そうと思ったのが、上手く行きましたね」

会心の試合運びを見せた杉田が、5ゲーム連取の電車道で勝利へと掛け込みます。その勝利の瞬間にも、彼は軽くガッツポーズを客席に向け掲げたのみでした。

キャリア最高とも言える勝利から僅か6時間後、彼は再び、同じコートに戻ってきます。雨で前日の試合がキャンセルになったため、この日は2試合を戦わなくてはいけなかったからです。

もっとも条件は相手のマユも同じであり、そして心身のスタミナの面で勝っていたのは、明らかに杉田。両セットともにブレークの直後に奪い返される展開ながらも、最後にもう一度ギアをあげて突き放す余力が杉田にはありました。

ダブルヘッダーで挑んだ初のマスターズ3回戦への挑戦は、飛びつくように放ったフォアのボレーが、ネットをかすめて相手コートに落ちる劇的な幕切れに。一日を通じ終始冷静だった杉田が、この時ばかりは、全身をそらして夜空に咆哮をあげました。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日テニスの最新情報をお届けしています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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