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テニス:予選で敗れた相手とリベンジマッチを戦った西岡良仁が、「僕の良いテニス」にこだわった理由…

内田暁フリーランスライター

○西岡良仁 6-4, 6-1 E・イーマー

「リベンジのチャンスだ! ぜってーやってやる!」

スマートフォンで、何気なく見た翌日の試合オーダーに自分の名前を見つけた時、西岡は自然と「気合いが入った」のだと言います。

それは本来なら、予選で敗れた自分がいるはずのない大会本戦の試合。予選決勝で敗れた時、4週連続の大会出場の疲れを隠せぬ西岡は、「これでちょっと休めるかな……」と思いながら、早々にホテルに引きあげていました。

ところがそこで目にしたのが、ラッキールーザーとして自分の名前が書かれたオーダー。しかも初戦の対戦相手は、つい先ほど破れたばかりのエリアス・イーマー。

「同じ相手に2回連続は負けられない!」

その時点で西岡の心は、リベンジマッチに向け高ぶっていきました。

予選決勝での西岡は、イーマーの執拗な中ロブ作戦に苛立ちを隠しきれず、「どうしてイライラしていたのか、自分でもわからなくなってきた」末に、最後は崩れるように破れてしまいました。

しかし持ち味を出せずに破れた事実を、彼はむしろ、再戦では自分に有利な条件だと捕らえます。

「僕は、向こうのテニスを把握している。でも相手は、僕の良いテニスを把握していない」。

彼の言う「僕の良いテニス」とは、長いラリーで組み立て、相手のリズムを崩しつつ、最後は自ら決めるテニス。肉体的な疲労はあるものの、西岡には「長いラリー戦は、俺の方からやってやるよ!」との強い決意がありました。

その覚悟を、西岡はコート上で示します。相手が再び、高く跳ねるボールでバックを狙ってくるのは想定内。だから決して焦ることなく、走ってスピンの掛かったフォアを打ち返し、シューズが擦れる音を響かせながらボールを拾い、そして少しでも相手のボールが浅くなれば、前に出てボレーを決めにいく。ゲームカウント4-4からのゲームを4度のデュースの末にブレークし、1時間6分をかけて第1セットを粘り強くもぎ取りました。

「昨日勝ったばかりの相手に、第1セットを取られるのはキツイはず」

そう相手の心理を読んだ西岡は、第2セットは立ち上がりから攻勢に出て、最初のゲームですかさずブレーク。続くゲームでは、長いラリーに焦れた相手が打ってきた強打を、その機を待っていたかのように、バックで打ち返し鮮やかなウイナーを叩き込む。

この一撃が事実上、試合の行方を決めたでしょう。粘っても攻めてもポイントを取れない相手は、打つべき手立てを失い困惑します。対する西岡は「第2セットに入った時点で足がつりそう」だったにも関わらず、以降もコート上でストレッチを繰り返しながら、どこまでもボールに食らいつき相手の心をへし折りました。

西岡がこの“再戦”で気合いが入っていたのには、リベンジ以外に、もう一つ理由があったでしょう。それは前日のイーマー戦でのこと……。アカプルコでの活躍が西岡の知名度を上げたのか、この時は予選にも関わらず多くの観客が席を埋め、その中には、シアトルから西岡お目当てで来たという米国男性も居ました。しかし持ち味を出せずに破れる西岡の姿に、落胆を隠せぬファン……。

そのようなファンの存在を知人から伝え聞いた西岡は、その事実を、深く真摯に受け止めます。

「そうですよね……お金払って見にきてくれたのに……」。

だからこそ本戦での西岡は、足がつりそうになっても、決して諦めずにボールを追い続けたのでしょう。その姿は見る者の心をつかみ、試合終盤では、ドロップショットに食らいつく西岡の姿に、コートサイドの観客が思わず歓声を上げる一幕も。

「ごめんなさい、興奮しすぎちゃったわ……」

恥ずかしそうに笑った高齢のその女性は、西岡の勝利の瞬間、立ち上がり「素晴らしい試合だったわ!」と拍手を送りました。

「今日は粘って……いいリベンジだったと思います」。

自分のテニスを存分に出し切った末の勝利に、西岡の顔からも会心の笑みがこぼれました。

※テニス専門誌『Smash』のfacebookより転載。連日、テニスの最新情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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