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緊急インタビュー:児童ポルノ禁止法改正案が衆院を通過!子どもたちを性的虐待から守るために残された課題

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
報道陣に囲まれるアグネス・チャン日本ユニセフ協会大使

児童ポルノの単純所持を禁止する児童ポルノ禁止法改正案が2014年6月5日の衆院本会議で与党や民主党などの賛成多数で、今回の改正案を推進してきたアグネス・チャン日本ユニセフ協会大使らが見守るなか可決されました。参院審議を経て、今国会で成立する公算が大きいです。児童ポルノ禁止法改正案について表現規制に慎重な運動団体AFEEの副編集長にしかたコーイチ氏にお話を伺いました。

「表現の自由」と「児童福祉」の両立をめざすために

明智 まずは自己紹介をお願いします。

にしかた 表現の自由と児童福祉の両立をめざす超党派の運動団体 『AFEE(エイフィー)エンターテイメント表現の自由の会』副編集長をしています。特に団体のなかでも『児童の福祉擁護派』として団体の理念を牽引しています。また大人向けポルノ規制は最小限にと主張しつつ、性教育の充実やメディアリテラシーなど児童・子どもへの正確な性情報の提供にも強い関心を持っています。

私は『有害コミック』反対運動から20年以上にわたってファンであったマンガ・アニメ表現の自由にこだわり、99年には児童買春・児童ポルノ禁止法を真に児童の人権と福祉を守るための法律とするため奔走するなどしてきました。いっぽう大学で欧州福祉政治を、滞在先のインド・タイなどアジア諸国でコミュニティの暖かさに触れた実体験から福祉社会や相互扶助の新しいあり方にも並々ならぬこだわりを持ち、現在はそれを地元・池袋の街づくり活動にも活かしています。

私には現在、2歳半の男の子がいます。2011年生まれなので、過去数十年の平均寿命の伸びをみれば、きっと90歳以上、つまり22世紀まで生きるでしょう。だから、この子の22世紀まで親として強く責任を意識していきたいと思っていますし、多様性の尊重される社会の中で子どもを育てていきたいという想いもあります。むろん母親の負担を減らすべく保育の充実は大事ですね。私の家庭は現在、夫婦別姓です。父親、母親がそれぞれの役割を社会において協力して果たせる新しい家族像を模索していきたいと思っています。趣味は旅行ですが、最近は子供が幼いこともあり家族連れの旅がむずかしく最近はご無沙汰しています。

定義が限られた「単純所持」規制

にしかたコーイチ氏
にしかたコーイチ氏

明智 児童ポルノ禁止法改正案が衆院を通過しましたね。どう評価していますか?

にしかた 6月5日に「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(通称:児童買春・児童ポルノ禁止法)」の改定案が衆院を通過しました。私はこの法および改定案の目標、「児童の保護」についてはまったく同意します。しかし今回の改定案で積み残した課題もあります。

明智 今国会で議論されている児童ポルノ禁止法改正案のポイントは何ですか?

にしかた 今回の案の力点は「児童ポルノ」をただ保有するだけの「単純所持」の禁止にありました。性的虐待を実際に受けた児童個人画像の所持禁止には意味があります。それそのものが児童虐待だからです(その児童が成年に達しても)。でも「単純所持」禁止は、武器や麻薬等と同じ扱いです。なので「どういった形態が『単純所持』か」「性的虐待の定義」などについて、厳密さが必要なはずです。

前者の「どういった形態が『単純所持』か」については、かなり慎重な議論がありました。その結果、これまでの「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」という曖昧な定義(第二条3の三)が「殊更に児童の性的な部位(性器等もしくはその周辺部、臀部または胸部をいう)が露出されている」と限られ、また「学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」との一文が加わりました。

さらにあらゆる「単純所持」を処罰するのでなく「自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持」と「性的好奇心目的」に限られました。これらで捜査機関やメディア、図書館等の莫大な所蔵物のなかに存在したなどのケースは処罰対象外となります。ここは評価してよいでしょう。

明智 「内心の自由」との関係についてはどう思いますか?

