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レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「日本とフランスのLGBT事情について」

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
牧村朝子×明智カイト:日本とフランスのLGBT事情について熱く語り合います。

レズビアンのタレントで同性パートナーと一緒にフランスで暮らしている牧村朝子と、ゲイの活動家でいじめ自殺未遂経験者の明智カイト。全く異なる人生を歩む二人が日本とフランスのLGBT事情について語り合います。

LGBTとは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)の頭文字をとった言葉で、大まかに言えば、同性や両性に恋愛・性愛の感情を抱いたり、心身の性別が一致しない人々などを指した概念です(※)。

※もっと詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

「セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編」

同性パートナーと一緒にフランスで暮らすことに

「それはもう、愛のためよ。」

牧村朝子×明智カイト:まずはお互いの自己紹介から
牧村朝子×明智カイト:まずはお互いの自己紹介から

明智 では、まず初めに牧村朝子さんから自己紹介をお願いします。

牧村 牧村朝子です。杉本彩が社長を務める芸能事務所「オフィス彩」に所属して、セクシュアリティについて書いたり話したりすることを仕事にしています。普段は、フランスの法律で結婚している妻とパリで生活し、雑誌・新聞・WEBメディアの記事を書いています。年に2か月くらいは日本に戻り、講演・イベント・テレビ出演などの話すお仕事をしています。

明智 私も自己紹介します。牧村さんにきちんと自己紹介するのは初めてですよね?(笑)

明智カイトです。私はゲイで、本職は病児保育・病児後保育の認定NPO法人フローレンスの職員をしています。10代の頃にいじめを受けて、19歳のときに自殺未遂を経験しました。大人になり、LGBTに対するいじめや自殺をなくしたいという想いから「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げました。私は、LGBT当事者が抱えている「生きづらさ」や「生きていくうえでのリスク」を少しでも減らしていきたいと思っています。法の整備や公的支援の整った環境を作るために、国会議員や行政などに対して政策提言や要望活動をしています。

牧村さんは同性パートナーと一緒にフランスで暮らしていますが、なぜフランスで暮らそうと思ったのですか?

牧村 それはもう、愛のためよ。

うちは妻がフランス人で、私が日本人なんですね。もともと日本で出会って、お互いに働きながら日本で一緒に暮らしていました。

妻は日本のマンガが大好きで、マンガ業界に携わる仕事をしています。子ども時代からの夢をかなえた一途さが素敵だなって、いつも思っています。

それに、出会った時に印象的だったのがね、初めてのデート場所が、よりによって古民家園だったのね(笑)。小雨が降る中、二人で豚汁を分けっこしてすすって。そこに虫が入ってたの。そしたら妻はね、騒ぐでも文句を言うでもなく、「あ、虫さんが煮られて死んじゃったよ……」って呟いてそっと外に出したの。ナウシカみたいだった。なんていうか、その瞬間、不思議にすごく安心しちゃって。この人とならいろんなことが乗り越えられそうだな、一緒に生きていきたいなあ、って、すごく愛おしくなったのを覚えています。

そんな中、日本の企業で働くフランス人の彼女が、フランスの企業からヘッドハンティングされました。日本では戸籍上が他人同士である私達を、フランスの企業は≪婦妻≫として扱ってくれるというんですね。

当時のフランスでは、まだ同性結婚は法制化されていませんでした。けれどもPACSという、準結婚のような制度は同性同士でも利用できることになっていました。さらに会社にも理解があるので、転勤の際も二人分の費用を会社が出してくれる、日本人である私のビザ申請のためにも「二人は愛し合っていて偽装カップルじゃないです」という書類を会社が出してくれる、と。

日本での二人の生活は、同性結婚ができず相手に婚姻ビザがおりない以上、「万一、労働ビザが打ち切られたら引き離される」という不安と常に隣り合わせでした。他にも、事故で緊急治療室に入ったって法律上は他人同士だから面会できない可能性があるとか、一緒のお墓に入れないかもとか、いろんな不安があったわけですね。それらがフランスでなら解決すると、そういう期待がありました。

明智 なるほど。ですが、当時のフランスは同性結婚制度がまだなかったということですよね。そのことで具体的には、何か困難がありましたか?

牧村 一番大きかったのは、引き離されちゃったことかな。当時利用していたPACSでは、外国人配偶者の滞在許可が約束されるわけではありません。それで、私のフランスでのビザが期限日を迎えるときまでに、同性婚法制化が間に合わなかったのね。私達カップルはあらゆる手段を尽くしましたが、結局、引き離されざるを得ませんでした。すでに法的パートナーであるにも関わらず、です。「それが法律だからね」と、パリ市役所の担当者がさらりと流していたことを思い出します。一度日本に戻ってから、改めてフランス移民局に行き直したら、「あなた違法滞在すればよかったじゃない」なんて言われて(笑)。あれはムチャクチャだったわぁ。

日本の問題点

「愛する人と暮らすための社会制度がない」

明智カイトの壮絶な人生体験を聞いて、驚きを隠せない様子の牧村朝子
明智カイトの壮絶な人生体験を聞いて、驚きを隠せない様子の牧村朝子

明智 私も日本で同性パートナーシップ法の制定とか、LGBTも里親制度や特別養子縁組の利用を可能にして欲しいと思っています。牧村さんは日本での法整備に疑問を感じて、フランスに住むことを決めたとのことですが、日本での法整備についてはどのように考えていますか?

