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全米OPレポ:4年連続初戦突破の奈良くるみ。両親を呼んだのは自信の表出? あるいは不安ゆえか…? 

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

全米OP1回戦 ○奈良くるみ 60 75 ボーグル

勝利の瞬間、満面の笑みを浮かべ拳を硬く握りしめたそのポーズを、奈良はしばらく崩すことはありませんでした。彼女が長く笑顔を向けた先にあるのは、客席の一角を占めるファミリーボックス。そこにはコーチやスポンサー関係者たちが詰めかけ、さらにはスタンドの客席には、日本から駆け付けた両親や、アメリカに留学中の弟の姿もありました。

「わたしの応援ばっかりで、相手が可哀そうだな……」と感じるほどに、試合を通じ終始奈良に向けられた声援。

「本当に応援が力になった」。

試合後に奈良は、再びうれしそうに笑いました。

奈良にとって最も応援が力になったのは、試合の終盤だったでしょう。6-0で圧倒した第1セットから一転、互いに際どくゲームキープを続けながらの並走状態となった第2セット。その攻防から先に抜けだしたのはボーゲルで、第10ゲームをブレークされた奈良は、第2セットを落とす危機に面しました。

それでも第1セットを終えた時から、相手が調子を上げてくるのは「想定内」。だからこそ、試合の潮目が変わりかねない分岐点でも、彼女は冷静かつ強い気持ちで戦うことができたのでしょう。足を動かし、アングルショットやコーナーへのループなどを広角に打ち分け、ここぞという場面ではバックの強打をダウンザラインに打ちこみます。多彩な攻めで相手のミスを誘った奈良が、すぐさまブレークバックに成功。続くサービスゲームを2度のデュースの末にキープすると、最後は鋭く打ち返したリターンで再びブレーク。4年連続となる、全米オープン初戦勝利を手にしました。

全米オープンは奈良にとって、4年前に予選を突破し本戦3回戦まで勝ち上がり、2年前には第31シードとして出場した思い出の地。今年は80位の地位でニューヨークに来ましたが、「今はランキングを気にしていない。実力をつけていけば上がれるチャンスはあると思うので、焦ってもいない。100位から落ちたら落ちたで、また上がれる楽しみもある」と、身心ともに充実している様子です。

ただ実はご両親よれば、今回は奈良から「これが最後のグランドスラムになるかもしれないから」と懇願されたために、ニューヨークまで駆け付けたのだとか。

果たして彼女の心のどこかには、そんな不安もあったのでしょうか……?

「いえ、ああでも言わないと、全然来てくれないから!」

返ってきたのは、明るい声。どうやら「これが最後」は、両親を説得するための“泣き落とし作戦”だったようです。

テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連続大会レポートやテニスの最新情報を発信中

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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