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同性愛者・性同一性障害の法整備の動き(政治にマイノリティの声は届くのか)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
国会議員とLGBT当事者が交流会を開催。自民党の馳浩衆院議員と撮影。

私が共同代表を務める「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」はLGBTなどのセクシュアル・マイノリティに関する政策提言(ロビイング)を行っています。

LGBTとは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)の頭文字をとった言葉で、大まかに言えば、同性や両性に恋愛・性愛の感情を抱いたり、心身の性別が一致しない人々などを指した概念です(※)。

※もっと詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

「セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編」

LGBTに関する政策というと、最近よく話題になる「同性婚」などがイメージしやすいかもしれませんが、私たちの団体では、LGBTが幼少期から若者の時期にかけて、自殺やいじめのハイリスク集団であることから、子どもや若者の支援に関する要望を行っています。まだ道半ばではありますが、今日はこれまでの動きと、尽力してくださっている国会議員たちについてご紹介します。

民主党政権時代:LGBTの抱えている問題が明記された!

LGBT政策に熱心に取り組んでくれた民主党の井戸まさえ衆院議員(当時)と撮影
LGBT政策に熱心に取り組んでくれた民主党の井戸まさえ衆院議員(当時)と撮影

民主党政権時代の2012年前後、私たちが最もエネルギーを注いだのは「LGBTの自殺対策」でした。自殺対策という、命に関わるテーマを前にして、党派に関わらず非常に多くの議員の方から支援をいただきましたが、その中でも中心となって動いてくださったのは、民主党の議員たちでした。

LGBTはさまざまな偏見や孤立の中で、自殺のリスクが非常に高いことが明らかになっています。しかし、民主党内部に「性的マイノリティ小委員会」が発足し、熱い議論が交わされるようになるまで、国内の自殺対策では、そのことを議論されたことがほとんどありませんでした。それが、激しいやりとりの末、国の自殺対策の方針を定める「自殺総合対策大綱」に、はっきりと「性的マイノリティ」に関する文言が明記されるまでになりました。

日本国内では性的少数者のテーマでは、性同一性障害のみが政策課題として扱われる風潮がありますが、同性愛者などを含むLGBT全体が政策課題として取り組まれたことは非常に画期的でした。社会の中で偏見が根強く、また「人権問題」自体がそもそも議員からの関心を得にくい中で、このような動きがあったことは非常に意義深かったと思います。

民主党「性的マイノリティ小委員会」の奔走

民主党の「性的マイノリティ小委員会」で明智カイトが講演している様子
民主党の「性的マイノリティ小委員会」で明智カイトが講演している様子

2012年「自殺総合対策大綱」改定のさい、中心となって動いてくれたのは民主党の今野東参院議員(当時)、山花郁夫衆院議員(当時)、松浦大悟参院議員(当時)、井戸まさえ衆院議員(当時)、尾辻かな子さん(当時落選中、その後参院議員へ繰り上げ当選)などでした。

「小委員会」の始まりは、今野東参院議員(当時)と、松浦大悟参院議員(当時)が「人権問題を市民とともに考える議員連盟」という集まりの中でLGBTのテーマを取り上げてくれたこと。その後、井戸まさえ衆院議員(当時)と山花郁夫衆院議員(当時)も協力してくださることになり、民主党内に「性的マイノリティ小委員会(小委員長:松浦大悟参院議員)」という小委員会が発足しました。

まず私やゲイ・バイセクシュアル男性にかんする健康問題等の調査を行っている日高庸晴先生へのヒアリングが行われ、「LGBTの置かれた現状に対し、国として自殺対策を行う必要がある」ことを、全員がはっきりと認識しました。

関係省庁である内閣府や厚生労働省、文部科学省などの官僚たちは、「大綱」にLGBTに関する文言を入れることには抵抗を示していました。前例がなく、社会的にも偏見が強いので(偏見が強いからこそ自殺対策の中では重要なのですが)、あまり積極的に取り組みたくない様子が伺われました。その重い腰を動かすべく、何度にも渡って熱い議論が繰り広げられ、そのような経緯からようやく「自殺総合対策大綱」の対象が(性同一性障害に限らず)LGBT全体という定義にまで拡大されたというのは、やはり民主党の国会議員の方たちの功績だと思います。

(先日お亡くなりになった今野東さんには大変お世話になりました。本当にありがとうございました)

民主党が「性的マイノリティ小委員会」を設立したのと同じタイミングで、公明党は性同一性障害の団体から要望を受けて「性同一性障がいに関するプロジェクトチーム」を設立し、性別適合手術や学校現場での配慮などの課題解決に向け議論がされているようです。

みんなの党(現・結いの党)の川田龍平参院議員は「LGBTの相談窓口の拡充」について国会で質問し、大臣の答弁を引き出してくださいました。

日本共産党の宮本たけし衆院議員からは「わたしたち左翼と思われている人間が性的マイノリティのことで動くと保守系の人たちが騒ぐ。これからも日本共産党が性的マイノリティの人たちを守るのは揺らぐことはないので、一人でも多くの自民党議員を味方につける努力をしなさい。わたしはそれを望んでいる」と言われました。