にしかた そうですね、まず「性的好奇心目的」とは何かということに触れたいと思います。日本国憲法第19条には絶対的自由として「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とあり、内心の自由を強く守っていますから、捜査機関には自白に頼らない「性的好奇心」の客観的な立証が求められます(憲法第38条第3項「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」)。

ここは例えば「『児童ポルノ』を性的好奇心のため整理して所持」等の外形的な要件、法の第二条2(児童買春の定義)で既に「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り(以下略)」との条文がある、他の法律でも「風俗営業法」にこの語が使われている…などが論じられたようですが、それでも「性的好奇心」を理由に「単純所持」処罰の有無が分かれる問題は、まだ残ります。かといって全ての「単純所持」を禁止すればメディアや図書館、何より捜査機関自身の所持さえ場合によっては取り締まり対象になり、これも無理筋です。捜査機関には憲法38条第3項を厳密に適用し、冤罪を防ぐためにも自白に頼らず、形ある証拠に基づく捜査を強く求めます。

「性的虐待」でなく「視る側」の視点になっている定義

「コパイン指標」(Copine Scale)
「コパイン指標」(Copine Scale)

にしかた さらに重要なのは「児童ポルノ」の定義にある「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との条文です(法第二条3の二および三)。最初にも書いたように、この法は児童への性的虐待を防ぐことが目的で、その主体は「児童」自身のはず。でも「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との文は「視る者」が主体で、ここに「児童」自身への性的虐待防止という「個人法益」でなく「価値観」を罰するという「社会法益」が入っているのです。

では「視る者」とは誰のことか。例えば大多数の一般人は「乳幼児」の裸で「性欲を興奮させ又は刺激」されませんが、ごく一部に乳幼児を専門に性的虐待する卑劣な者がおり、これこそ被害が重大なのに「性的虐待の有無」は「児童ポルノ」の定義に入りませんでした。また「性的虐待の有無」については「コパイン指標」(Copine Scale)という「性欲」「わいせつ」でなく「虐待性」で判断する基準があり、それによれば最悪の性的虐待は「児童への獣姦・サディズム」。

ところが「視る者」が基準の定義であるため、児童が衣服さえ着ていれば「獣姦・サディズム」という最悪の虐待を防げないのです。ここは現行法および改定案の大きな欠陥ですし、事実「国際刑事警察機構」(インターポール)はそもそも「児童ポルノ」の語さえ「性的虐待を適切に示せない」と批判しています。「児童ポルノ」は「成人のポルノ」と同列ではないのです。この「性的虐待の有無」は今後、最大の論点になるでしょう。

表現規制派の衆院議員は性的虐待について議論できない腑抜けばかり。最後の砦の参院に期待したい

明智 最後に感想をどうぞ

にしかた 今回の改定案が出るまでに被害児童のいない「マンガ・アニメへの規制の検討」が抜かれるなど、大きな成果もありましたが、いっぽうマンガ絵はともかく「純粋美術」に不可欠な児童のヌードデッサンが禁止されるという意見もありました。

また前述したとおり最悪の性的虐待についてはきちんと衆院で議論されていません。表現規制派の衆院議員は性的虐待について議論できない腑抜けばかりだと思いました。最後の砦の参院に期待したいです。この案にはなお検討すべき課題が残ると言わざるを得ず、今後も法の運用に注視していきます。最終的には「児童虐待防止法」との統合も含め、大幅な法の改廃・改善を訴えたいです。

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AFEE エンターテイメント表現の自由の会 副編集長 にしかたコーイチ

1970年生まれ。マンガ・アニメ規制などの問題に編集者・ライター・読者として20年以上関わる。現在は表現規制に慎重な運動団体 AFEE の副編集長。

AFEE(エイフィー)エンターテイメント表現の自由の会

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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