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レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「同性愛者が考える日本の家族政策の今後」

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
レズビアンのタレントで同性パートナーと一緒にフランスで暮らしている牧村朝子さん

レズビアンのタレントで同性パートナーと一緒にフランスで暮らしている牧村朝子と、ゲイの活動家でいじめ自殺未遂経験者の明智カイト。全く異なる人生を歩む二人が日本とフランスのLGBT事情について語り合います。

●過去の記事はこちらをご覧ください。

レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「日本とフランスのLGBT事情について」

レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「フランス同性婚法制化の舞台裏について熱く語り合います」

フランスの「PACS(民事連帯契約)」について

明智 前回は牧村さんにフランスで「PACS(民事連帯契約)」や同性婚が成立した背景について教えていただきました。では実際に、牧村婦妻が「PACS(民事連帯契約)」を届け出たのはいつになりますか?

牧村 「PACS(民事連帯契約)」は2012年10月10日に提出して、受理されました。

「PACS(民事連帯契約)」とは「共同生活を送る二名の契約で、相続権や税控除等が認められる」という、いわば準結婚になります。1999年にできた制度です。現在では利用者の約9割が異性カップルですが、当時革新的だったのは「同性間でも利用できる」ということでした。

PACSはフランスでは本当に一般的で、ほぼ結婚と変わらない感覚で利用されています。たとえば「結婚じゃなくてあえてPACSを申し込むなんて、あなた私を愛していないのね!?」なんてモメるカップルは少数ですし、私の友人は「なぜ結婚じゃなくてPACSをしたかって? とっとと手続きを終わらせて、早く新婚生活を始めたかったからさ」なんて言っていました。

ただし、「同性間で結婚は利用できない、PACSだけOK」という状況は、単純に不平等だというばかりでなく、実際に同性カップルに不利益を及ぼしていました。例えばPACSは結婚と違って片方の意思で一方的に解消できてしまいますし、養子の親権もどちらか片方にしか認められません。

また、過去の記事でもお話したように「PACS(民事連帯契約)」では、外国人配偶者の滞在許可が約束されるわけではありません。実際に私も、一度滞在許可が切れた時に妻から引き離されています。

フランスでの同性婚手続きについて

フランスで結婚するともらえる「家族の手帳(Livret de famille)」
フランスで結婚するともらえる「家族の手帳(Livret de famille)」

明智 では、フランスでの同性婚はいつ届け出たのですか?

牧村 フランスで同性婚が法制化された直後でした。ただ、フランスでは婚姻届を出して即結婚が成立するわけではないんです。「この結婚に反対する者は異議を申し出よ」ということで市役所に名前や職業が掲示されたり、最終的に結婚を成立させる宣誓式の日の予約がなかなか取れなかったりするもので(笑)。

私たちの場合は特に長く、届け出から成立まで4か月ほどもかかってしまいました。法律が公布されて手続きを始めたのは2013年5月18日でしたが、妻と私の結婚が成立したのは2013年9月21日です。

結婚してからは、おかげで就労許可つきのビザも下りました。将来的に、妻と二人で養子の親権を持つこともできます。

またフランスの法律上では、妻の(つまりフランスの)実家と私の(つまり日本の)実家が家族であるということになります。「家族の手帳(Livret de famille)」という公的書類にも書かれています。結婚を機に日本の家族がフランスへ来たのですが、両家で観光したり、フランスのお家で日本の豚汁を作ったり(笑)、にぎやかでしたよ。まあ、日本の戸籍上では両家は赤の他人同士にされてしまうんですけれどね。

それから、フランスの結婚では必ずしも苗字は変わらないのですが、在仏日本大使館に行ってパスポートに妻の苗字を併記してもらいました。もし日本で妻と私に万一のことがあれば、このパスポートをもとにお互いの関係を説明しようと思っています。

そういえば、日本国外の法律で同性婚したカップルが結婚相手の苗字に改名したい場合、やはり認められないんでしょうかね?私は特に苗字を変えたいとは思いませんでしたが、そもそも報告的婚姻届が在仏日本大使館の窓口の時点で受け取り拒否されてしまっていますから、きっとダメなんでしょうね。

フランスの家族政策について思うこと

フランス・ベルサイユを走る列車の注意書きステッカー。
フランス・ベルサイユを走る列車の注意書きステッカー。

明智 フランスの家族政策や制度についてはどう思っていますか?