自民党政権へ

「性的マイノリティに関する課題を考える会」事務局を務める牧島かれん衆院議員と撮影
「性的マイノリティに関する課題を考える会」事務局を務める牧島かれん衆院議員と撮影

自殺対策ではLGBTの存在が明記された一方で、教育現場で孤立している当事者の子どもたちを支援するためには、教育に関する政策も必要です。その中で特に深刻である「いじめ問題」において、LGBTについて取り組んでもうべく、2013年からは「いじめ問題」についても要望を開始しました。

始まりは2013年3月、自民党の橋本岳衆院議員の紹介により、馳浩衆院議員と面会しました。馳議員は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」成立の立役者としても知られていますが、今後は同性愛者も含めたLGBT全体の子どもに対するいじめ対策についても前向きに取り組みたいとの力強いメッセージをいただきました。

同じ時期に、衆議院法務委員会において、日本維新の会の林原(西根)由佳衆院議員からLGBTと教育や雇用、社会保障に関する質問があり、国会内でもLGBTに関する認知が高まります。

このような経緯から自民党の中で有志議員が中心となって「性的マイノリティに関する課題を考える会」が設立されることになり、馳浩衆院議員が会長を、ふくだ峰之衆院議員が事務局長を、牧島かれん衆院議員が事務局を務めることになりました。今後は自民党の国会議員の方たちとも連携しながら、性的マイノリティが直面している課題について取り組んでいきたいと考えています。

お互いを理解するために交流会を開催

その後も当団体と、同性パートナーシップ法の制定を目指す「特別配偶者(パートナーシップ)法全国ネットワーク」を中心として、自民党の国会議員の方たちとは交流会や勉強会等を不定期で開催させていただいています。現在では、交流会への参加議員は10名ほどまで増えています。

2013年5月の勉強会では、自民党の国会議員は馳浩衆院議員橋本岳衆院議員ふくだ峰之衆院議員牧島かれん衆院議員が参加しました。以下、議員の方々の発言をご紹介します。

会長の馳浩衆院議員「諸外国では中学生段階でセクシュアル・マイノリティに関する教育をしている例がある。わが国でもそうすべきで、現在研究中。」「法律を作るにはまず立法事実が必要。」「我々もこれから自民党の中で仲間を増やしていく。みなさんももっと仲間を増やしてほしい」

ふくだ峰之衆院議員「自分はまだセクシュアル・マイノリティについてわからないことが多い。多くの自民党議員はこれまでゲイに会ったことが一度もないという人が大半だろう。もっとお互いを知るという意味で、これからもこのような交流会を継続して開催していきたい」

牧島かれん衆院議員「アメリカ在住中から多くのゲイと職場で接してきた。国会の中では勉強会の事務局として頑張りたい」

橋本岳衆院議員「学生時代に友人からゲイだとカミングアウトされたことから性的マイノリティの支援について考えはじめた。当事者の人たちは『自民党は同性愛者を差別している』とか『どうせ自民党が同性愛者のために何かしてくれるわけない』という固定観念に捉われないでほしい。自民党の中にもいろいろな議員がいる」

様々なメッセージをいただく中で、自民党の国会議員の方たちからは「マジョリティとマイノリティ」、「政治家と市民」、「異性愛者と同性愛者」などといったお互いの様々な違いを乗り越えて、私たちのことを理解しようと頑張っている姿を改めて感じました。

アドボカシー(政策提言)の必要性

これまで、私が関わってきたLGBTの政策提言と、議員の方々の動きについてご紹介してきました。お金もない、コネもない、一人の市民であったとしても、何か問題を抱え、困っていることをきちんと「政策提言」の形にすることで、きちんと話を聞いてくれる人たちがいるということ。また、LGBTという、社会的に偏見が強く、政策としても前例が乏しいテーマであっても、一定の流れがうまれつつあることについて、ご理解いただけたのではないかと思います。

アドボカシー(政策提言)については以下のようなポイントが考えられます。

・なにが社会問題であり、どうしたら改善されるのかを考える

・「その社会問題があること」を知ってもらう

・「その社会問題」について、鍵となる人たちにきちんと理解してもらう

・賛成の意志を示してもらう

・署名してもらう

・賛同者自身に周囲の人に広めてもらう(口コミ、SNS、メディア、投書など)

・地元選出の国会議員に味方になってもらうべく訴える(手紙など)

・議員との面会・集会等に参加し、顔の見える関係の中で要望する

さらに、

・新聞をはじめメディアから協力を得る

ことも重要なポイントになってきます。

どのような社会問題があり、どのような解決方法が必要なのかを知っているのは、その問題で困っている当事者や関係者であることが少なくありません。今後、さまざまな分野で、市民がアドボカシー(政策提言)に関わっていくことで、少しずつ生きやすい社会へと近づいていくのではないでしょうか。

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●執筆協力

「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表 遠藤まめた

バラバラに、ともに。 遠藤まめたのホームページ

「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」

LGBTの子ども、若者に対するいじめ対策、自殺対策(=生きる支援)などについて取り組みをしている。LGBT当事者が抱えている政策的課題を可視化し、政治家や行政に対して適切な提言を行い問題の解決を目指すことを目標としている。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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