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エボラ出血熱、デング熱: ウィルスも蚊も飛行機に乗ってやってくる。

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

現在、西アフリカではエボラ出血熱が大流行し、死者はすでに1552人に上ります。(8月26日現在)

「世界保健機関(WHO)は…感染者が今後2万人を超え、感染国もさらに増える可能性があるとの見解を示した」、そして感染拡大を阻止するには向こう9か月間で総額4億9000万ドル(約508億円)の費用を要すると試算しています。また、「今回の流行では前例のないほど多くの医療従事者が死亡」しているようです(以上、8月29日付、ロイター通信)

出典:『エボラ感染が2万人超える可能性、約508億円の対策必要=WHO』2014年8月29日

日本ではデング熱の国内感染が東京・代々木公園で約70年ぶりに確認

エボラ出血熱、デング熱、そしてマラリアその他もこれまでは熱帯地方の感染症と考えられてきましたが、今や地球温暖化と航空機による人の大量移動によって、感染症が温帯地方にまで拡大する傾向となっています。ウィルスに感染した人間が、そして デング熱やマラリアのウィルスを媒介する蚊も飛行機に乗り、世界中に散っていきます。

参照:『(朝日新聞)成田便、やっかいな蚊も搭乗? 感染者増えるデング熱 』

振り返ると、2003年に日本でもSARS(サーズ:重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザ問題でたいへんでした。とくに前者は空気感染する可能性もあり、成田空港での緊迫した対応ぶりがテレビで連日放映されたことは記憶に新しいところです。

その後、SARSは収まっているようですが、エボラ出血熱など本当に怖いウィルスがいつ日本に入ってくるか分かりません。「…より深刻なのは、エボラウイルスなどを研究できる施設が国内にはないことだ。間違っても病原体が漏れ出さないよう、最も厳重な高度安全実験施設(BSL4施設)でなければならないが、 世界には約40カ所あるのに国内はゼロ…」(朝日新聞8月5日付社説『エボラ出 血熱 拡散の危険を忘れずに』)。

これはまずい。エボラ出血熱では現地の封じ込めのための国際社会による大規模な資金提供、そして国内での感染症への万全な対策が求められています。そのためには感染症対策資金が要りますが、日本政府は8月15日にODA(政府開発援助)の無償資金、150万ドル(約1億5千万円)を西アフリカ諸国に提供しました。4月に個別ギニアに52万ドルを提供したとのことですが、合計でも202万ドル(約2億400万円)というのでは、WHOや西アフリカ諸国からの必死の要請には程遠い感がします。

一方、国内的には厚生労働省管轄の感染症対策予算が使われると思いますが、こちらも十分なのかどうか 心配です(上記朝日新聞記事だと心許ない)。

エイズ・マラリア・結核等の感染症対策に航空券連帯税の導入を

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そこで提案ですが、航空券連帯税が今こそ必要ではないでしょうか。航空券連帯税というのは現在、フランス、韓国やアフリカ諸国など10カ国で実施中の税制ですが、飛行機の国際線を利用する乗客から定額税(座席別または一律で)を課すものです。フランスでは、国際線のエコノミー席を利用する乗客に4ユーロ(500円)、ビジネス席やファースト席を利用する乗客に40ユーロ(5000円)を徴収しています。各国からの税収は主要にエイズ・結核・マラリア等感染症の治療薬や診断薬を提供するUNITAID(ユニットエイド:国際医薬品ファシリティ)の資金となっています。

そこで、日本でも航空券連帯税が導入されれば、(フランス並みの座席別定額税で)、約300億円の税収が上がります。この収入の3分の1をエボラ出血熱対策に使っても、約1億ドルですから日本の貢献は大きなものとなるでしょう。

ひるがえって、グローバル化の象徴でもある航空機は、ウィルスに感染した人や感染源となる蚊や動物などを運ばざるを得ず、従ってこれに付随するコスト(緊急対策や国内感染症対策)を負担しなければならないのです。その負担を賄う手段が航空券連帯税で、その税収をエイズ・マラリア・結核等の感染症対策に使うということにより、(航空機で感染者が運ばれるのが圧倒的に少なくなり)世界的なパンデミックにならないで済んでいるといえるでしょう。