牧村 社会制度というものが、全ての人にとって完璧であることはありえないでしょう。しかし、すこしでも前を目指すために、すこしでも取りこぼされる人が減るように、日本においても同性同士で生きる人のための法整備が求められていると私は考えます。

個人的には「結婚」という肩書きはどうでもいいです。ただ、ビザのことで引き離されないとか、相手が昏睡状態にでもなったとき「家族じゃないんだから面会拒否だよ。介護も親族でやるから」なんて言われないとか、配偶者同士のための保険に入れるとか、一緒の住宅ローンが組めるとか、高齢になったとき大家さんに「同性同士の独身同士なんて怪しいから部屋貸さないよ」って言われることがないとかね。そういう、生活の上でのあらゆる細かい「困ったこと」が一挙に解決するパッケージは、今のところ「結婚」なのかなって、そう思いますね。

ところで、明智さんはこれまでどのような経験をされてきたのですか?

明智 私は中学生の頃、クラスメイトから「ホモ」「オカマ」「女っぽい」「気持ち悪い」などと言われて執拗ないじめを受けてしました。性的な部分を攻撃されるので、大人に相談することにはためらいがありました。また、いじめ被害の訴えをうまく大人たちに説明する自信もありませんでした。しばらく不登校になりましたが、親や教師に急かされるまま、二週間後に無理やり学校に戻りました。教師は「男らしくない君にも問題がある」と言い、親から「もう大丈夫だから」と聞いていた教室は、相変わらずの地獄でした。

中学を出て高校に進学した頃には、いじめの影響で引きこもりへ。「このまま家にいたら本当におかしくなってしまう」と怖くなり、17才のとき必死の思いで家出した先は、寮つきのニューハーフパブでした。自分は女性の格好がしたいわけでも、女性になりたいわけでもなかったのですが、当時はそれしか思い付きませんでした。その後、実家に戻りましたが、同性愛者であることも、希望した進学先も、両親は否定するばかり。親の決めた大学受験に失敗したときに「自分のやりたいこともできず、親の希望どおりにもできず、自分にはもう自らの命を絶つ選択肢しか残されていない」と自殺を図りビルの上から飛び降りました。全治半年の重傷でしたが奇跡的に命は助かったので今の私がいるものの、ここまでしないと周囲の人が私の話を受け止めてくれることはありませんでした。

牧村 それはそれは、いろんなことがあったのね。お辛いこともあったこともあったでしょうけれど、今はそのご経験をバネに活動していらっしゃると。

明智 はい。私はこのような経験から「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、LGBTの子ども、若者に対するいじめ対策、自殺対策(=生きる支援)などについて取り組みをしています。LGBTが抱えている政策的課題を可視化し、政治家や行政に対して適切な提言をしていくことによって問題の解決を目指していきたいと考えています。

先日、「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」ではLGBT当事者の約7割が子どものころ、学校でいじめや暴力を受けたことがあるという調査結果をまとめました。

LGBTの学校生活に関する実態調査(2013) 結果報告書

調査は昨年10~12月にインターネットを通じ、主に関東地方で育った10~35歳を対象に実施しました。小学校から高校までの学校生活について尋ね、609から有効回答がありました。

いじめや暴力に遭った経験を複数回答で尋ねたところ、「言葉による暴力」(53%)と「無視・仲間外れ」(49%)が多く、「身体的な暴力」は20%、「服を脱がされるなど性的な暴力」も11%ありました。全体の413人(68%)が何らかの暴力を受けていました。

この調査結果からもわかるように、LGBTの子どもたちを取り巻く環境は厳しいことが明らかになっています。

牧村 そうですね。なんだかよく「同性婚なんて認めたら少子化するじゃないか」っておっしゃる方がいるけれど、そんな相関関係を示す統計はないですし、むしろ偏見によっていわば殺されている人がいるといっても過言ではないわけで。また既に同性同士で子育てしている人や、シングル親として子育てしている同性愛者にも、双方に親権が認められないとか、いろいろ困ったことがあるわけね。

そういう、生きたくても生きられない子、育てたくても育てられない親を、いかにサポートするかっていうことこそ結果として少子化対策になるんじゃないかしら。フランスでは、同性婚法制化から1年の間に結婚したカップルの平均年齢が、女性43歳、男性50歳でした。愛する人と暮らすための社会制度がない中で、困りながらも工夫して、何十年もずっと待っている人は日本にもいる。私も信じて、待っています。(つづく)

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牧村朝子

【ブログ】

牧村朝子オフィシャルサイト

【プロフィール】

1987年生まれ。2010年、ミス日本ファイナリスト選出をきっかけに、杉本彩が代表を務める芸能事務所「オフィス彩」に所属。フランス人女性とパリでの結婚生活を送りながら、人間の性のあり方について各種媒体に執筆・出演を続けている。著書「百合のリアル」(星海社新書)。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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