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東レPPO準決勝で逆転勝利! 決勝進出の大坂なおみの成長を、対戦相手のスビトリナの言葉より探る

内田暁フリーランスライター
試合後にネット際で大坂と握手を交わすスビトリナ(右)(写真:ロイター/アフロ)

○大坂なおみ 1-6,6-3,6-1 E・スビトリナ●

ストレートの金髪をおろし、キャップを目深にかぶったその下から除く形相には、隠しがたい落胆と、憔悴の影が色濃く落ちていた。

「今は色んな感情が入り混じっていて……良い試合だったと思う。でも、もっと違うプレーができたのではとも感じていて。彼女が良いプレーをしたのは間違いないけれど、自分のプレーが最後までできなかったのが、本当に残念で……」

まだ整理のつかぬ胸の内から答えをなんとか探り当て、口にしながら自分で正しいか否かを確かめるかのように、エリナ・スビトリナは途切れ途切れに、言葉を一生懸命に絞り出した。

今月12日に22歳の誕生日を迎えたばかりのスビトリナは、女子テニス界が“次世代のスター候補”として期待を寄せてきた選手である。2010年に15歳にして全仏ジュニアを制し、19歳となった2013年シーズンにはトップ50入り。翌シーズンをトップ30で終えると、昨年にはトップ20の壁も突破。今年3月にはキャリア最高の14位にも到達し、元世界1位のジュスティーヌ・エナンをコーチに雇うほどに向上心と野心をギラつかせてもいた。

そんな彼女が、今季破れた自分より年下の唯一の選手が、大坂なおみである。

今年1月の、全豪オープン2回戦。当時21位のスビトリナは、予選上がりの18歳に4-6,4-6のストレート負けを喫したのである。

一方の大坂なおみにとって、この全豪オープンのスビトリナ戦は、ある種の“リベンジ”であった。

2人の初対戦は、2年前の大阪市――。HPオープンで実現した若手対決は、最終セットを1-4の劣勢から巻き返したスビトリナが勝利を手にする。

「勝ちを意識し、色々と考え過ぎちゃって……」

当時16歳の大坂は、失速の理由を試合後に振り返った。一打ごとに唸り声をあげて自身を鼓舞し、重要な局面でメディカルタイムアウトを取るスビトリナの意地と巧みさの前に喫した敗戦でもあった。

この2年前の惜敗は、大坂の胸に鈍い痛みとともに刻み込まれていたようだ。今年1月の全豪でスビトリナを破った直後の大坂に、初対戦の試合内容を確認するつもりで「確か第1セットはあなたが取り、第2セットは奪われ……」と問いかけると、彼女はこちらの言葉を笑顔で遮り、「分かっているわよ、その後私は4-1とリードしながら逆転されたの」と続けたのだった。その大阪での悪夢を払拭するかのように、オーストラリアでの大坂は「しっかりボールを相手コートに返す。安定したプレーをし、集中力を切らさない」ことを心がけ一気に勝利をもぎとった。

そうして東京で迎えた3度目の対戦では、相手をより強く意識していたのは、「明確な対策」を抱いてコートに立っていたと言うスビトリナの方だったかもしれない。

「ボールへのリアクションを早くし、ベースラインから下がらず、強い打球を返していくこと」

そのプランを遂行すべく、総合力の高さを武器とする20位は、あらゆるショットを高次で組み立てた速い展開で、大坂を振り回す。コーナー深く刺さるショットに押され後手に回り始めた18歳は、自慢の強打を制御できず、本人曰く「ボールがあらゆるところに飛んでいった」。第1セットはスビトリナが6-1で先取した。

第2セットも序盤はスビトリナ優勢が続いたが、高い集中力で戦い続けた彼女の緊張の糸が、ふと緩む瞬間が訪れる。あるいは、2年前の初対戦時には荒さの目立った大坂の、自滅を期待し始めただろうか。

「第2セットの途中で、安全にプレーをし過ぎてしまった」

敗者は悄然とし、振り返る。

その僅かな潮目が変わる機を、大坂は見逃さなかった。この日、最も安定していたバックの強打でウイナーを奪い第6ゲームをブレーク。数少ないチャンスを生かし第2セットを奪い返すと、“流れ”は一気に大坂優位に流れ込んだ。

第3セットを完全に支配した勝者は、相手を慮るように遠慮気味に言う。

「過去の2回の対戦時に比べると、彼女はあまり試合に入り込んでいないように見えた。以前はもっと、ガッツポーズをしたりしていたから。もちろん私が良いプレーをし始めたから、相手がそうなったのかもしれないけれど……」。

対する敗者は、敗戦に流れ込んだターニングポイントを振り返り、自嘲気味な笑みを浮かべた。

「何故か突然よく分からない感じになり、集中力を欠いてしまった。第2セットの終盤、それに第3セットの途中でも、頭にキリがかかったような感じになってしまった。自分のプランを、コート上で表現できなかった」。

手にしたはずの支配権を奪われ、同時に、キャリア2度目となるはずだったプレミアレベル大会決勝進出のチャンスをも失う――。失意を抱えたスビトリナは、次の言葉を残して東京を後にした。

「トーナメントの準決勝というステージで、彼女のようなビッグヒッターに勝つためには、もっと早くボールをとらえ打ち合いを支配しなくてはいけなかった。

彼女は、フォアとバックの両方から強打が打てる。私のボールが短くなったので、相手に心地よくプレーさせてしまった。第2~第3セットは、彼女にとって簡単な試合だったでしょうね……」。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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