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マイアミオープン:尾崎里紗、コーチと二人三脚で辿り着いた「相手の心を乱す」テニスで上位倒し2回戦へ

内田暁フリーランスライター
試合後に、地元ファンにサインをねだられる尾崎

マイアミオープン1回戦 ○尾崎里紗 3-6,7-5,6-1 L・チリコ

「これですわ、里紗はこのテニスで勝っていく!」

試合直後、川原努コーチが見せた会心の笑顔と張りのある声が、この日のプレーこそが、二人が現在目指すテニスの一つの理想形であることを示していたでしょう。ファーストセットを奪われながらも、セカンドセットは競って奪い返し、そしてファイナルセットは一気に走りきる逆転勝利。7-5,6-0で快勝した予選決勝でも見せた「相手の心を乱すテニス」が、尾崎に初のプレミアマンダトリー(グランドスラムに次ぐ格付けの大会)での勝利をもたらしました。

本戦ドローの初戦相手にチリコの名を見た時、尾崎は「勝てるチャンスのある相手」だと思ったと言います。チリコは昨年、マドリード大会で予選を勝ち上がり準決勝に到るなど、大躍進を見せた20歳。それでも尾崎は「最近はあまり勝っていないし、フィットしていないようにも見えた」ことから、スタミナ勝負に持ち込めば、十分に勝機があると感じていました。そのような自信の背景には、昨年末からトレーナーと共にフィジカル強化を徹底し、心身のスタミナをつけてきたという自負もあったでしょう。

その勝利への筋書きをコートで描き切る上で、ターニングポイントとなったのが第2セット終盤の攻防。「安定感のあるバックよりも、強烈だがフォアの方が崩せそう」と感じた尾崎は、外に追い出すスピンショットや、ストレートに流すバックのスライスなどで、チリコのフォアに揺さぶりを掛けました。果たして尾崎が見抜いた通り、上下に打球を散らされると、チリコのフォアは精度を欠いて行きます。その機を逃さず、尾崎が4-3からのゲームをブレーク。第2セット奪取にリーチを掛けました。

しかしここから実際にセットを取るまでに、尾崎は5本のセットポイントを要します。続くゲームは40-0とリードしながら、ブレークバックを許す精神的にも厳しい展開。それでも「1ポイントごと集中する」ことを心掛け、自ら長いラリーへと持ち込み次のチャンスを追いました。そんな尾崎の強化されたメンタリティは、第12ゲームで光ります。まずは必死の守備でもぎ取ったポイントでデュースに追いつくと、そこからは焦れて前に出てきた相手の脇を抜く、パッシングショット2連発。ブレークと共に、第2セットを奪い取りました。

「本当は、5-3で取れれば良かったんですが…」

試合後の尾崎はそう苦笑いしましたが、1時間1分を掛けたこの第2セットの攻防が、結果的には相手の心身のエネルギー残量を大きく削り取ったでしょう。

ファイナルセットの立ち上がり、相手の乱れを読み取った尾崎は、絶妙なロブでさらに苛立ちを助長させます。そこからのチリコはダブルフォールトを2本重ね、最後はフレームショットでブレークを献上。ランキングでは上位の地元選手がラケットを地面に叩きつけたこの時に、試合の行方は決しました。

昨年からツアーでもベスト4に入るなど、周囲の目には覚醒とも見える結果を残してきた尾崎ですが、本人は上位選手相手の勝利にも「相手のミスが多かったので……」、「自分の目指すプレーではなかった」と、自身に及第点を与えることは、あまりありませんでした。そのような迷いの裏には、怖い物知らずで上位勢にも抜き身の刀を手に立ち向かっていくかのような、19歳当時のプレーの幻影を追っていた自分がいたようです。

その彼女が今は「マイアミ大会は全部、比較的良いプレーをしている。ちょっと感じをつかめた」と、自分のテニスに充実感を覚えている様子。次のキキ・バーテン戦(16シード)に向けても、「凄いボールを打つけれど、崩れることもある選手。自分のスピンのボールで攻めていけば、チャンスはある」と自信をのぞかせます。

「相手を良く見て、プレーの中で色々と考えていければ……」。

コーチと目指す“相手の心を乱すテニス”で、シード狩りを狙います。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日テニスの最新情報を掲載しています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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