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全豪OP予選レポ:添田豪が予選突破し本選へ 32歳が抱く「まだ上達している」の矜持と喜び

内田暁フリーランスライター

○添田 6-2, 3-6, 6-4 トルンゲリッティ

この日決めた21本目のボレーは、最も難しく、最も欲しく、最もうれしい一撃でした。

飛び付き豪快にボレーを沈めると同時に、添田は「ヤー!」と叫び声を上げ、そのままネットに両手をつくと、込み上げる熱い想いを噛みしめるようにうつむきます。

「1回戦から決勝戦のような気持ちで挑んでいたけれど、やはり決勝の緊張感は違った」

その別格の空気の中、添田豪は勝利をつかみ、グランドスラム本戦の切符を勝ち取りました。

添田が覚えた「緊張感」は、第3セット中盤から終盤にかけての攻防で、最も色濃くコートに映し出されていたでしょう。第2セットは半ば「捨て」、気持ちを引き締め直して挑んだ最終セット。添田は早々にブレークに成功すると、第7ゲームでも攻撃的なリターンでポイントを重ねて再びブレーク。5-2とリードし、勝利まであと1ゲームに迫ります。

しかし、その“あと1ゲーム”が重くて遠い。観客の大声援を背に奮起した相手は、カウンター狙いのストロークで添田に圧力を掛けてきます。第8ゲームを落とし、続くゲームもキープされる。

「あそこが一番、苦しい時間帯だった」

後に添田が振り返りました。

5-4からの第10ゲームも、添田のミスによる幕開け。それでも続くポイントを果敢なネットプレーで取った時、彼は吹っ切れたようです。そこからはサーブで2ポイントを連取。最後は冒頭で触れたように、豪快にして華麗なバックボレーで、熱戦に終止符を打ちました。

カウンターを得意とする相手と戦うにあたり、添田は戦前から「ラリー戦になれば相手のペース。攻撃的に前に出ていこう」と心に決めていたと言います。そう思えた根拠には、昨年末から取り組み、今季開幕戦のブリスベンでも機能したボレーへの手応えがありました。

同時に、このように新たな武器が体得できているという実感が、今の添田を走らせる最大の原動力でもあります。昨年中盤の最も苦しい時期には、同じ大会に出ていたサーブの名手・松井俊英からアドバイスを受け、サーブが改善できたことが再浮上のきっかけにもなりました。

「サーブにしてもボレーにしても、まだうまくなっている。改善の余地があることが、一番のモチベーションです」。

この日の最後に決めたボレーがうれしかったのは、単に予選突破を決めるものだったからではありません。「あんなに上手く決めたのは覚えがない」と本人も笑う一撃こそが、彼の成長の証だからです。

※テニス専門誌『スマッシュ』facebookより転載。連日テニスの最新情報を掲載中

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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