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内山靖崇がATPチャレンジャー初戴冠! “潜在能力ナンバー1”と言われ続けた男の覚醒なるか?

内田暁フリーランスライター
画像提供:京都テニス協会

京都チャレンジャー決勝戦

○内山靖崇 6-3, 6-4 カブチッチ●

「優勝して、初めて意味がある」――。

準決勝で150位のゼムラを逆転で破り、約1年半ぶりのATPチャレンジャー決勝進出を果たした時、彼は少しも表情を緩めることなく、穏やかながら説得力に満ちた口調で言いました。

「今までは、テニスの調子から来るメンタルのアップダウンが激しかった」。

高い潜在能力は自他共に認めるところながら、なかなか良い状態を継続できない……恐らくは本人が誰よりもどかしさを感じていたその課題を克服するため、今大会の彼は、勝利後も安堵や気の緩みを、己に禁じているかのようでした。

決勝戦のコート上でも、彼は自分を律し続けます。第1セットは、サービスゲームで相手にほとんどポイントを与えることなく、終盤に2つのブレークをもぎ取る会心の展開。

その流れを継続し、第2セットも序盤で3連続のブレークチャンスを手にします。しかしこのゲームは相手のエース、さらに自分のミスもあり好機を逃す。同時にこの頃から、「相手に自分のサービスのコースを読まれ始めた」と感じた内山は、サービスゲームでもジワリジワリとプレッシャーを受け始めます。第5ゲームでは、ダブルフォールトもあり0-40と許すリード。試合の潮目が、変わりかけた局面でした。

その緊迫の場面で内山は2本のエースを決め、さらには相手の「壁のよう」な粘り強いストロークにも打ち勝ち、素早く危機を脱します。

「あそこが、一番大きかった」と後に振り返る分水嶺を制した内山は、以降は2連続でラブゲームキープ。そうして5-4からのゲームをブレークし、強者の試合運びで自身初のチャレンジャータイトルをつかみとりました。

プロ転向から約7年にして、ついに到達した悲願の頂点――。

24歳での初優勝を、こちらは思わず、やや感傷的にそう捕らえそうになります。しかし当人の表情や声色は、前日の準決勝後と、ほとんど変わることがありません。

「次があるので、お祝い気分はありません」。

彼がここで言う「次」とは、翌日(27日)に開幕する慶応チャレンジャーのこと。

「一大会、良い結果が出ても次がダメだったら意味がない。これを続けなくては、ランキングも上がらない。優勝した次の大会は気持ち的に難しいところもあるけれど、だからこそ結果を出したい」。

周囲のお祝いムードも染み込むことがないほどに、試合後の彼は、静かな緊張感をまとっていました。

何かを変えるため、単身、バルセロナのアカデミーに渡って約2年。渡西当初は、コーチ陣の親身さと指導の正しさを理解しながらも……いや、理解できるからこそ、それを試合で体現できない自分にもどかしさを覚えもしました。それでも「これが大事なんだ!」と「脳に言い聞かせ」、動きの一つひとつを身体にすり込むように反復練習した末に、昨年終盤、積み重ねてきた様々なパーツが噛み合い始めたことを確信します。

「そろそろ行けるだろう!」

自身にゴーサインを出した内山の、真の戦いは、ここから始まります。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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