ところで、ちょっと古いのですが、GLOBAL POLICY FORUM(米国のシンクタンク) が1997年に『保健対策資金を提供する国際航空課税の草案』という提言をしています。骨子は、「大量の国際的な航空移動により国内での感染症が拡大してきた、それにより感染症対策のコストが上昇してきている、しかし関係組織の能力・資金不足がはなはだしい、従って3~5ドルの国際航空券税を導入すべき」というものです。先見の明があったというべきですね。

今日のエボラ出血熱のたいへんな緊急事態を見るにつけ、航空券連帯税の実現が急がれるところです。もちろん航空券連帯税がなくても、日本政府はODA資金を緊急かつ大規模に提供する必要があります。

10月に国際連帯税のイベントを開催

近年、経済のグローバル化が進展するなか、世界的な貧困や格差の拡大、エボラ出血熱などの感染症の流行、気候変動による異常気象と温暖化の進行等々、という地球規模課題が山積しています。また、2008年リーマンショックにみられたように、カジノ化した金融資本主義が、金融不安と経済危機をもたらしています。このようなグローバル化による負の影響に対して「課税」という方法を用いて抑制するとともに、その税収を上記のような地球規模課題対策への資金とする国際連帯税の議論が国際社会で活発化してきています。

一方、我が国においても2008年に超党派の「国際連帯税創設を求める議員連盟」(以下、議連)が創設され、今日まで国際連帯税フォーラムなどの市民社会グループとともに、日本において国際連帯税実現のために活動してきました。今回議連から「日本での国際連帯税導入に向けた、総合的見地からの検討を行う委員会」の設置要請があり、寺島実郎・日本総合研究所理事長を座長に「第2次寺島委員会」を発足させることになりました。

「第2次」というのは、2009年に当時の議連から「日本での国際連帯税の制度設計、とりわけ通貨取引税についての検討委員会」の設置要請があり、寺島氏を座長に国際連帯税推進協議会(通称、寺島委員会)を発足させたという経緯があり、その委員会を「第1次」と数えるからです。

さて、今日ふたたび議連からの要請に応え、第2次寺島委員会を11月から発足させますが、何よりも国際連帯税に関する情報を知り、かつ広く共有化するための場としてシンポジウムを開催することになりました。寺島座長の基調講演、そして各分野のトップで活躍されている研究者、NGOの方々によるパネル討論を行います。最新情報が満載です。ぜひご参加ください。

※過去の記事はこちらです。

世界中の人々の命と暮らしを守りたい!!「国際連帯税」の取り組みについて解説

世界中の人々の命と暮らしを守りたい!!「金融取引税」の取り組みについて解説

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◇第2次寺島委員会設立記念シンポジウム◇

グローバル連帯税が世界を変える!-環境危機、貧困・格差、カジノ経済への処方箋-

・日 時:10月12日(日)午後1時30分~4時45分(午後1時開場)

・場 所:青山学院大学 9号館22号室(東京メトロ「表参道駅」より徒歩5分)

・資料代:500円

・定員:100人

・申込み:こちらのフォームから申し込みください。

≪シンポジウム概要≫

◆◇主催・後援

・主催…国際連帯税フォーラム

・後援…国際連帯税創設を求める議員連盟

【要請中】動く→動かす(GCAP Japan)、WWFジャパン

◆◇プログラム(予定)

・主催者挨拶:田中徹二(国際連帯税フォーラム代表理事)       

・議員連盟挨拶:衛藤征士郎(国際連帯税創設を求める議員連盟会長、衆議院議員)【要請中】 

<第1部 基調講演>

・講演:寺島実郎(日本総合研究所理事長)             

<第2部 パネル討論>

・テーマ「欧州では今、金融取引税の可能性」(仮題)

上村雄彦(横浜市立大学教授)                  

・テーマ「COP21に向けて:気候変動と資金問題の現状」(仮題)

小西雅子(WWFジャパン 気候変動オフィサー)        

・テーマ「世界の貧困と格差:国連での議論から」(仮題) 

稲場雅紀(「動く→動かす」事務局長)

・閉会の挨拶と今後について

佐藤克彦(国際連帯税フォーラム事務局長、PSI-JC事務局長)

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●執筆協力

国際連帯税フォーラム

国際連帯税フォーラムは、日本と世界とで国際連帯税導入を求めて、2011年6月に設立された組織です。現在、市民社会の11の団体と、多くの専門家・有識者個人と市民が参加しています。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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