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ATPツアーファイナルズ:アンディ・マリー戦で錦織圭が得た確信と、改めて認識した課題

内田暁フリーランスライター
(写真:REX FEATURES/アフロ)

●錦織圭 76(9) 46 46 A・マリー

「圭は、ボールを広角に打ち分けるのが本当に上手い。恐らくは、他のどの選手よりも……」

試合後のマリーはいつもの無表情を崩さず、抑揚のない声のトーンで、3時間20分の試合をそう振り返りました。

緊迫の状況や劣勢の中でも見せた笑顔は余裕の証かと思われましたが、それについても、マリーは次のように明かします。

「ほとんどのポイントで主導権を握られていたので、フラストレーションがたまってしまい、思わず皮肉な行為を取ってしまった」

新たに世界1位に座したマリーをも、錦織はそこまで追い詰めていたようです。

マリーを守勢に追いやった錦織ですが、彼は決して「無理をして攻めてはないかった」と言います。

「昔はもうちょっと焦って打ってましたが、今年はかなり自分のテニスもしっかりしてきて、無理をしなくても左右にふっていれば浅いボールが来る」。

かつて錦織がマリーやジョコビッチに挑む時、常に彼を悩ませたのが「じっくり打ち合うべきか、それともリスクを取ってでも攻めるべきか」の命題。過去の対戦では後者の策を取り、結果、勢いや集中力が持続しきれず、ミスを重ねての敗戦が続いていました。しかしこの日の錦織は、マリー相手にもじっくり打ち合い、浅いボールを引き出し、機をみてネットにも出ていくプレーでポイントを重ねます。その結果が、セットポイントが入れ替わる壮絶なタイブレークの末に奪い取った第1セット。

「以前より、落ち着いてプレーできているかなと思います」という錦織が、濃密な1時間25分の攻防を制し、まずはセットで先行しました。

しかしそこまで支配権を握りながらも、結果的に3つあったブレークポイントを1度も取れず、総ポイント数では53対53と互角だった第1セットのスタッツが、マリーの強さを逆説的に示していたかもしれません。

第2セットの最初のゲームでマリーは、「多少放心状態だった」錦織の隙を逃さずいきなりのブレーク。第8ゲームで錦織にブレークバックされるも、その直後に再びリターンからプレッシャーをかけて再ブレークに成功。第2セットはマリーが奪い返しました。

第3セットでも、第3ゲームで錦織が犯した2連続ダブルフォールトを勝機と見て、集中力を上げてくるマリー。このゲームをマリーがブレークし、続くゲームを4度のデュースを重ねた後にマリーがキープした時点で、試合の大勢は決したと言えるでしょう。

「テニスの差はなくなってきていると思うが、メンタル的なところだったり、大切なところでの集中力や駆け引きだったりが、彼の方がまだ少し上だと思う」。

勝者と敗者を隔てたものの輪郭を把握するように言葉をつむぎつつ、錦織は言いました。

「そういうところを縮めていけば、もっともっと勝つチャンスは出てくると思います」。

今季錦織はマリーと4度対戦し、3月のデビスカップでは5セットの死闘の末に惜敗。オリンピックの準決勝では完敗を喫し「しょんぼりした」「マリーが大きく見えた」のコメントを残しましたが、その僅か4週間後の全米オープン準々決勝では、5セットの激闘の末に勝利を手にしました。

「ポイント取るパターンなどが、前より明らかに明確になって増えてきている」

大舞台でマリーと重ねた趣の異なる4つの試合は、来季も幾度も訪れるであろう戦いに向けた、掛け替えのない経験値となったはずです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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