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全豪OP1回戦:「やりたくない相手」にフルセットで辛勝の錦織圭。苦戦の理由、そして勝因とは?

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

○錦織圭 5-7 6-1 6-4 7-6(6 ) 6-2 クズネツォフ

戦前から抱いていた「あまりやりたくない相手」との思い、そして「この速いコートで、フラットでバンバン打ってくるだろう」という予想のどちらもが、的中した一戦だったと言えるでしょう。錦織の2017年全豪オープンは、3時間34分を要したフルセットマッチの末に勝利をつかみとる、苦しく長い幕開けとなりました。

多くの選手が「例年より速い」と口を揃える今年のサーフェスも、速いタイミングのフラットで叩くクズネツォフに味方したでしょうか。

「一番苦労した原因は、彼のボールの質。対応しきれず、詰められる場面が多かった」と会見で開口一番認めたように、球威に押され、そこからのネットプレーで決められる場面も目立ちます。第1セットは、5-5からブレークされ相手の手に渡りました。

それでも第2セット以降は相手の強打にも適応し、左右に振ってミスを引き出していきます。第1セットでは29を数えた錦織のアンフォーストエラーが、第2セットでは僅か1に。第3セットも取り切り、これで趨勢は決まったかに思われました。

しかし第4セットは互いにブレークを繰り返す、混沌の雲行きとなります。錦織が「まだ完成していない選手」と評するクズネツォフは、ミスも多い代わりに、当たった時の爆発力は手が付けられないものがあります。加えて、ATP公式サイトの“得意ショット欄”に「フォアハンドとかじゃ、ありきたりでつまらない」との理由で“股抜き”と書く遊び心が、一か八かのギャンブルショットを生むのでしょう。

その相手の荒さに巻き込まれるように、錦織もどこか乗り切れません。「メンタル的に攻められていなかった。この速いサーフェスでは、もっと攻撃的に行くべきだった」と後に振り返る迷いが、タイブレーク終盤で相手の攻勢を許してしまいました。

嫌な流れでもつれ込んだファイナルセット――。しかしここでは、錦織の経験と地力が物を言います。「どこで変化をつけ、どこでブレークするか……」と機をうかがいつつ、「攻撃的に行くこと」、そして「左右に打ち分ける」戦術を徹底します。果たしてその時は、第4ゲームで訪れました。相手のミスでポイント先行したこのゲームを好機と見定め、バックのスライスを多用しミスを誘います。最後は、バックのスライスで相手を走らせ、オープンコートへ叩き込む鮮やかなウイナー。続くゲームではブレークポイントを握られる危機にも瀕しますが、この場面ではサービスが効果的に機能します。窮地を連続サービスウイナーで切り抜け、以降は流れを掌握しました。

「グランドスラムならではの緊張があった」「今日は余裕が無かった」

試合後にそう振り返るほどに、精神面も含め大いに苦しんだ初戦。それでも「フィジカルは全然問題ない」との言葉、そして11本のエースを奪いダブルフォールトは一つもなかったサービスは、今後に向けた明るい材料です。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日大会レポート等を掲載しています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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