牧村 なんといいますか、国勢調査で同性カップルを誤記扱いしたりする日本と比べて、「いろんな家族の形があるよね」という物の見方をきちんと反映した制度になっていると思いますよ。

例えば、日本ではよく「婚外子差別」という言葉を聞きますが、フランスには「婚外子」という概念そのものがないので、当然ながら「婚外子差別」もありません。また、日本人の私も、「フランス国籍を持っていなくたってフランスにいればフランスの法律で家庭内暴力から守られますよ」という啓発パンフレットを移民局でもらいました。政策・制度の上でも、こういった表現ひとつとっても、「“普通”じゃないから想定外」として取りこぼされる人を一人でも減らそうという姿勢を感じますね。そういった面でフランスは、とても人権意識の高い国だと感じます。

日本ではまだまだ「父親と母親が結婚して、子どもが生まれる」という形が“普通”だと考える風潮があります。しかし、同性カップル、ひとり親家庭、事実婚の子ども、特別養子縁組や里親里子など、様々な家族や子どもたちがいることも見て欲しいと思います。

個人的価値観で「良いか悪いか」を断じる前に、社会的に見て「居るか居ないか」でいえば、居るわけですよね、もちろん。そういった「パパ、ママ、ぼく」の家庭モデルに当てはまらない世帯を、特別な人がいると思って他人事で済ませるのではなく、社会全体で考えていく必要があります。

明智 そうですね、私も日本の家族政策や家族に対する考え方については一人ひとりの個人を大切する社会に変えていって欲しいと思っています。特に日本では社会保障や税制が全て「家族単位」で制度設計されています。しかし、これから様々な家族に対応するためには「シングル単位」で制度設計していく必要があると考えています。

牧村 え、何それ!?

「家族単位」とか「シングル単位」の制度って何ですか? 突然出てきてびっくりしましたよ!

明智 「家族単位」の制度は日本社会のあらゆる領域に張りめぐらされていますので、そのうち二つの例について説明します。

まず企業では、日本の場合、男性世帯主賃金、日本型能力主義、生活給発想による年功制によって、家族制度が貫かれており、女性差別が構造化されています。男性(夫)は家事や育児・介護など家庭における諸労働・雑務を担ってくれる人間=女性(妻)が必要となります。その代わりに会社は男性に妻子を養えるような「家族賃金」を支払い、扶養手当、住宅手当といった世帯主男性に有利に支給される項目を持っています。また育児休業法はできたものの、男性はほとんど取得していません。

社会保障制度も家族単位となっています。社会保障が家族(世帯)単位の発想で設定されていることは独身者や被扶養者数の少ない家族ほど一人当たりの負担額が高くなってしまうという差別を生じさせています。家族を単位とし、妻の社会保険料・税を免除する代わりに、家族=女性に社会保障の代替活動をさせ、世帯主男性の所得を通じて調整=扶養関係を強化するので、女性の経済的自立を抑制しています。

女性に家事・育児を押し付ける代わりに専業主婦の税金を安くするという家族単位政策、すなわち税や保険料、扶養手当による「103万円の壁」で女性の自立を妨げており、働く女性とそれ以外の女性を分断し、パートという非常に不利な条件の労働を女性に押し付けています。

家族単位の社会諸制度は、家族の多様化には対応できず、「標準世帯」以外に不利益をもたらしています。

牧村 では「シングル単位」のほうはどういうイメージですか?

明智 「シングル単位」は家族がいるかいないか、どんな家族かに無関係に、個人の自由を大切にするための仕組みがシングル単位制度です。各人は、パートナー込みで考えず、自分の食いぶちは自分で稼ぎ、同時に自分で家事をする。子どもがいるなら、男女にかかわりなく自分で育児をする。ジェンダーに関係のない、社会作りを目指すことが、シングル単位化のイメージです。当然、社会保障や税制も「シングル単位」で、ということになります。

牧村 なるほど、そんな考え方があったんですね。

明智 牧村さんのお話を伺ってみて、フランスでは同性愛者とかLGBTとか関係なく社会全体に対して、きめの細かい制度を採用していると思いました。

私もフランスのことを調べてみたのですが、フランスは家族の多様化や女性の社会進出に対応するため、幅広くかつ手厚い家族給付のメニューを導入してきました。また、低所得層やひとり親世帯、障がい児等を含めた幅広い層への支援、認定保育ママ制度や保育所整備に対する家族手当金庫の支援も行っています。そして、多様な働き方を可能とする柔軟な育児休業制度など仕事と家庭の両立支援施策を導入・推進しています。

「社会全体で子どもを支える」「子を持つ家族が不利益を被らないようにする」というフランス社会の取り組みは家庭、地域、企業が担ってきた結婚・子育ての機能低下が指摘される日本にとって学ぶことが大きいのではないでしょうか。もちろん、「PACS(民事連帯契約)」や同性婚もですけどね。

牧村 そうですね。「婚活支援します!」とか「SHINE! 女性のみなさん、輝きましょう!」とか画一的な価値観を提示されるより、「あなたは結婚でもPACSでも事実婚でも独身でも選べますよ。どの道を選んだとしても、あなたの性別や性的指向や人種や宗教などで不利益を被らないよう法律が守りますよ」って選択肢を用意してもらった方が、それぞれが主体的に生きられるより成熟した社会だと感じます。

だって、自分の生き方は、自分で選び取りたいものね。

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牧村朝子

【ブログ】

牧村朝子オフィシャルサイト

【プロフィール】

1987年生まれ。2010年、ミス日本ファイナリスト選出をきっかけに、杉本彩が代表を務める芸能事務所「オフィス彩」に所属。フランス人女性とパリでの結婚生活を送りながら、人間の性のあり方について各種媒体に執筆・出演を続けている。著書「百合のリアル」(星海社新書)。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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