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穂積/加藤組、全豪OPベスト4進出! 思い出のコートに刻んだ成長の証と新たな思い出……

内田暁フリーランスライター
ポイント間に作戦等を話し合う加藤(右)と穂積

○穂積絵莉/加藤未唯 6-3, 6-3 ルチッチバローニ/ペトコビッチ

二人が並んでこのコートに入るのは、6年ぶりのことでした。その6年前に穂積と加藤が戦った試合とは、全豪Jr.ダブルスの決勝戦。決勝まで進んだ喜びと、破れた悔しさの両方が染み込んだ、思い出の“ショーコート3”です。

もっとも、そんなノスタルジーに浸るのは周囲の話で、二人は目の前の戦いに集中し、勝利をつかむことだけに意識を向けます。

「自分たちのプレーをしっかりできれば勝てる」と穂積は信じ、加藤も「気持ちで引かず、積極的に向かっていこう」と決意を新たにコートに向かいました。

その二人の闘志と集中力は、試合開始直後から存分にコートに描かれます。特に、第1ゲームで加藤が見せた凄まじい反応の連続ボレーは、客席からの歓声を引き起こすほど。最初のゲームで早々に、日本ペアはショーコート3の観客を味方につけることにも成功。その会場の雰囲気にも勢いを得たように、二人は第4ゲームをブレークします。以降は、ストローク自慢のペトコビッチ&ルチッチバローニにも全く打ち負けることもなく、第1セットを奪いました。

第2セットのターニングポイントとなったのは、2-2で迎えたペトコビッチのサービスゲーム。第1セットでは、ペトコビッチのサービスゲームで2ポイントしか取れていなかった二人は、このゲームの前に打開策を話し合いました。それが、加藤のレシーブの際には穂積も下がり、機を見て加藤が前に出て得意の陣形に持ち込むこと。

果たしてのその策は、1ポイント目で機能します。ロブを上げた加藤が即座にネットに詰め、ペトコビッチのボレーミスを誘う。これでリズムをつかんだ二人は、4ポイント連取でブレーク。かくして最大の難関を攻略した日本ペアは、最終ゲームでは穂積のストロークウイナー、そして最後は加藤のポーチで鮮やかに終止符を打ちます。ペアとしての持ち味を相手に見せつけ、「ダブルスとはこうプレーするんだ」と訴えるかのような、会心の勝利でした。

試合後の二人は、グランドスラムベスト4の結果ももちろん、第2セットも気持ちで引かず、自分たちでポイントを取り勝ち切った事実を喜びます。それは、3回戦のミルザ/ストリコワ戦の第2セットで、「消極的になり」落とした反省材料を克服したから。準々決勝のストレート勝利は単なる1勝ではなく、重ねてきた戦いの中で、自分たちが成長していることの証でした。

……と、ここで話を閉めればそれで良いのですが、この二人の場合は、ちょっとしたお楽しみエピソードを常にコート内外で提供してくれます。

ショーコート3が二人にとって思い出の地であることは冒頭で触れましたが、その思い出の中には、今となっては笑い話の苦みも含まれています。それはJr.ダブルス決勝戦の重要な局面で、加藤がチャンスボールのボレーを壁にぶつかるほど派手にふかしたこと。穂積にとっては今も忘れられない“事件”で、加藤にしてみれば「とっくに忘れている」のに、いつまでも蒸し返される遠い過去です。

そして本日の試合でも、加藤はちょっとした珍プレーを見せました。事が起きたのは第1セットの終盤。相手のボレーが浮き、明らかにアウトになるかと思われましたが、その打球を追っていた加藤がベースライン付近で転倒。よりによって転んだ加藤にボールは当たり、イン判定になったのです。穂積も思わず「おーーい!」と声を上げる珍事。

「また、未唯がやらかした!」

試合後に穂積が笑えば、加藤は「(転んだ際の)受け身はばっちりでした」と満足顔。

思い出のコートにまた新たな思い出を刻み、そして今回はしっかり勝利も持ち帰る――。

6年前とは異なるこの結果も、二人の成長の証でしょう。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日テニス最新情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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